アイの歌声を聴かせて
SING A BIT OF HARMONY
監督 吉浦康裕
概要
『イヴの時間』シリーズや『サカサマのパテマ』などの吉浦康裕が監督・原作・脚本を務め、女優の土屋太鳳らがボイスキャストに名を連ねたアニメーション。学業優秀でスポーツ万能、何かと言えばミュージカル調で歌い出す主人公が、転校先の学校で周りの人たちを幸せにしていく。ボイスキャストは土屋のほか、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡などが担当する。(シネマトゥデイより)
感想
初日夜。観客は僕ら2人だけ。
あれから数多生まれた偽『君の名は。』みたいな作品たちの記憶。ましてや主演はあの土屋太鳳。みんな警戒してしまうのは分かる。僕だって『サカサマのパテマ』の吉浦監督じゃなきゃわざわざ初日に観に行かなかっただろう。
AIは『イヴの時間』からの吉浦監督のテーマだし、自然エネルギー発電が目立つ近未来的なルックは『打ち上げ花火~』を彷彿とさせる。歌でつないでいく辺りは『心が叫びたがってるんだ』や『竜とそばかすの姫』の系譜に連なるもの。
そういった意味では、あまり新味性がない。
ただ、作品の出来はそうした先行作を上回るものがある。すぐなにか思いついてどっか行っちゃうロボAIの巻き起こす群像劇。土屋太鳳の演技は浮いているけれど、AIって設定に妙に噛み合っていて違和感がない。音楽がかかったときの疾走感、世界が花開く感じ。吉浦監督らしい魅力的な画作り、丁寧な空間設計。
とくに前半の出来は素晴らしい。「吉浦監督あんたサイコーだよ」って、心のなかで拍手喝采だった。
中盤からペースがガクンと落ちる。あからさまなコンフリクト/物語上のハードル。こういう作劇を全否定するわけじゃない。たとえば、『あの花』だってコンフリクトがあるからこそ、あのラストの感情の激流が生まれる。
ただ、これラスト泣けなかったんだよね(むしろ何もない前半の方が泣けた)。わざわざ谷を作ったのに、ラストの山の高さが足りていないというか、むしろ山を登るための勢いが足りてないというべきか。盛り上げようとする意志は感じるんだけど、それ以前にテンションが下がってしまって結局の所あまり効果的じゃなかったように思う。
もうひとつ、致命的だと思えるのは物語上のハードルを作るために、そのためだけに「悪役」を作ってしまっていること。これは本当にダメ。物語の都合のためにキャラクターを作ってしまうと、人々がそれぞれの意志で動いていない世界、作者の都合で作られた世界になる。作品世界全体がチープなものになってしまう。
吉浦さんは本当にビジョンは素晴らしいよ。『サカサマのパテマ』のあの浮遊感はサイコーだって今でも思う。でもあれも安っぽいディストピア描写のせいで作品の美観に傷を付けられていた。多くの人に観られる作品を作りたいんなら、そういう悪癖は絶対に直した方がいい。
吉浦さん、これもう少しで名作になってたよ。
☆☆☆☆★(4.5+)
追記(11/3)
2回目鑑賞
すでに筋がわかってるから気にならないかと思ったけれど、やっぱりハードルのところが気になってしまう。単に不快な気持ちになる。音楽を前面に出しているんだから、もっと全体を心地よく(音楽的に)作れば良いのになと。
もうひとつ、終盤のペースが上がらないのは感情のピークを3つも作っているから。だからペースが上がらない。これ1つにまとめちゃって、後半そこに向けて一気にドライブしていく作りにした方が良かったねと、僕はそう思う。
映画『アイの歌声を聴かせて』歌詞付きMV♪土屋太鳳「ユー・ニード・ア・フレンド 〜あなたには友達が要る〜」|10.29 ROADSHOW