白鳥とコウモリ
監督:岸善幸
感想
東野さんが亡くなられたとき、僕の胸によぎった想いのひとつは(不謹慎にも)「人生の楽しみのひとつが無くなってしまったな…」ということだった。
東野さん原作の映画が公開されるたび、映画館に行くのがずっと楽しみだった。とは言え、熱心な読者というわけではなかったと思う。「映像化を待てばいいや」みたいな(ネタバレしたくないというのもありつつ)。
映像作品もすべてが完璧だったわけじゃない。『ラプラスの魔女』みたいに、監督との相性がサイアクだった作品もあった。それでも、原作「東野圭吾」と聞くとついつい見に行ってしまう。多くの人がそうだと思うけれど、それってなんだろう。
僕の場合、考えてみると、それは「空気感」の良さ、ある種の「淡白さ」だったのかも知れない。いかにも日本的な「ジメジメ」や「ドロドロ」とは程遠いような透明で爽やかな空気。
この映画、僕が思うそうした東野作品の美点を非常にうまく抑えていると思う。
加害者家族/被害者遺族というテーマが恐らくあるのだろうけれど、(東野作品にありがちなように)こうした社会的なテーマは(良い意味で)物語の仕掛けの一部に留まっている。わりとあっさりしている。
遺族とか週刊誌の記者とか、ドラマなどでは過度にエモーショナルだったり嫌らしい奴に描かれがちな存在の描き方も抑制が利いている。余計なコンフリクトがなくてストレスを感じない。
『麦秋』が劇中で上映されていたけれど、小津作品にも通じるある種の平板さは、東野作品でもある種の作家性というか、そういうものへとまで昇華している。そんなことを感じた。
大仰に叫ぶのではなく、静けさのなかにつねに底流に哀しみが流れている。
今田美桜さんの存在感が素晴らしく、少し有村架純さんみがあった。彼女、いつの間にかこんな良い女優さんになっていたんだね。
☆☆☆☆★(4.5)
映画『白鳥とコウモリ』本予告【9月4日(Fri.) ROADSHOW】