邦題:気狂(きちが)いピエロ('07年2Kレストア版)

86点。

 

頭のおかしいピエロが逃げ惑う人々を惨殺して行くお話…では無かった!

 

 

~あらすじ~

妻との生活に退屈し、逃げ出したい衝動に駆られていたフェルディナン。ある夜、彼の家にベビーシッターとして現れたのは、かつての恋人・マリアンヌだった。

フェルディナンは彼女を車で送り、そのまま一夜を共にする。翌朝、彼女の部屋には男の死体があり…。

 

ジャンルは、ヌーヴェルヴァーグ、ロマンス、クライム、ドラマ、ロード映画です。

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

冒頭にて "Histoire de l'art L'art1" エリー・フォール著、ベラスケスについての美術論評の朗読を年端も行かぬ少女に聞かせる。彼女もそうであるが、私も同じ様に理解に苦しむ。つまり、当映画、引用の意味合いを一々解しなければ、紐解かせぬという宣言であり、端的に言えば、観客に挑戦状を叩き付けて来てると考えたもの。

 

ここで、少女と同様に踵を返すか、敢えて、立ち向かうか。

 

 

だけど、通しで観終わったら、逆でした。感覚で観る方が素直な映画であって、それを補完するのに理屈(引用)を入れている。つまり、感覚で理解出来たならば、理屈なんて解さなくても、全く問題を感じません。穿った見方をしてしまいました…。

強いて言えば、当映画は美術、芸術を取り入れている宣言の方が適格です。

 

言っても、折角のレビューなのだから、少しばかりつらつらと。

原作は "Obsession(妄執)" 当映画の不可解な箇所はこれを読めば補完出来ます。

 

 

 

 

↑今回はレビューが長いので、BGM代わりに。

 

 

□他、引用する映画、及び小説の内容。

「大砂塵」1954年公開、西部劇。

昔の恋人の今彼が死んだので、寄りを戻しちゃう。

その内、真面目にレビューします。 

 

「セザール・ビロトー[ある香水商の隆盛と凋落]」バルザックの人間喜劇。

田舎から裸一貫でパリに上京し、その誠実さでもってコツコツと働いて、美しい妻と子を成し、レジオン・ドヌールを叙勲した主人公は上流社会へと仲間入りすべく、身分不相応な舞踏会を開催し、妻の反対にも関わらずに土地投機に手を出したことで騙され、借金の返済に苦慮、破産する。

 

当時のフランスは商人が破産した場合には、その立場を剥奪される。

ビロトー家の三人は別々で住み込みで働き、収入の全てを返済に充てた。また、ビロトーの元番頭、ポピノの全面協力のもと、数年掛かりで債務を完済、と同時に、娘とポピノの結婚を祝うパーティーの席上でビロトーは嬉しさのあまり、倒れて息を引き取る。

 

上記、二つのお話が当映画に掛かる最大の理屈(引用)の骨子であるところ。

 

 

□サミュエル・フラー監督のカメオ出演。

フランスで「悪の花」を撮影中だったそうで、ご本人役でのご登場。映画とは何かとの問いに親切に答えてくれる。「映画は戦場のようなものだ。映画には愛と…憎しみと…アクションと…暴力がある。そして死も。つまり感動だ。」

 

 

□「オリンポスノカナシミ」ジャンプカット&背景グリーン。

おそらく、この言葉自体には意味が無い「アイマイミーマイン」みたいなもの。画面の色を変えて2カット、影と人間の位置を入れ替えて繋げ、違和感を演出することで、色々な映像演出を観客に気付かせ様としている模様。うん、59年前に撮られた映画とは思えない程に決まってる。

 

そして、夜中の車内から一瞬で朝のベランダへ、大概と思うジャンプカット。会話に前からの繋がりを持たせ、ご丁寧に口笛から始まるBGMを切らずに入れて

「今にわかるわ」からのベッドに横たわる男性の遺体。これ、原作を読めばさくっと解決するけど「大砂塵」よろしく、主人公は手を出していない、その後に部屋に来るもう一人もやったのはマリアンヌで。実に情熱的で不覚にも心がときめいてしまったけど、この愛の逃避行は果たして、どれくらい長く続くと言うの?

 

 

□プロット自体は結構単純であって、全体的にはお洒落が過ぎる映画。

監督は「男と女と一台の車があれば映画が撮れる」なんて言ってたらしい。何て格好良い台詞かしら、どっかで使おう。最早、脚本も無くて、殆どのシーンが即興なんだってさ。ヤバイね!

 

マリアンヌが一撃で倒して行くのに、対してピエロは動きの割に決定打が出せない。くっ、面白くて可愛いじゃんか。

 

これ、マリアンヌがファム・ファタールと言えて、私は好きな部類です。敢えて、川を縦断するのに、深い所へ向かいたくなる気持ちがちょっと解る気がする。ついでに逃亡中に何度もマリアンヌの服装が変わるのも、然り気無くてキュート。

そりゃ、服がずっと同じままじゃノらない気持ち解るよっ!

 

さて私、当ブログ内で公言する様に車好きですが、当映画も素敵な車が登場します。

 

 

・プジョー、404セダン、サンルーフ仕様。

 

 

ピニンファリーナの流麗なデザインとセダンタイプの堅牢な作り、ガラス類を遮熱に、エアコンを搭載させて、ボディ内の断熱性を高めて行けば…あぁ、素敵。

でも、やっぱり最後は燃やしちゃうのね…。

 

 

・フォード、62年型ギャラクシー。

 

 

アメ車はちょっと…。最後は入水して虹を映し出して終了。

 

 

・アルファロメオ、ジュリエッタ・スパイダー。

 


 

今買うとお高いんでしょうね…。追記:1,200万ですって。

 


□総括。

まんま、タイトル通りの道化師とも言えて、マリアンヌは一貫してフェルディナンをピエロって呼んでいたし。特にラストは、赤青黄色の目に鮮やかな中で静かな狂気を描いていて印象に残る。最後の電話はやっぱり後悔しているんだよね。マリアンヌは劇中に何回も聞いてあげてたのにね。

 

何にせよ「元」ってやっぱり、何か駄目だったから別れていて。現実の背景では監督とアンナ・カリーナは一時期結婚生活を送っていたみたいなので、ある意味、二人の再起を描いていると考えたら実に、世俗的だなーと私は思う。だが、それが良い。

 

 

監督、今を生きてたら、TikTokとかインスタでバズらせてそうだよね。

 
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