フロントライン(3.0)
監督:関根光才
感想
あの頃のことをどれだけ覚えているだろうか。当時、報道を見ていて「鎖国でもしない限り水際作戦なんて早晩失敗するだろうな」と思っていたこと、それと映画でも出てきた動線どうのこうの話は覚えている。その後はなにもかもが非日常的なものになっていった。
冒頭、「事実に基づく物語」というテロップにまず引っかかる。実話なら分かるけれど「事実」? それどういう意味で使ってる? まあ良いか。客室係が船内の廊下を歩き、船体横についているハッチをあける。夜の海を海保の船が接舷しようと近づいてくる。この辺りは正直テンションが上がる。ちょっとハリウッドっぽい。
演出的にはなんか「踊る」っぽい。ただ、「事実」だと言っていることと、「踊る」っぽい演出の噛み合わせがちと悪いように思う。なんか嘘っぽく見える。船内でもマスクをつけないで会話をしている場面は「これホントか?」と思ったけれど、その違和感は映画ラストのテロップで解消された(演出上の都合でそうしていただけ)。
まあ、そういう演出はそういうものとして受け取れなくもないのだけれど、この映画で何よりも気に食わなかったのは、自分たちが勝手にルールを破ることを美談のように扱っていること。ああいう状況下では一定程度人権に制限が加えられるのは当然のこと(隔離とかね)。そこに対する葛藤を描くならまだしも、この映画は検疫の規定を破って客に「良いこと」をしてあげて、それで感謝されるっていう美談に仕立てている。そこが全く受け入れられなかった。しかも相手の国籍やゴネ具合によって対応を変える。これマジかよ。
まあ、そういうところも「踊る」っぽいよね。あれも「現場」の判断が最優先されて上層部の決定がことごとく無視されていく話だ。物語的にはあれで正しいように見える(しドラマ自体は僕も好きだ)けれど、やってること関東軍と変わらんよね。そんなことを思っていたら、企画・脚本・プロデュースは元フジテレビのプロデューサー、さもありなん。
藤田医科大学が下船者を大規模に受け入れてくれるくだりはなかなか良かったかな。心ある人はいるんだなと感じられる。その辺は良かったし「まあ、前代未聞の事態で、でもその場にいた人たちはみんな頑張ったよね」って言いたいことは分かるけれど、感染症対策って「理」で構成されるところなのに、この映画は全体「情」で作られている。作劇の都合なのか、あえて「敵」を作るところもあまり好きじゃない。
☆☆☆(3.0)
【事実に基づく物語】映画『フロントライン』本予告|2025年6月13日(金)公開