70点。

 

アイドル斉藤由貴を映画初出演に迎え、ファンタジーとミステリーと恋愛要素を盛り込んだ、彼女のプロモーションビデオの体裁を取り繕いつつ、実質は非常に暗く重いテーマを扱う〝そこはかとない狂気〟を感じるドラマ映画。

 

 

~あらすじ~

那波家でこき使われていた孤児の伊織を引き取り、親友・大介の賛同もあって育てることにした雄一。

それから十数年。彼らが住むアパートに那波家の長女が越してくる。歓迎会の最中、伊織が彼女にコーヒーを運び、再び部屋を訪れると彼女は死んでおり…。

(※Filmarks映画より抜粋)

 

 

あぁ…とんでもない映画があるもんだ。こんなのまともに考察したらおかしくなる。

…何だか、震えてるっぽい。これ、アレだ。私、怖かったんだ。


 

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

□プロモーションとしての完成度は高いと言うか…。

私の斉藤由貴さんのイメージは、お綺麗で可愛らしく、屈託の無い愛嬌のある人間的な魅力に溢れた人。言い換えれば、他者の悪意に疎い人。嫌味とかじゃなく、最上位レベルでモテて当たり前で、その所為で、傷付くことも度々ありそう…。

デビュー当時の彼女のイメージ像、その空気感や雰囲気は不明ではあるけど、人間としての斉藤由貴は描かれていると思いました。

 

メランコリックな音楽に、繊細な雪景色を重ねて…儚げに溶けてしまいそう。

 

違った角度から踏み込んで書くと〝転移性恋愛〟の見方も出来る。相米監督は彼女が19歳の時点で、既に本質が見えていたということ?そんな人間が居るなんて、怖い。

 

 

□長回しのワンカット約14分で、伊織の幼少期を描き切るという力技。

外側から彼女を見ていることを匂わせる何かしらの存在。アイドルにつく精霊のようにも見えるし、視聴者に対しても、彼女を見守る存在であれと言っているようです。

 

 

でも、これが意味しているのは、当映画全体にかかる〝運命〟のテーマを可視化したものだと思う。芸術性の高い(何だか怖い!)機械人形を敢えて、使うことも補完の理由です。時にそれは人間の形をしていることもあって、当映画内の色んな所に出没している。良いことも悪いことも、決して、避けられないとでも?

私は、運命なんて信じないから!

 

 

□孤児としての苦しみと人間関係の複雑さが生む歪んだ描写。

伊織が幼少期、祐一に激しく怒りをぶつけるのだけど、それを、祐一は最後まで受け止めるシーンが私にはひどく刺さった。これで、彼女は本当の意味でどん底から救われるという安堵感と、赤の他人の子どもの面倒を見ていく父性の強い、純粋な意志を感じたから。(ファザコンとかじゃないよ!)それなのに…。

 

 

那波家の長女、裕子は人間としてはまともだ。幼少期は伊織を傷付けたけども、謝りもしないけど、変なコンテンポラリーダンスを見せつけるけど、伊織のことを慮った発言だった。私にはこう聞こえる。

 

 

「私のことは許してくれなくて良い、憎んで良い、謝って許してもらえるなんて思っていない。ただ、世の中をまだ良く解っていない、あなたが傷付かないように…。」

 

そして、殺人事件の被害者になるとか不憫が過ぎる。そう言えば、10年の時を待った祐一の婚約者もまともな人間だった。いや、この状態を待てるのはおかしいのか…。

 

 

裕子とは対照的、一番に伊織と身近なはずの家政婦のカネ。伊織はカネに対して家族同然の思いを持っていたが、カネは伊織に対して最後まで、祐一のお客様でしか無かったこと。それはある意味、仕方の無いことではあるけど、それって大人の理論だ。

 

「あら、綺麗に咲いたわね。…祐一さんは、どうして伊織ちゃんを育てる気になったんでしょうね。聞いてみたことある?こうして、美しいお花が咲くから大事に育てたんですよ。育てられたら咲いて、きちんと恩に報いなくちゃ。花は花なりに。

あなたも早くこのお花のように綺麗な娘さんになりなさい。祐一さんもきっと待ってますよ。」

 

 

思春期に突入した伊織を深く傷付けたことは想像に難くない。誰も孤児になりたくてなった訳じゃないというのに。あまりにも心が無い、無責任な発言が過ぎる。そして与えられるばかりの自分が、与えられるものに気付いて、歪むのだ。

 

 

同じく、孤児であった過去を持つ、養父のひとりで祐一の親友、大介。最後は倫理観が仕事をしていなかったんだけど、周りの善意が、彼をじりじりと追い詰める結果になってた。最後は、伊織を幸せにしたかったから、消えるしかない。罪は償わなければならないけど、そういうことじゃない。これも運命だと言いたいのか。

 

 

□「偽善者」がトリガーになってた。

お父さんと呼ばせていないのは男二人が養親状態だったからかなとか思ってたけど。

その言葉って、親じゃない宣言と同義だもんね。祐一だけは最後まで、父性を貫いて欲しかった。ここの伊織と祐一の心情は考えれば考えるほど、病んでしまいそう。

 

 

 


□いろいろ、無理があるシナリオ。

無理があって良いです。これで綺麗に整合性があったらとんでもない。いっそのこともっと、ファンタジーチックで良いくらい。恋愛というのは、全部が綺麗なものでは無いと思うので、納得は出来ますし、私も溶けなくて済んだのですが、父が養女を…は、当映画においては成長過程に疑問があるし、運命や愛情の描写としては正しく、間違っています。皆ぶっ壊れてる…。

 

 

心を壊してくる恐れがある映画で、怖いって感覚が当然だと思った。

 
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