邦題:沈黙の歓び 原訳:蝋人形

66点。

 

※沈黙の〜だけど、セガール様は出てないよ!

当映画はホラー、スリラー、まして、エロティックのどのジャンルにも属しません。人間の孤独と妨げられる愛がもたらす〝蝕み〟を真のテーマとする、陰鬱な芸術映画が適当な表現と言えます。

 

 

~あらすじ~

デパートの孤独な夜警が、店のマネキンに執着する。やがて彼はマネキンを盗んで、いつも一緒にいられるよう自分の家に連れてくる。ある日、彼女は息を吹き返す...。

(※IMDbより引用し、和訳しました。)

 

 

実は私は、当映画を鑑賞した記憶があります。あまりにも朧げなので、前世の記憶が残ってるんじゃないのかなって思うくらい、不思議な感覚なのです。

 

 

  

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

□先ずは、家主ハカンソンの娘、マロウです。

彼女の存在は、主人公の生活に一時的な変化をもたらし、彼が人間関係を築くことが可能かもしれないという一縷の希望を示しますが、彼女では彼を幻想の世界から引き離すには至りませんでした。

 

Why can’t a human ever get used to being lonely? It would be so much better if a person could just accept their unhappiness. So much happier.

 

 

But no... you’d rather have a doll. A simple, lowdown doll of wax. Than be yourself, and one day realize... that it’s perfectly natural. Because everyone is, in fact, alone, no matter how much they try to pretend they are together. Right? A doll...

 

この考え方は、彼女も主人公と大差が無いです。その倒錯感を描写してます。深い。

 

 

□容赦の無い陰鬱なオーラに満ちた映画。

すべてのショットが、影に覆われているようなノワール調の白黒に、閉所的な映像で構成し、不安や恐怖感の演出。当時のスウェーデンで、精神病や悪役を演じたならばトップと言われた俳優、ペール・オスカーソンを主人公のルンドグレンとした。それでも、特筆はマネキンを演じたジオ・ペトレ。人間がマネキンを演じたならば、丸みを帯びるのが当たり前なのですが、それこそ、求められる演技。粗はあるけど。その効果でただでさえ暗い映画なのに、さらに暗くすることに成功しています。

 

ここに、主人公ルンドグレンの個人的なエピソードや入居者たちのドラマ、脚を揉んだりなどのごく控えめなエロティシズムを挿入して何とか見られるものにしたという印象です。(そんなの要らん!)

 

テーマ音楽は冒頭で紹介した愛のワルツです。当映画のことを全く知らなくとも、曲は知ってる方が多いかも。

 

 

□精神医学を用いて、分析しない方が。ただ、深いところに出番がある。

圧倒的に判断材料が不足しているから。これを描写で語ることはごく僅か。だけど、ナレーションがご丁寧に説明している。こうなると、私的には一寸つまらない。

 

 

ある男がいた。彼は決して成長しなかった。

靴のサイズが大きくなっても― 生涯、彼はママを求めて泣いた。

そして、僕は人形と遊んだ、人形と。

 

 

ある男がいた。彼は決して分別がなかった。

本を読み書きできたとしても― なぜなら、大の大人が人形で遊ぶということは、何かとても、とても悪いことがあるに違いないからだ。

 

ある男がいた。彼は決して幸せではなかった。

最も幸福な都市に生まれたとしても― 人形遊びができなかったら。

 

7歳の少年のように振る舞う男がいた。

人形がバラバラになれば、彼もバラバラになる。

彼は泣き叫んだ。

 

 

ここまで自己分析が出来ていたということは、自分は変わるべきであると深層で理解していた証左。ルンドグレンは偏執的な愛ではあったものの、マネキンに深く愛情を注いだことで、無機物であるはずの彼女が確かに愛に応えたと言える但し、あくまで彼の脳の中の出来事、イマジナリーフレンドではある。でも、マネキンは彼を本当に愛していると思える描写、女性なら頷けると思う。そりゃそうなのよ。彼にとっての真実の愛をくれる完璧な存在を脳内で作ったんだもの。

 

そして、その真実の愛とは母性であったこと。ルンドグレンは最初こそ、異性の恋人のような愛を求めている。きしょいんだけど。途中から、マネキンが彼を突き放しにかかるのは自立を促す母親の愛だ。何らかの事情により、母親からは得られなかった愛情をお人形遊びから受ける代替行為です。分析しない方がファンタジーです。

 

 

当映画をネットで検索しても驚くほどに情報が少ない。内容は砕けるところまで。

何故かしら?実際にはもう一寸続きがあって、その描写からは彼は変わろうとすると解釈出来そうなものですが…。テレビ放送用のカット版とかでしょうか?

 

そして、当映画は国内ではVHSカセットのみでとてつもなく希少です。加えて、作品のテーマ的にも陰鬱で耽美的であり、ソフト化の可能性は無いと考えられます。

…サブスクに一縷の希望を見出すことにしましょう。

 

 

※実はユーチューブで観たの…画質悪いけど…字幕も英語しかないです…。

 

 

 

 

当映画が配信された暁には、是非観て…いや、観なくて良いかな。

 
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