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邦題:時計じかけのオレンジ
78点。
 
今から50年以上前に公開された、近未来を想定したディストピアクライム映画。
独特なオブジェや、嗜好等で異世界感を出すのにある程度成功しています。つまり、製作陣は全力でこれがSFであると描写で語っています。
クラシック音楽を多用するのも一周回って新鮮と言えなくも無いですが、実際はそれしか策が無かったのでしょう。
ありとあらゆる暴力を描いてはいるものの、直接描写はマイルドです。そのくせ裸をちょくちょく出して来ます。そちらは結構ストレートです。
タイトルの意味合いは、見た感じ、マトモに見えるけど、中身がかなり変と言う意味の俗語です。登場人物もそうですが、当映画自体を端的に表しています。
 
 
以下、ネタバレ。って言うか、感想。
 
 
完全に予備知識無しの初見です。
ホームレスの老人が嘆いたのが、この世界の背景なのですね。
 
アレックス15歳、恵まれた環境で甘やかされて育ってしまった為か、身体は成熟したものの、精神が未熟です。因みに、仲間内で使う意味の解らない単語は、解らなくても問題無いです。どうせ、大した事は言っていません。
目を背けたくなる様な悪行の限りを尽くします。現代の少年犯罪を彷彿とさせる内容で、予言が当たっているとも言えそうです。
これが余りにも愚かな行為である事は、奇抜なメイク、服装、おつむが足りない言葉遣いや仲間の裏切りの描写で完全に否定していると見て取れます。
 
さて、暴力に良いも悪いも無いですよね。ここ日本でも私刑は明確に最高法規である憲法により禁止されています。
でも、作家のアレクサンダーの気持ち(復讐心)は解りますよね。人間ですから、内に秘める暴力性は無視出来ないもの。そして、これも結果として暴力であると明確に語っています。
 
プロットに於ける対比も良いですね。
同じ様に悪事を働いていたのに捕まらず、警察になったディムとジョージー。
直接的に手を出していないものの、政府により処置されたアレクサンダーとか。
 
ラストは暴力で暴力を矯正する事が出来ない事を示唆するのと同時に、世間の風潮や時の政府により、その扱いまでもが簡単に変わってしまう事に警鐘を鳴らしていると考えます。
最初から最後まで、アレックスは治ってなんかいない事は明白ですので、この処遇をどうするのか、発覚しないだけの犯罪は、被害者の救済は充分か、50年以上経った今でも人間には解決出来ていません。
 
さて、もう少し掘り下げようと思います。
 
悪事を働けば当然、刑務所に入る事になります。
アレックスは15歳、イギリスにも少年法はありますが、殺人罪については別で成人と同じ裁判となります。だから、捕まった際の警察による尋問で、人を舐め腐る態度を取るアレックスは鉄拳制裁を受けました。
アレックスを信じていたかどうかは怪しいですがデルドイド監察官はツバを吐きかけます。面を汚した仕返しと言ったところ。
 
14年の量刑が適正なのかどうかはさておき、刑務所内では、大人の受刑者同様に扱われています。せっかく、フラグが立ったのに他の受刑者に苛められ無かったのが非常に惜しいですが、そこは上手く神父に取り入ったり、模範囚を装う事でかわしたのでしょう。2年間で身に付いたのは狡猾さだけでした。
 
そして、ルドヴィコ療法を受けます。これは懲役30日を思い出したので、正直、温く感じますが、非人道的であると言えばそうなんでしょう。
ただ、彼から暴力諸々を取り上げた事が次に繋がって行きます。
 
実験台となった事で晴れて出所となりますが、散々悪事を働いたアレックスに待っていたのは辛い?現実でした。両親にあしらわれますが「良心の呵責に苦しめ」と吐き捨てていますので、本質は変わっていない事が解ります。ま、17歳ですもんね。
 
次に、ホームレスの老人に見つかり、荷物を奪われて団体でリンチされますが、老人で非力ですし、本人が殴られるままにしてやったとナレーションしてますので、暴力に馴れたアレックスは余裕をかましています。
 
しかし、助けてくれた警官はかつての仲間でした。2人からなかなかの責苦を受けますが、彼らは手慣れているので殺さない程度の暴力に抑えつつ次回のお愉しみに。
これが一生続くかもしれませんね。
 
ボロボロになって辿り着いたのは、かつて凶行に及んだアレクサンダー邸。その時の後遺症で半身不随となったアレクサンダー、奥さんの姿が見えない代わりにヘルパーさんが居ます。ダース・ベイダーの中の人ですね。
奥さんは陵辱されて後、肺炎で亡くなった事が語られます。因果関係は不明ですが、アレックスのせいだと思われても仕方ありません。
途中迄はお互い気付いていませんでしたが、気付いてからのやり取りは滑稽です。
睡眠薬入りのワインを飲んで、目覚めたら大音量の歓喜の歌地獄です。
 
そしてアレックスは耐え切れず飛び降り自殺を図ります。
 
これぞ因果応報、きっちり還って来ています。どこが暴力を助長するのでしょうか?
 
結果的に政府の庇護を受ける事になりましたが、自立出来ていない子供のままです。食事をする姿はさながら、餌を待つ雛鳥のようです。
一生、まともな人間には成れそうにありませんね。キモいです。
 
この映画は女の私から観ると、どうしてもバイアスが掛かってしまいます。
良く出来た映画なんですが、同時に反吐が出る様な映画でもあります。
 
手元には置いときたくないなーって感じです。