タイトルが受験期の話なのに勉強の話は一切しません。だから勉強の話だと思った人はごめんなさい。違います。

 





私は今年の2月まで受験生だった。塾に通い始めたのは高二の秋。それから一年ちょっと毎日勉強して、第一志望に合格できた。これを書くのは、恋を文字にしたかったから。忘れられないから文字にする。忘れるために文字にする。後悔を消そう。人生に後悔はないけど、恋に後悔はつきものです。

 



愛を込めて、いつもすみっこの席を好んでいた彼のことをここではすみっこぐらし君と呼ぶ。

私が受験を頑張れたのは、間違いなく好きだった君、すみっこぐらし君、フクシマタクミ君、彼のおかげだ。

私にこんな文章を書く資格はない。私が通っていた塾は東進衛生予備校で、生徒同士で関わることはほぼなかった。そして私は塾に一人も友達、知り合いさえもいなかった。塾で見かける彼と私に接点はただの一つもなくて、作るのも難しかったと思う。一丁前に傷つきながら、彼に近づく努力は一ミリもできなかった。理由をつけて、いつも傷つかないように自分のプライドだけを守ってきた。だから彼は私にとって何度も頭の中で再生される、限りなく、この世で最も美しいものに近い存在だ。本当の彼を、私は本当に知らない。彼の名前は知ってる。彼の顔も、匂いも、声もかすかに知っている。でもそれ以外は何も知らない。彼を知っていたらどんなによかっただろうか。どんな話ができたかな。でも私にはそんなことしか考えられない。だからいつも心の中で謝ってる。勝手に君を好きでごめんね。何もできなくてごめんね。それさえも言えなくて、またごめんね。

 



当時名前も分からなかったすみっこぐらし君のことをなぜ好きになったのか。それにはたくさんの理由があった。彼のことは結局何も知れなかったけど、彼のいいところはたくさん見つけた。彼はいつも扉を閉める時、音が鳴らないように閉めてた。それは何気ないことのように思えるけど、そんなことをしている人は私を含めて誰もいなかった。無意識にやっていたのかもしれないけどそれは間違いなく特別なことだった。それに気づいてから、消しカスを毎回必ずゴミ箱まで捨てに行っているのとか、いつも塾から帰る時「さよなら」って軽くお辞儀しているのとか、友達が盛り上がってるのを座って見てるのとか、どんどんいいところを見つけることができた。そして私にとって決定的だったのが、匂い。その日、私の隣の隣の席にたまたま彼が座ってきた。そしたら2個隣からいい匂いがした。その時、その匂いは一瞬で脳みそまで届いた。そうだよな、この人はいい匂いがするよな、こういういい匂いってあるんだなと謎に納得した。結果的にその匂いが私を追いやった。恋だと認めざるを得ない状況へと追いやった。その日から彼は私の好きな人、高校3年間で初めて良いと思った異性になった。その時私たちは受験生で、死ぬ前に思い出すくらい勉強しろと脅された勝負の夏はもう始まっていた。お互い本気で勉強していて、恋をするには最も向かない状況だったと思う。でも、彼がいるから塾に行かないという選択肢なんて生まれなかったし、いるから頑張ろうと思えた。夏を越せた理由はそれが全てだ。

 



冬になって彼に告白しようと決めた。受験に受かって、彼に告白しよう。私にとって一番望んだ結末は、彼の恋人になることではなくて、彼に好きだと伝えることだったと思う。いろんな可能性があったような気がする。何も知らない同士なりに、いろんな未来があったと思う。それは、ほとんど全部私次第だった。いろんなチャンスを逃しながら、なんとか掴もうと頑張った。できることはいっぱいあったと思うけど、最善は尽くしたと思う。

受験が始まると彼と会うことは全く無くなった。塾で顔を合わせることももうなかった。会えなかったら告白もできない。正直こんなに会うのが難しいことだとは思わなかった。そもそも私は彼の志望校がどこなのかも知らない。知らないから何もできない。でもそれは半分事実で半分言い訳。

 




春休みに一度だけ駅で彼を見かけた。会いたいと思っていたら本当に会えたから、それはそれは嬉しかったけど結局、時間が止まって体も止まって思考も止まった。つまり何もできなかった。それがすみっこぐらし君を見た最後だ。彼は東京の大学に進学したと後から知った。

 




受験が終わって恋も終わった。何も起こらなかったけど楽しい恋だったと思う。たまに同じエレベーターに乗れたこととか、彼の隣の席に座れたこととか、お正月に初めて会話できたこととか。思い出して嬉しくなることは全部私のお守りになった。毎日元気でいいて欲しい。たくさん食べて、たくさん寝てちゃんと毎日過ごしていてほしい。多分、それが私にとっての「好き」だった。最初からとても遠かった。遠いけど私にはよく見えた。目がよくて良かったって初めて思えた。見たい時に見たい人見れる。伝えたいことがあるなら、伝えたい人にすぐに伝えた方がいい。それを伝える小さな勇気も持っていた方がいい。好きとか愛してるじゃなくても、新しい髪型いいねとかご飯おいしかったとかそんな些細なことでも。

 

 



大学は私にはすぐに楽しい場所ではなかった。辛い時いつもすみっこぐらし君を思い出す。君はどこかで震えていないだろうか。なんて考えてしまう。もう少し、大学は楽しくないと思う。もう二度と彼に会うことはないと思う。まぁでもそれでいいのダ。