1990年代のアメリカがメインの舞台となる。 

漫画のプロットとして書いたので
穴だらけなのはご容赦を。

―――――大まかな話筋ーーーーー

とある、一軒家に女性のキンキン声が響く。

ここは静かな住宅街だが、
どこか古めいた印象を受ける。
その一角から、その声は聞こえた。

「貴方は変わろうと思わないのね!
もう終わりよ!  さようなら!」
と一人の女性がドアをけたたましく閉めた。

そして、車へと乗り込み、早々と去っていく。

中には一人の男性がいたが、
彼女を追いかける風でもなく、 ただ、
タバコをふかしながら窓辺に腰掛けている。

中は物が散乱し、踏み場はあるものの、酷い有様だ。
髪はボサボサ。くたびれたワイシャツ。
彼はため息をつくと、ポツリとこぼした。

「結局・・・てめえは金と結婚したんじゃねえか・・・」

そのまま仮眠を取りに行こうとすると、
今度は電話の呼出音に邪魔をされる。

受話器を取ると共に、今度は年老いた声が怒号で
受話器から飛び出てきそうだ。

「ギル!何度言わせれば済むんだ!
今度は聴聞会じゃあ済まさんぞ!?」

その声に、
家の主であるギルバートは深いため息をついた。

「あの処置は・・・・」
言いかけると共に、電話元の主、病院長に遮られる。

「もういい・・・。お前の尻拭いはもう懲り懲りだ。」

ここまでか・・・・。とタバコの煙を深く吐き出した。

「もう一度だけチャンスをやろう。
この条件をクリアしたら、今回の一件はチャラだ。
いいな?」

有無を言わさず。と言ったところか。
少し間を置いてから。

「なんだ?・・・」話を続けようとすると、
「とある、お得意先から、「預かった物」がある。
その「面倒」を見てくれ。それと、

お前は暫く謹慎処分だ。」
と言うなり、電話主は電話を一方的に切った。

「こっちの意見はシカトかよ・・・」
バツの悪そうな顔をする。

すると、
タイミングを測ったかのように、チャイムが鳴る。

「開いてる」とそのまま返すと、
顔なじみが入ってきた。
見知らぬ少女を連れて。

「これはひどいわね。少し片付けて行くわね。」

同僚の女性、キャサリンが言う。
片手には買い物袋。
片手には少女。

怪訝な顔をするギルバート。
「なんだ、ソイツは。」 
転がってるクッションを蹴って寄せながら、
キャサリンに歩み寄る。

「院長からお達しよ。
暫くこの子を預かって欲しいのですって。」
と言うと、すぐに続けて、ため息を付きながら

「ギル、貴方。今回は何をやらかしたの?
院長はカンカンよ?」
と「全く・・・」と顔に出ている。

「術式変更をしただけだ。」
と簡素に言うと、
「それだけじゃないでしょう?」と突っ込まれた。

フン。とソファー(に向かってどっかり座ると、

「謹慎だとよ。」

と煙を吐き出しながら言い捨てた。

「で、そのガキはなんなんだ。」と
少女を睨みつける。

「この子はレインちゃん。年は14歳だそうよ。」
と肩に手を乗せるキャサリン。

レインはその手を振り払うと、
キッチンの影に隠れた。

「なんだ?」と見にくるギルバート。
「この子、ずっとこんな感じなの。」
とキャサリンが返す。

「もしかして、虐待されたんじゃないかしら?」
と悲しそうな目でレインを見る。

ギルバートは天を仰ぎ、目を手で塞ぎ、

「・・・・おいおい。マジかよ・・・」と、
今度は項垂れる。

「コイツを預かれっつーことか?」と言うと、
「そうなるわね。」とキャサリンが片しながら返す。

自らの頭をガリガリとかき回すと、
ブツブツと文句を言いながらソファーに横になる。

「勝手に押し付けやがって」 と吐き捨てると、
そのままギルバートは浅い眠りに入った。

キャサリンが
「物は冷蔵庫に入っているから、、
ちゃんと食べさせてね」と言って、家を後にする。

ソファーの上で
無防備に寝ているギルバートを目にする。
どう映っているのか、レインはソロソロと近寄り、
ソファーの近くのカーテンを体に巻き、
ギルバートの近くで寝息を立てるのだった。

すっかり、日が暮れ、星が輝き始めた頃、
ギルバートが目を覚ます。

(寝すぎたか・・・?)と頭をポリポリとかいた。

タバコに火を付ける。
そして、部屋の灯りを付ける。

見渡すと、
女性が叫んで言った後の部屋よりは、
かなり片付いた部屋が見て取れた。

(ん?)
ふと、気が付いた。
(あのガキどこ行きやがった? 
・・・・・・キャサリンが連れ帰ったのか・・・・・?)

部屋を見るとレインの姿が見えない。

(ま・・・・・いいか)
とウィスキーとグラスを片手に、ソファーへと戻る。

ふと、見ると。

「うぉ!?」
驚いた。

レインはカーテンにくるまって、
すうすうと寝息を立てていた。

ギルバートは固まったまま、
レインを少しの間見ていた。

「・・・・・・・・・・・マジかよ」

ウィスキーをグラスに注ぐと、
ため息をつきながら、一杯飲み干した。

(こんなガキどうしろってんだ。
外に投げちまうか?
隣の家はガキが何人かいたな・・・
そこに投げ込めば・・・)

悶々と考えながら酒を飲んでいると、
物音がした。

物音を立てた主は固まっている。
ギルバートは頭を抱えながら、

「夜は冷えるぞ、ベットで寝ろ」
と話しかけた。

レインは固まったままだ。

やれやれ、と言いながら近寄ると、
レインはビクビクしながらキョロキョロ見回し、
誰もいない場所へと逃げていく。

「変なガキだな」そう言いつつ、
過去の自分の記憶が蘇る。

ギルバートも子供時代は親が不仲であり、
よく親が騒ぎ始めるとあちこちに隠れては
耳をふさいでいた。

何も言わず、
冷蔵庫からキャサリンが買ってきた
果物とジュースを出すと、
レインより離れた低めのテーブルに置いた。

自分はウィスキーに合いそうな物を物色し、
元のテーブルへと戻る。

そのまま、黙ってウィスキーを飲み続けた。

数十分後。

そろそろとレインが出てくると、
喉が乾いていたのだろう、
ジュースをコクコクと飲み始めた。

そして、ギルバートをじっと見つめている。

ギルバートは視線を感じながらも、
そっぽを向いたまま、
ウィスキーを半分まで開けていた。

一步。
また一歩。

とレインは近寄ってくる。

ギルバートはレインの方向を向くと、
ジュースのあるテーブルまで
レインはサッと移動する。

妙な空気が流れる中、
これからどーするか・・・と思いふけるのだった。


ベットに行け。と言っても、
分からずか、隠れるばかりだ。
目を合わせれば隠れる。
声をかけても隠れる。

気が短いギルバートには、
この「言うことをきかない子」は
かなり厄介に思えた。

風邪をひかせたら何を言われることか。
とうとう、たった数時間で気の短さが祟り、
ギルバートはレインに怒鳴ってしまった。

「ベットで寝ろ!」

その声に呼応するように、
レインはビクっと反応すると、青ざめて震えだした。

「勝手にしろ!」とその部屋を後にすると、
ギルバートは自分の寝室に潜る。

しかし、長すぎた仮眠のせいか、
中途半端に目が覚めた。

「・・・・・おい?」

部屋を出て、リビングへと向かう。
まだ、灯りが付いており、
ウィスキーもそのまんまだ。

「・・・・おい」

見渡す限り、レインの姿は見えない。

(・・・まさか・・・・)と外を見る。
外は肌寒く、まだ冬の空気を残している。

目を凝らして見ても、レインの姿は見当たらない。
すると、「カタ」と音が家の中から微かに聞こえた。

レインはキッチンの隅っこで膝を抱えて眠っていた。

(・・・・・・よくわかんねえな。虐待児じゃねえのか・・・?)

レインを見下ろし、その手に少し触れる。
手は冷たくなっていた。
微かに体も震えている。

ギルバートは寝室から毛布を持ってくると、
レインにそっと毛布をかけ、
冷たい空気が隙間から入らないように、
慎重にくるんだ。

そして、部屋の暖房をつけ、
自分も寝室から毛布を持って、
その日はリビングのソファーで一晩を過ごした。

この子はどこから来たのか、
どこのお偉方の子供なのか考えあぐねながら、
そのうちにうとうとと睡魔が襲い、
眠りに落ちるのだった。

ふと、レインは目を覚ました。
寒さに震えていた体が暖かい。

自分に毛布が2枚もかかっていて、
部屋も暖かいことに、気が付いたようだ。

そろそろと、ギルバートに近寄る。
ソファーにだらしなく寝ている。
眼鏡がずり落ちそうだ。

レインは落ちそうな眼鏡をそっと持つと、
眼鏡を覗き込んだ。

そのまま、あたりを見渡す。
視界がぼやけて見える光景が、珍しかったのか、
随分眼鏡であちこちを見ていた。

そして、
ピントはギルバートに定まり、
ずっと覗き込むレイン。

「・・・・・んん・・・・・」と
ギルバートが寝返りを打ちかけ
落ちそうになる。

その不安定さで目が覚める。

(・・・ああ、寝ちまったのか。)と
ボーッと働かない頭で考えた。


そして、視線を下に向けて、一瞬固まる。

(は?!)
レインはギルバートの眼鏡を持ち、
レンズ越しにギルバートを見ていた。

「・・・・・・・・・・・・・・おまっ・・・・・・」
言いかけると、また固まる。

はあ・・・とため息をつくと、
冷蔵庫に向かって歩を進める。

(なんだ?なんなんだ??)
と謎に思いながらも冷蔵庫に手をかける。

そして、また固まるハメになった。
後ろにレインがついてきていた。

息を飲みながら、

「の・・・・・・飲むか?」

と恐る恐るジュースを向ける。
レインは無反応だった。

ただじっとギルバートを見ている。
はあ・・・とため息をつくと、
ジュースをグラスに注ぐ。

そして、飲もうとすると、
そのグラスは目の前から消えた。
レインがごくごくと飲んでいた。

呆気に取られ、
あんぐりしたままギルバートはレインを見ていた。
そして、飲み終わると、
レインは初めてギルバートへにっこりと笑顔を見せた。

「・・・・・・・・・・っ」

自分の心臓が跳ねるのを、自分で驚いていた。

(何やってんだ俺は!)

別のグラスに新たに注ぐと、
それもレインに奪われる。

「俺のだっつってんだよ!」
と子供のように、
いつの間にかギルバートは
レインとジュースを奪い合っていた。

料理は得意ではない。
ぐちゃぐちゃなスクランブルエッグ。
コンロの周りはまるで、
何かを盛大にこぼしたように見える。

部の悪い顔をしながら、ギルバートはその。
スクランブルエッグ「らしき」物を一口食べる。

「・・・・・・うぇ・・・」と言いながら、
「まずったな。朝からこんなもん食えってか・・?」
と、
先日買われて冷蔵庫に入っていた果物を見つめる。

と、その失敗作を手で一掴みすると、

レインが口に入れた。


「お・・・・・・おい! コラ!!」
と焦るギルバート。

更に手を伸ばすレインに、皿ごと上に持って行き
「コレはダメだ! コレは!」と
レインをのかそうとする。

が、
勢いよくあちこちに振り回した

スクランブルエッグらしきもの

床に落ち「あーあー・・・」と、
ギルバートにため息をつかせた。

だが、
その床に落ちたスクランブルエッグらしきもの
を、更に食おうと、
床に落ちたそれを拾いレインが口にする。

ゲッ・・・と言う顔をすると、
急いで落ちた物を始末する。
それを食おうとするレインと格闘しながら、
なんとか片付けるギルバート。

バケツを洗いながら盛大なため息をついた。

(・・・なんなんだ?本当にコイツ、
金持ちのガキか?なんなんだ?)
と考えた込んでいた。

床に落ちた食べ物を食べるレインを思い出す。

(どこの孤児だよ)

床を片付け終わると、
レインの口周りがギルバートが作った失敗作で
汚れているのが目に付いた。
捨てておけばいいか。そう思っていた。
最初は。

なんなんだ? なんで振り回されてんだ?俺は。
そう思いながら、
今度はレインの口周りを拭き取ろうとすると、
体をこわばらせ、逃げていき、
カーテンにくるまる。

(なんだ・・・・?)

虐待児なら早々懐かない。
だが、一晩で慣れたような素振りだった。
さっきもジュースを取り合ったと言うのに。

だが、カーテンにくるまったおかげで、
口元は綺麗になっていた。

そこへチャイムが鳴る。

「ギル。おはよう。起きてるわよね?」
キャサリンだ。

ギルバートはキャサリンを迎え入れる。

レインは更に頑なになり、
カーテンにぐるぐる巻きになっている。

(なんなんだ?)

キャサリンがレインに近づいて

「おはよう、レインちゃん」
と言うとレインはキャサリンをまるで睨むように、
無表情に近い表情で見つめる。

「カーテンが好きなの?」
とキャサリンが触ろうとすると、
レインはカーテンから逃げ、
家の奥へと走っていく。

「おかしいんだよ、コイツ」とギルバートが言う。


深くは考えてはいなかったが、
どこかで何かがおかしいと感じていた。

「そうなの・・・・。出会った時も、
ちょっとなんだか読めなくて・・・」
とキャサリンも頭をかしげた。

そうそして、コンロを見ると

「盛大にやってくれたわね」

と言いながら、コンロを片し始めた。

バツの悪い顔をしながらリビングを後にし、
レインを探すギルバート。

(外にゃあ出ねえよな・・・)

ひとつひとつ、部屋を確認していく。
すると、
奥の部屋でうずくまっているレインを見つける。
息が荒く、顔色は良くない。

「どうした!? おい!」

力なくギルバートに抵抗するも、
ギルバートは無理やり抱き上げ、

「キャサリン!コイツ病気持ってるのか!?」
とキャサリンに問いかける。
「厄介モン押し付けやがって・・・!」
と言いながらも心配でならない。と言った感じだ。

キャサリンはすぐに、駆け寄り、
レインの触診をする。

「今日は病院に行きましょう?
大丈夫だったら、戻って来れるから・・」

となだめるが、
レインは苦しみながらも逃げようとする。

「院長には伝えるわ、
今日はこのまま病院に一緒に行きましょう」

キャサリンの意見に賛同し、
ギルバートがレインをがっちり羽交い締めにし、
キャサリンの車で病院へと向かうことにした。

検査の結果、
レインは心臓があまり良くない事が判明する。

「少し入院させたいんですけれど・・」
とキャサリンが院長へ申し出る。
だが、レインはギルバートの後ろにしがみつき、
離れようとはしなかった。

ギルバートが
レインの「付き添いをする」
と言う条件で、
レインは精密検査をすることになる。

一番の難関は、
レインがベットに寝ないことだった。
点滴も嫌がり、検査も嫌がる。
数日に絞込み、なんとか検査入院を終わらせ、
結果はキャサリンが伝える。

ということで、病院生活は4日で終わらせ、
不眠不休で格闘したギルバートは
レインと共に帰路に着いたのだった。

翌日。
チャイムを鳴らしても鳴らしても、
ギルバートが出てこない。

キャサリンは検査結果を持ちながら、
心配していた。

「ギル?ギル!?」
ノックをしても出てこない。
キャサリンは焦りながら、家の裏に回る。

そこで目にしたのは、
ソファーに熟睡するギルバートと、
その横に寄り添って熟睡しているレインだった。

キャサリンはため息をつきながら

「ギル!」

と何度も窓の外から呼んだ。

なんとか目覚めたギルバートは、
玄関に回るように伝え
玄関に自分も回る。

そして、
そのままレインの心臓の悪さを指摘され、
頭が真っ白になりながらも説明をうろ覚えで聞く。

「とても良いとも言えないの。
見て。ギルならわかるでしょう?」

見せられた写真には、
もう、手術不可能とも言える状態の
レインの心臓が映し出されていた。

(夢・・・だよな・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・
俺なら・・・     俺なら・・)

自問自答するが、どう考えても成功率が低い。

「分かった。いつも悪いな」とキャサリンに礼を言い、
「頼む、考えさせてくれ」と
更に告げるとキャサリンは

「ギル・・・無理はやめてね?」
と言い残すと、ギルバートの家から立ち去った。

眠るレインを見ながら、ギルバートは思った。

(コイツ・・・ここに来て何日目なんだ・・・?
たった数日だって言うのに何動揺してんだ?
死ぬ奴なんて飽きるくらい見てきただろ・・・?!)

いつの間にか、
自分の目から零れ落ちる物を、、

止める事ができないでいた。

レインが目覚める。
ギルバートを見ると、にこにこと笑う。
(激しい運動さえしなければ・・・)
と思いつつ、
あまり他人が寄り付かないように、
電話で頼み込むギルバート。

他人を警戒するレインは、
自分の領域に誰かが来ると

「走って逃げる」

それを阻止するためだ。

その日は暖かかった。
シトシトと、霧雨のような雨が降っていた。
ギルバートは、玄関に座り込み、
病院から受け取った
レインの心臓の写真を眺めていた。

色々な術式を考えては、頭を抱える。
それを知らずか、
レインが家から出てきて
雨の中をクルクルと踊るように回って、
雨を楽しんでいた。

ふと、そんなレインを、
ギルバートはボーッと見つめているのだった。

「随分懐いたわね」とクスクスと笑うキャサリン。

レインの頭を
ガシガシと拭き着替えさせるギルバート。
ギルバートには、なされるがままにまでレインは
ギルバートには気を許していたようだった。

雨が降ると、
レインは外で着のみ着のままではしゃぐことがあり、
ギルバートはそれを許していた。

雨に当たったあとは体をしっかり温めた。
心臓に負担がかからないように。
けれど、レインのしたいように。

いつの間にか、当たり前になってきていた。

レインはベットにちゃんと寝るようになった。
ただし、
ギルバートと同じベットでないと寝ない。
ご飯をちゃんと食べるようになった。
ただ、ギルバートと同じものを食べる。
外にはギルバートがいる所にしか出ない。
ギルバートもまた、それに否定も反論もなかった。

ただ、
この小さな少女を救う方法を考えあぐねていた。

良い結論が出ないまま、時間ばかりが過ぎる。

その日は少し寒かった。

キャサリンが休暇だと言って、
家にご飯を作りに来ていた。

レインは明らかに機嫌が悪そうだ。
キャサリンのそばに寄ろうとしない。

ギルバートとキャサリンが近寄ると、
キャサリンの足をわざと踏んだりした。

明らかな「嫉妬」だ。
キャサリンにはわかっていたが、
自分の感情もまた、複雑であった。

(ギルは貴女の物じゃない・・・!)

小さな嫉妬心だった。

キャサリンが作った昼ご飯を、
レインは投げつけ、床に落として踏みつけた。

ギルバートは叱りつける。
悪いことだと「教える」為に。

キャサリンは
その小さな嫉妬心を爆発させてしまった。
レインをひっぱたいてしまったのだ。

レインは一目散に玄関から走って行ってしまった。
キャサリンを落ち着けようとしていた隙だった。

「レイン!」

必死に探すギルバート。

外は冷たい雨が降っていた。
キャサリンが傘をさしながら
ギルバートに駆け寄り、謝る。
だが、
その謝罪の言葉は
ギルバートには聞こえていなかった。

時間だけが過ぎていく。

一分が長く感じた。
同時に、短くも感じた。

キャサリンがギルバートを追いかけ、
教会の隅に来た時だった。

薄桃色が見えた。

「レイン!!」

ギルバートが抱き起こす。
もう日も傾きかけ、
長時間雨に打たれたレインの体は氷のようだった。

キャサリンが駆け寄る。

「レインちゃん・・!」

何度もレインを呼ぶギルバート。
通りかかった人間が集まって来る。
その中の誰かが呼んでくれたんだろう、
救急車が来るのが聞こえた。

心臓は辛うじて動いていた。
病院へ救急搬送されるレイン。

「俺に・・・!俺に切らせてくれ!
俺なら出来る!あの術式なら・・・!!」

病院長に掴みかかり、懇願するが、
「お前は謹慎中といったはずだ!
身の程をわきまえろ!」
と一蹴されてしまった。

ギルバートは地面に額を擦りつけて懇願する。

「頼む・・・! 頼む! 他じゃダメなんだ!
聞いてんのか!!俺はレインを助けたいんだ!!」

その叫びは虚しく、
院長が手術室の中に消えていく。


「俺にやらせてくれええーーー !」

叫ぶギルバートをキャサリンが抑えようとする。

「辞めて!ギル!
今やったら、確実に免許剥奪されるわ!」
そう言って腕にしがみつくキャサリン。

「貴方にはまだ救える命があるわ!・・・お願い!!」

そんなキャサリンを振り払い、
手術室にしがみつくギルバート。

「頼む・・・・・・頼む! 
クビにでもなんでもしてくれていい!

レインを・・・・
レインを返してくれ・・・・・・・・・・!返してくれーー!!」

ただ、その叫びが響くだけだった。


無言の車内。
キャサリンはギルバートを家まで送って来ていた。

自分の車もあったからだ。

家に入ると、そこは昼のままだった。

「うあああああああああああああああ!」

叫びながら家具と言う家具を倒し、
物を投げつけ、部屋はメチャメチャになった。

「辞めてギル!辞めて・・・!」

キャサリンが泣きついても、
ギルバートは収まることはなかった。

「・・・・帰ってくれ」

キャサリンが泣きながら立ち尽くしていた。
そのキャサリンにギルバートが言い放った。

「・・・・・・・・・・帰ってくれ!!」

キャサリンは静かに出て行った。
ソファーに座り込み


「どうしてこうなった・・・・?」

と壊れた人形のようにギルバートは言い続けた。

やがて、
涙も引いた頃ギルバートは一本の電話に気がつく。

「・・・そうか」

その一言を返すと、電話ごと投げ飛ばした。
そしてそのままへたりこみ

「・・・・・レイン」

また、引っ込んだはずの涙が零れ落ちる。

どこで間違った?
何を間違った?
確かに俺は医者としても、夫としてもクズだった。
それは認めていたさ。

どこで俺は間違ったんだ?
なあ? レイン・・・・・。

散らばった床を見ながらそんな自問自答をする。


「・・・・俺は・・・・・・・・・・」

そう言うと
初めて声をあげてギルバートは泣いたのだった。

「ごめんなさい・・・・。レインちゃん・・・・・・・、


助からなかったの・・・。」


キャサリンのその言葉だけが、
宙に浮いているように感じた。





その日は雨が降っていた。

ひとつの墓標の前で佇む男がいる。
花束を持っていたが、手向ける気にはなれなかった。

男は墓を後にする。

ふと、タクシーを呼び止めた。
タクシーの運転手が言う。


「ひどい雨ですねえ、大丈夫ですか? お客さん」
タクシーに乗り込んだ男・・・、ギルバートは言った。

「・・・・・・・・・・・・ああ」

レインとの日々が
タクシーの窓ガラスに映っては消えるように感じた。

そして、ギルバートは口を開いた。




「・・・・・・なあ。あんた、雨(レイン)は好きかい?」


タクシーの運転手は苦笑いをした。
タクシーはそのまま街中へ消えた。


end



現在、ストーリーの大まかな変更は無しに
ストーリーを加筆修正中(別記事)