ナポレオン(3.0) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

ナポレオン

監督:リドリー・スコット

感想
 ナポレオンを描いた作品でぼくの印象に残っているのは、まずボンダルチュクの『ワーテルロー』(1970)、膨大な人数(1万5千人)のエクストラを用いて描かれた戦場は、もうあれほどのスペクタクルはこの先も見られないんじゃないかと思える。

 それから、ショーン・ビーン(LotRのボロミア)主演のTVドラマ『炎の英雄 シャープ』(2005)の第14話。『ワーテルロー』に比べれば小品だけれど、シャープの視点から描くことで戦場の描写に説得力を持たせている。ウーグモン(館)争奪戦が印象的だった。

 リドリー・スコットの『ナポレオン』。この映画は半分腐った柿の味がする。エログロの古びたセンスの辺りが特に。

 冒頭、マリー・アントワネットのギロチンシーン。この時点で3つくらいイヤな予感がした。まず、「こっからやるの?」ってこと。だって、ダイジェストにしかならんじゃん。

 もうひとつ、これ残虐シーン見せたいだけだなあっていう。最後に、なんかジョゼフィーヌがフィーチャーされそうな予感がした。ああ、そういうのかこれ・・・。

 悪い予感は的中し、ジョゼフィーヌがやたら出てくる。ただでさえ3時間しかないのに、その内2時間位はジョゼフィーヌ関連。時々、「なんで僕は中年カップルの愛憎劇を見させられてるんだろう…」って気分になる。『ナポレオンとジョゼフィーヌ』ってタイトルにしたほうがよかったんじゃないの?(まじで) それだったら僕も見に行かなかったし。

 別にそういう要素があること自体は否定しないけれど、そればっかりだと退屈で死にそうになる。たとえて言うならば、『銀英伝』の映画でラインハルトとアンネローゼの話(これは姉弟の話だけど)を延々とやられるような感じ。それはつまらんでしょ。

 そうして待ちわびた戦場シーンにどれだけの価値があるかと言えば、これも結構微妙で。

 まずトゥーロンはナポレオンが全然若く見えんことに引っかかる。一人の役者で長い人生を描くから仕方ないのだけれど、当時ナポレオンは24歳だったわけで40代後半のホアキン・フェニックスからは野望に燃えた若手将校の雰囲気をうけない。それに、トゥーロン包囲戦ってこういう話だっけ? かなり事実関係が端折られている。

 そして、たまげたことにイタリア遠征とかアルプス越えとかマレンゴの戦いとかまったく描かれない。ナポレオンが権力を握った背景には兵士からの絶大な人気があったわけで、それは何より彼が常勝将軍だったからなのだけれど、そこが描かれないから、ただの政略に長けた小狡い奴に見えてしまう。

 敵側もネルソンさえ出てこなかった。トラファルガーのトの字もない。んなアホな。で、これ最悪アウステルリッツも描かれないんじゃないかと思っていたら、さすがにそこは描かれていた。でも…って話。人生全部やってるからひとつひとつの会戦に予算を注げず分散している。だから思ったほど迫力がない。1000人規模の戦いに見える。

 それに、この映画にはほとんど戦術という概念がない。右翼とか左翼みたいな兵の展開もなく、敵を右翼に引き付けてその間に中央を落とすみたいな(ナポレオンの得意とした)用兵も見られない。ただ敵がワーっと攻めてきてワーっと押し返して大砲バンバン撃って終わり。なにこれ?

 で、やたら残虐なシーンばかり出てくる。趣味悪。ロシア遠征もさあ…不穏な場面は多いのに、肝心のボロジノの戦いなんかは上空からの画で数十秒描かれて終わるだけ。まあ、空になったモスクワの画はそれなりに見どころだったけれど、それだけだなあ。

 ワーテルローも全然。名高いネイの突撃とかそれに対する英軍の方陣とかもただ画としてやってるだけ。ウーグモンとかラ・エイ・サントの描写とかも全然ない。古参近衛隊の敗退もなんかふわっと流される。そして、驚くことに(主たる敗因となった)グルーシーのグの字も出てこない。さすがに一回くらいは「グルーシーはどこだ!」ってセリフが出てくると思ったんだけどね。

 もうひとつこの映画で不満なのは、将軍たちの描写がほとんどないこと。フランスの輝く将星ネイ、ランヌ、ミュラ、スーシェ、スールト、ベルティエ、ドゼー、ダヴー、ポニャトフスキetc. 画面にはいるっぽいんだけど名前を呼ばれることはないし、ナポレオンがひとりで指揮しているように見える。

 これも『銀英伝』に例えると、ラインハルトの人生を描いた映画で、ラインハルトとアンネローゼの物語が2時間あって、その間に大きな会戦がいくつか描かれて、でもキルヒアイスもミッターマイヤーもロイエンタールも全然出てこないってそんな感じ、それつまらんでしょ。

 IMAXで見たのだけれど、まったく無駄だった。衣装とか美術にお金かかってるだけ。これだったらボンダルチュクの『ワーテルロー』でもリバイバル上映してくれや!(まじで)

☆☆☆(3.0)



【その男は英雄か、悪魔か―】映画『ナポレオン』12月1日(金)全国の映画館にて公開!<予告3>