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邦題:クリーン、シェーブン

92点。

 

作中のほとんど全てにラジオのノイズや叫び声など、人間が不快に感じるような音響表現が為されています。映像は乱れてはいませんが、一昔前のカメラ品質である事と、意味がある様には思えない描写等の連続で、終始不安感を増長させて来ます。

 

ストーリーの流れは30文字有れば説明出来るくらい簡単なのに(ネタバレ欄の最後に書いておきます。)その内容は人によって全く説明出来なかったり、バラバラの意見に落ち着いたりする映画です。つまり、テーマは重厚であり難解です。

 

ベッドシーンはどうでも良いですが、痛たなシーンが2回ほどあります。

私、基本平気な人なのですが、2つ目のシーンは変な声が出ていました。

未怜は3ポイントのダメージをうけた!

 

考察を続けて行くとあんまり意味が無いのかなって言うシーンやラジオすら繋がって来る不気味。気持ち悪い。

 

エンドロールでもノイズが消えない、こんな映画は観ない方が良いよぉ。

 

 

以下、ネタバレ。もう既に、やばい人鑑賞済の人向け。

 

 

ピーターが分裂病、現在で言う統合失調症を患った詳細な理由は描かれていません。

彼にとっては生きていくのが息苦しいこの世界で唯一、他の人とは違うと思えた心の支えである妻を失った事が決定打なのはありそうです。娘の二コールに母親がどんな人だったかを聞かれた時にそれまで安定していたのに、少し症状が出ていたのがその理由となります。

 

これは、勝手な想像ですが、亡き妻はピーターと同じ病を患っていて、生きていくのに耐えられずに死を選んでしまったのでは無いでしょうか。ピーターもその気持ちが痛い程理解出来る為に自殺幇助してしまったとか?いや、でも母親が子を残して逝くと言うのは考えたくない。でも、ニコールの写真破れてるのよね。

 

閉鎖病棟内のピーターの様子を映したシーンがあります。かなりの重症状であった事が推察出来るのと同時に、よくもまあこの状態から出所出来たのかが疑問です。

これはもう、偏に家族に会いたい一心で必死にまともを演じたのでしょう。

写真のニコールが赤ちゃんなので、5年位はかかったのかな。

そのまともアピールな行為の一つが髭を剃る、身だしなみでした。

 

まず、ピーターは完全な善人ではありません。冒頭のほんの一瞬の行為なので見逃しそうですが、車は盗んだものです。常に監視されている妄想から一刻も早く逃げたいとも考えられるし、家族に一刻も早く会いたいのかもしれません。

 

実家はお世辞にも裕福には見えません。父親も既に亡くなっており、母親は苦労したであろう事が容易に想像出来るものですが、ピーターは母親にすぐには返せない額の借金をしています。勿論、仕方の無い事であるし、母親はそれを笠に懸けたり、恨む事はしないでしょうが。

 

そしてピーターの一連の症状は、妄想、幻覚、まとまりのない思考および発語、現実との接触の喪失を示唆する奇異で不適切な行動(緊張病を含む)等が確認出来ます。

言葉があれですが、ほんまもんです。

 

 

劇中の音は常にノイズや幻聴で、全く信頼出来ないのが解ります。

映像はどうでしょうか。ピーター視点のカメラワークの場合、しょっちゅう奇妙な事が起きています。つまり、妄想と幻覚の症状により現実が曖昧であり、叙述トリックの信頼出来ない語り手側の映像と考えます。

 

基本はそう考えて良いと思うんですが、車をスタート直後、赤の長袖と紺のベストを着た男性がこちらを監視している描写があり、そのシーンのラジオでタイミング良く

「視界はクリア」と流れるのです。正にクリアだとしたら、連続幼児失踪事件の犯人はその男性で車の持ち主でもあり、車の目撃証言とかの疑いを逸らした可能性があります。何せ、証拠を全く残さない知能犯です。オーバーキルの銃も積んであったし。

そうすると、真犯人が近くで車を盗まれているのに見ていただけって説明がつくし、マックナリー刑事が半ば決め付けてピーターを追いかける理由にもなるんだけど、

考え過ぎかしらね。

 

加えて、車をスタート直前、数秒間であんな殺し方は不可能なのでこの件に関してはピーターはシロです。敢えてのワンカットで現実側を描いてます。

 

対して、信頼出来ない筈のピーター視点ですが、アメリカでは1984年~1996年まで牛乳パックに行方不明の子供達の写真を掲載して、情報提供を呼びかけていました。作中でも意味有りげに何度か描写されます。これはクロっぽいと思わせるミスリードなのか、娘に会いたくて同年代の女子に目が行ってしまうのか。私もこの映画の術中にハマっていますね。

 

ろくにお金も持っていないのでモーテルの外のゴミ山にて、娘へのプレゼントを探している描写です。これも見ようによっては不審な行動でしかありません。そして痛たシーン①の頭の皮膚を切った後、娘に会う前の身だしなみとして髭を剃ります。鏡が直視出来ないので皮膚を傷つけてしまっています。まともは難しいのですね。

 

母親との関係が解りませんが、かなり酷く症状が出ていますので恐らく、ピーターが病んでいった一因でもあるでしょう。娘を勝手に養子に出してしまった事からしても考えが極端なのかもしれません。

息子を愛していない訳では無さそうですがとても複雑です。

ピーターが母親に見た幻覚や妄想をそのまま受け取ったとしたら、母親の意図や思いを曲解したと思われます。

 

そして、彼にはもう娘しか居ないと思わせてしまいました。

 

図書館?で娘の居場所の手掛かりを探すピーター。私には想像する事しか出来ませんが、写真を見るだけでも幻聴が聴こえるピーターにとってはかなりの苦行であったと思われます。症状はもう限界に近く、今までは声だけだった存在が目に現れるようになってしまいました。

 

 

ピーター曰く「人を傷つける人間が多い世の中」側、マックナリー刑事です。

ピーターを犯人と決めつけて偏った捜査になってしまっていて、車内ではハンドルに拳を無茶苦茶に叩き付けます。子供を無残に殺した犯人に対しての激しい怒りや自分の不甲斐無さから来るものだとは思います。ちょっと病的にも見えますけどね。

 

そうかと思えば、立ち寄ったバーで強盗に出くわしても何も出来ませんでした。

あの状況では二次被害を考えたら動けないのですが、隣席のお客さんが私達観客としての気持ちを代行してくれていますね。狙って入れたシーンだと思います。

 

 

未婚で生活が大変そうなのに、モリーが養親になった理由はお国柄の違いです。

アメリカでの養子縁組制度は既婚、未婚、収入は一切関係ありません。

ですが、子供を育てるのは大変です。モリーは頑張ってはいるんですが、ニコールがなかなか懐いてくれません。そこで子供には父親が必要だと、シンママの弱みに付け込んで口説く、マックナリーが下衆いです。

 

事後のモリーの表情が何とも言えません。誰も幸せになってない。

 

 

図書館の司書です。ピーターから特に被害を受けていないのにマックナリーがタイプだったのか、穿った供述をして誘惑しています。家に行ったのかな。

もうね、まともな人が居ない。

 

 

ピーター、ニコールとの再会前に苦手な鏡を見ながら身だしなみです。そして、痛たシーン②の指の爪を剥がして指を抉ります。彼女に再会出来てからはピーターの症状が治まり、音がクリアになります。

 

これが実に効果的な演出となって観客と二人に束の間の優しい時間が流れます。

 

 

ここでようやっと追い付いたマックナリー刑事が目にしたのは車のドアの下から見える少女の素足です。犯人は服を脱がしてから犯行に及んでいた事から、銃を突き付けて投降させようとします。しかし、ピーターは咄嗟にトランクから銃を取り出し応戦しようとします。これ、ピーター視点の目に見えるようになった凶暴性と言う幻覚に抗おうとしたものと私は勝手に推察しました。

 

撃たれたピーター。ニコールに心配させまいと懸命に話しかけます。側に来て欲しい様ですが、幼いニコールには理解が追い付かないようです。最後に

 

「僕はクリーンだ。僕自身の心だ。」

 

と言って息絶えます。何て事を…。

マックナリー、撃たれて応戦したと言う体裁を整える為、ピーターの脇に落ちた銃を拾って空に一発。実に自然にやっていましたのできっと、常習犯ですね。

 

 

さて、事件は解決したと思っているマックナリー、上機嫌に口笛を吹きながら、押収した車両の捜査開始です。トランクを開けて人間の形のような包みを発見します。

急ぎ開けたところ、ニコールにあげる予定だった女児用の靴と紙屑だけしか発見されませんでした。

 

場所が変わり、バーです。自分は本当に正しい行動が出来ていたかを思い返します。

疑わしいだけの証言や、思い込み、決定的な証拠が無かった事に今更ながらに気付きます。そして、強盗に出くわした時、正しくあれなかった事とリンクするのです。

何が出来たと言うのかと言い訳がましく。狂っているのは誰だろう。

 

 

遺された家族です。母親はピーターの服を干しながら泣いています。ただ、母として抱き締めてあげれば良かったと思う後悔の涙でしょうか。

 

一方、ニコールは父親の死を理解出来ていないのか、ピーターの

「頭に受信機を指に送信機を埋め込まれた。」との言葉を純粋に信じ、船舶の無線で繰り返し父に呼び掛けるのでした。

 

 

誰がまともだったのか、誰がおかしかったのか。ぐっちゃぐちゃで解らなくなりそうですよね。

 

これは、映画自体が狂っているんだと思います。

 

 

 

分裂病患者が娘に会いに行き娘の前で殺人犯と間違われ殺される話(30文字)