76点。
 
2時間39分と長い。吉高由里子デビュー作。「自殺サークル」の世界線を共有する、正式な続編では無いらしいサイコロジカルホラー。
前作の焼き回しと一部チャプター以外の直接的な描写は避けています。それは、それぞれのチャプター毎に人物の視点が違い、その人によっては直視出来ないから。全編にその章の人物のナレーションが付いてるけど、映像とリンクしないのもリアル。
結末によるいくつかの答えは提示されるけど、観客それぞれ答えが無数にありそうで正しいのか正しくないのか、怖いのか怖くないのか解らないとんでもない映画。
音楽は狙い過ぎのようで、その人の世界観ではそうなんだろうと思えて導入が自然。
まさか最後まで聞かすとは思わなかったけど。
前作の考察に誤りが無いか気になるし、検証ついでに考察しますがストーリーは追いません。
 
 
前作の記事で "Desert" についてかなり書きましたが、今作では「砂漠」という単語が数回出て来たのと、背景にあるポスターのワンシーンしか登場しません。
つまり、自殺サークル内でも別動隊であって、今作で描かない事により逆に補完したと考えられるものです。
 

 

「①廃墟ドットコム」内掲示板を活用しているHN、上野駅54、決壊ダム、他と、数人で構成する仲良しグループはオフ会現実でも交流している。

このグループの内、上野駅54、決壊ダムについては人材派遣会社にて

「②レンタル家族サービス」をやっている従業員と確定出来る。

特に上野駅54は子供時代から人材派遣会社に所属しているか、子供時代から似たような事をしていて、この人材派遣会社を立ち上げたまで有りそう。ここでレンタル家族サービスの仕事にのめり込む決壊ダムの

「③ステージの高い役目」の力説につき上野駅54はシンパシーを覚えてしまいます。

それは彼女が産まれた際に家族に必要とされず上野駅の54番のコインロッカーに捨てられた不幸から始まって、バックボーンが無い究極の寂しさを、そのコインロッカー内に家族代行サービスで得た物で埋めていた事から理解出来るものです。そして決壊ダムは思想を体現し、上野駅54に見届けさせました。これが、後の

「④新宿駅女子高生54名集団飛び込み自殺」でミツコとユカを立ち会わせる事になる理由となります。

 

 

クミコ、失ったものが多過ぎたし、それはもう、取り戻せない。最後の涙は自分自身だけは取り戻せたとして、虚構に生きる選択をした徹三と上野駅54との幸せに見せる食卓をこれからずっと演じて行かなければならない。贖罪と呼ぶには辛過ぎるし、何と救いの無い事か。

 

 

ユカ、登場人物最年少、舌っ足らずで子供っぽい印象を受けるのに(吉高由里子の素の演技とか言わない。)実は大人で家族の本質を一番理解していたのは彼女。

姉と同じ環境に育ち、退屈な日常ではあったにしてもそれを受け入れていて、自分の中でも折り合いが付いていたと思われる。彼女が家出したのは家族を取り戻す為、姉の失踪で囲む食卓の風景が変わっても、日常を壊さぬように動かない父母の代わりに調査し、手掛かりを残して姉を追う。

「娘二人を理解していなかったのだ。」と挑発までして。

父母が必ず娘二人を連れ戻し、家族を戻してくれると信じて。

 

最後の選択は賛否両論あるかも知れないけど子供は巣立つもの。納得出来るし、彼女は道を違えないと思います。

 

 

下記、番号に注釈をつけたものです。

 

①誰が作ったかは描かれてこそいません。(強いて言えば、現実のこの世界で園子温が立ち上げました。)そこで、感性が似た人間が集まるようになり、現実でも交流を重ねていった結果の集まりが自殺サークルとなりましたが、それは一部の側面でしか無い様です。

②お金を払ってでもその人を必要とし、お金を貰ってその人に必要とされる、相互に利益がある様に見えるけど、どっちも病んでしまいそうなサービス。上野駅54が時間に極端に厳しかったのはビジネスであるという線引きの為、自衛手段とも言える。

③役目を与えられて自分がその人に究極に必要とされた上で幸せにこの世を去れるという歪んだ価値観。それをこなしても報酬がとんでもなく安そうなのが皮肉です。

④前作のオープニングで描かれた凄惨な事件。③に取りつかれた上野駅54が実行したと思われるけど、仮に真相が全て究明されたとしても、自殺では彼女の罪を問う事は出来なさそう。

2015年に自殺教唆、幇助罪が施行されたものの、2020年に最高裁がこれを違憲としたので、やっぱり彼女を罰する事は出来ない。

 

 

 

↑決壊ダムさんの最後のサービスはこの歌をバックに。

 

 

りんごちゃんみかんちゃん、尊敬する人は人では無く蜜柑。業種こそ違えどサービス内容は同じなんだけど、彼女は自分を見失う事は無いみたい。

 

 

自分を大事にしないと、本当の意味では人のことを大事に出来ない。

 
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