0.3 JAL B777飛行機の墓場ツアー(2/3)ローパスの高度は?そしてDCL、TSAT

先日、JALの777-200ER、初号機が離日 ”飛行機の墓場”をローパス (aviationwire.jp)の記事をご紹介した際、私は一体、どれ位の高度でローパスしたのか気になっていて、記事にも書かせていただきました。ありがたいことに、記事掲載の直後に、ある読者の方からその私の疑問に対する答えとその他の貴重な情報をいただきました。先に答えを言うと「60m」くらいのようです。

 

その方は大の飛行機好き!正確な知識と情報でリサーチ力が半端ない、語り口が面白く、私がいつも参考にさせていただいているブログ「PAXのひとりごと」さんの想像上の人間像に似ているように思えて、勝手に「『PAXのひとりごと』さんらしき人」と呼んでいます。RNAV Route って - PAXのひとりごと (goo.ne.jp) 

 

しか~し、この方の知識たるや、専門的過ぎて宇宙人レベル。私は何度も質問させていただいてやっと理解できる状況です。なので今回、「『PAXのひとりごと』さんらしき人」に許可をいただいて、教えていただいた内容に私の拙い「なんちゃって通訳」を入れてご紹介したいと思います。

 

<ローパスの高度について>

PAXさん:昨日の投稿にあったJA701J KVCVですが、LancasterからHDG 090 Approach~Right Traffic PatternでDownwindにはいってVisual。

通訳:今回、ビクタービル空港をローパスしたJAL機は、ランカスターという地点から針路を東にとって進入、右旋回で目視による飛行へ。

 

PAXさん:RWY 17上空をQNHでのALT3000’(地上高200’)(ほぼCAT 1 Approaching Minima)で飛行後、Right Traffic PatternでMinimum Circlingして、もう一回、Low Passしたようです。

通訳:滑走路17のローパス高度は、海抜高度約3000フィート(即ち、地面からは約200フィート(60m)の高さ)。これは計器飛行方式のCAT 1運航の際、目視物標などを視認できない場合にそれ以上低く降下できない最低高度にほぼ等しい高度。その後、右旋回して小さい半径で回って、もう一度ローパスしたようです。

 

PAXさん:Indicated Air Speedは、MCP SPEED 170 KT setだったと思われます。RWY 17通過時は、Wind Componentが25 KTくらいあったようなので、GSは145 KT前後で飛んでますね。IAS 170 KTだと、Clean Configurationでも飛行できますが、Flap 5又は10だったかもしれません。

通訳:自動操縦の対気速度設定は170ノットだったと思われる。滑走路17を通過時、向い風成分が25 KTくらいあったらしいので対地速度は145ノット前後。対気速度170ノットだと、フラップやギアを格納したままでも飛行できるが、フラップ展開の角度は5又は10だったかもしれない。

 

また、クリーン形態で対地高度200フィートまで降りると、EGPWSという警報が作動してしまうそうなので、少なくともフラップは出して、「Too Low Flap」の警報は避けたはずではないかとのこと。本来は、ギアも出さないと「Too Low Flap」警報が鳴るらしいのですが、ギアを出すと客室内の騒音が増すので、そこは「GPWS Inhibitスイッチ」を使って回避したかもしれないということでした。

 

これだけの情報を、瞬時に調べちゃうのは、やっぱり宇宙人レベルです。

 

参考:

メートル×3.3=フィート(概算ですが、10,000メートルは33,000フィートって覚えてます)

1ノット:1時間に1海里(Nautical Mile)(約1.8㎞)進む速さ

対地速度:飛行機の地表面に対する速度(追い風だと速くなるし、向い風だと遅くなる)

対気速度:飛行機の空気に対する速度、速度計が計測する速度(空気の粒が計測器に沢山入れば速度は速くなるというイメージ)

クリーン形態:飛行機のフラップもギアも展開していない飛行形態、反対にフラップやギアが出ているのはダーティ(別に汚れているって言いたいわけではない・・・)

 

<DCLとTSAT>

JALの777-200ER、初号機が離日 ”飛行機の墓場”をローパス (aviationwire.jp)の記事の上から4つ目の写真をご覧ください。パイロットの方が、何やら紙きれを持っています。同記事には「羽田を出発前に、管制官からコックピットに送られてきた出発許可のテキストメッセージ「DCL」の最後には「SAYONARA JA701J」とあり、離陸後の交信では「20年間お疲れさまでした」と管制官からもねぎらいと別れの言葉が贈られた。」と書かれていますが、「DCLって何?」と思っていると、その資料をいただきました(テレパシーか・・・)。

 

それによると、DCLとは「Operation for Departure Clearance by Data Link」のこと。出発前のATCからのClearance(許可)を無線の会話ではなく、エーカーズ(ACARS)を使ってテキストメッセージでもらうオペレーションのことのようです。ですから、今回のJAL機も「DCLオペレーション」だったんですね。DCLオペレーションは、羽田、中部、関空は24時間、成田、伊丹、福岡、鹿児島空港では一定の時間帯に、機体にACARSが装備されている場合に運用されるそうです。

 

そして、写真の紙きれをよ~~く見ると、最後の行の「SAYONARA JA701J」の文字の前に何やら「TSAT 1100」と書かれていたのが気になっていました。すると、その説明資料も届いていた・・・笑。

 

資料によると、TSATとは、Target Start Up Approval Timeのこと。つまり航空機がブロック・オフ(飛行機の前輪を挟んでいるあの角材(ブロック)みたいなのを外して(オフ)飛行機が動き出す時間)の許可をもらえることが予定されている目標時間のことだそうです。「11:00」はUTC(世界協定時)ですので、このJAL機のTSATは、羽田空港では+9で20:00のはずです。

 

で、このTSATは、もしかしたら、ボーディング・ブリッジで飛行機に乗る時に見えるかもしれません。飛行機が駐機場でターミナル側に機首を向けていると、その正面のターミナルの外壁に電光掲示板があるのを見たことはありませんか。あそこに「TSAT 10:10」とか表示されるそうです。今度、飛行機に乗る時に見てみようと思います。ちなみにその電光掲示板のことを「Visual Docking Guidance System(VDGS)」というそうです。

 

もう一つ、このJAL機、羽田を出発する際に「ロケットスタートしま~す」というパイロットのアナウンスがあったと報道されていますが、それって単なる「Short-Field Takeoff(短距離離陸)」じゃないの?と思っていたら、またまたご説明をいただきましたので、それは私の訓練中の出来事も含めて、次回のコラムでご紹介したいと思います。

 

知れば知るほど楽しくなる飛行機のオペレーション(運航)ですが、今日はこの辺で。

 

「PAXのひとりごと」さんらしき人、ありがとうございました!