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邦題:セッション

87点。

 

主人公のニーマンが自動車事故を起こし、大怪我を負いながらも駆け付けたジャズ・コンテストにて、彼が演奏しようとした曲 "Whiplash" は「むち打ち症」の意。首に大きな負荷がかかるドラマーの職業病でもあって、フレッチャーの行き過ぎた指導の暗喩とも取れる。日本語にも「ご指導ご鞭撻のほど」なんて言い回しがありますね。

 

当映画は明確にホラーのジャンルでは無いけども、音楽業界での成功は非常に厳しい狭き門であって、そこには異常なレベルでの努力だったり、類稀な才能、奇跡的な運が必須のある意味では狂った世界から見る側面がサイコロジカルホラーの様相を呈すので、これを怖いと感じるのも理解出来るもの。邦題も解るけど、その辺の意味合いが飛んじゃうので少し残念に感じます。

 

 

以下、ネタバレ。って言うか、感想。

 

 

ニーマンは偉大なドラマーになったならいっそ早逝して、世に名を遺したいと考える危うい性格をしています。プロローグは彼が一心不乱にドラムを叩く姿を、むち打ち症になる程に、観る側にしてみたらくどいと感じるくらいに、長回しで描く事によりそれを強力に印象付け、以降のシーンに掛けていく効果を狙います。

 

フレッチャー。指導者としての是非を問うならば、間接的に人が亡くなっている以上非です。ジャズの求道者で、嫌われてでも後進を育てようとする気概を感じない事も無いのですが、尤もらしく気に入らない生徒を追い出した事に加えて、何よりも彼が愛する筈のジャズを復讐なんてつまらない事に利用したので、彼にとってのジャズはそんな程度なのだなと思わせられました。

 

言っても、ニーマンとフレッチャーは立場が違うだけの全く以て同類です。ニーマンも家族に対しての物言いだったり、恋人のニコルと自分勝手な理由で別れています。そして又、よりを戻そうとするのですが、既にニコルは彼氏がいました。対比として劇中にて描かれる成功者では無い普通の人達は当然の様に先に進んでいますからね。

 

父親は彼に寄り添い、何時でも味方です。この映画の良心と言えます。

 

私はラストシーンでフレッチャーがニーマンに投げかけた言葉について、敢えて口元を映してくれませんが、間違い無く "Good job!" だと考えています。フレッチャーは褒めて伸ばす指導方法を全否定しており "Good job!" は最も危険な言葉と言い切っていますが、これって褒め言葉の中でも一番簡素ですよね。"Fantastic!" でも "Amazing!" でも、英語にはいくらでも褒める表現の単語はありますから。つまり、褒める事に対しての語彙力が圧倒的に不足している彼が、最も危険な言葉を使う事の意味合いが裏返って、彼にとっての最大級の賛辞に変わりうるのだと思います。

そして、これは同じ様なトラウマを持つ人間への救いとなる極めて粋なシーンです。

 

彼らが思い描く至高のジャズを奏でる事が出来た時、元彼女への恋心だったり、師弟の確執と言った余計な物は消え失せて、偉大なセッションとなった。そんな情熱溢れる傑作映画です。

 

 

 

↑変則、転調でとんでもテクだけど、めっさ楽しそう。

 

 

じゃあ何で殿堂に入れないのかですけど、二つありまして、長く後年に残る名作かと問われたら怪しいと思います。テクニカルで完璧な演奏なんて人間には実質不可能でコンピュータの得意とする部門だからです。もう一つも同じ様な理由ですが、名門と言われるオーケストラの鑑賞よりも、私はUSJのセサミストリートの音楽ショーの方が好きだからです。

 

 

フレッチャーは技術だけで、音楽性の指導が出来てないって事だよね。

 
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