アルキメデスの大戦
監督:山崎貴
概要
「週刊ヤングマガジン」連載の三田紀房のコミックを原作にした歴史ドラマ。1930年代の日本を舞台に、戦艦大和の建造計画を食い止めようとする数学者を描く。監督・脚本・VFXを担当するのは、『ALWAYS』シリーズや『永遠の0』などの山崎貴。主演は『共喰い』や『あゝ、荒野』シリーズなどの菅田将暉。軍部の陰謀に数学で挑む主人公の戦いが展開する。(シネマトゥデイより)
感想
原作は読んだことがある。正直、読み進めるのが苦痛だった。物語上のコンフリクト(葛藤)を作るための安っぽい人物造形。子どものケンカのような幼稚な会話。
これを史実だと思う人はまさかいないだろうけれど、実在の人物の名を使ってこのように安っぽい人物造形にするやり方は僕は好きではない。彼らもその時代を生きたひとりの人間だ。実在の人物を(彼らに対する敬意もなく)物語のために捻じ曲げる。そういうやり方は、正しくない以上に面白くない。
実際の歴史の方が、頭の中だけでこね回したこんな物語よりはるかに面白い。理由は単純だ。彼らはこの作者より遥かに頭がいいし(当時の高級軍人は超のつくスーパーエリート。もちろん、だからと言って「間違えない」わけではないけれど、この作者は単に「後出しジャンケン」でマウントを取っているだけ)そして何より自らの全存在をかけて生きているからだ。だれも物語のために生まれてきた人間はいない。
天才数学者/技術者の狂気を描いたという点では、宮崎さんの『風立ちぬ』に通じるところがあるかも知れない。でもね、『風立ちぬ』の主人公二郎は宮崎さん自身でもあるんだ。彼の葛藤がそこにはモロに現れている。この作品からはそうした魂みたいなものが感じられない。
そもそもこの作品は論題の設定に失敗している。「大和の建造を阻止すれば日本が戦争に向かうのを止められるか?」。答えはNoだ。第一に、大和を作ろうが作るまいが、日本は対米戦に突入していた。政治状況が変わらない限り、たとえ大和を作らなくても、その分の予算が他の軍事費に回されるだけ。まあ、もう少し「マシな戦(いくさ)」は出来ていただろうけれど、正直、それくらいの違いしかない。
だから、「大和」の建造阻止を「平和」と結びつけるのはそもそも筋が違う。この主人公は本来、結びつかないものを結びつけようとしている。だから、その行動が最初から最後までまったく無意味なものに見えてしまう。この主人公は頭が良い設定なのに、そんなこともわからないの?
第二に、「戦争へ向かう」って言葉の違和感。あのさ…当時の「戦争」に対する皮膚感覚を理解している? 日露(1904)、シベリア出兵(1918)、満州事変(1931)、盧溝橋(1937)…断続的に「戦争」は起こっている。日中戦争は戦争じゃないってか?
そんなものは日常茶飯事だった。だから海軍にとっての(ひいては国民にとっての)最大の関心事は「戦争」そのものではなく、むしろ「対米戦」がどうかって話(この場合の対立軸は戦争⇔平和ではなく、勝利⇔敗北になる。その違い)。そこの辺りをこの作品は混同している。「戦争へ向かうのを~」なんて言葉は平和ボケした現代の日本人が吐いた言葉にしか聞こえないよ。
おまけにVFX/CGも酷い。『トイ・ストーリー4』は内容的には「アレ」だったけれど、CGはもう肌で感じ取れるくらいに進歩していた。そこへ行くと、白組のCGはなんじゃこりゃ。『永遠の0』から全然進歩してないじゃない。物の重さも存在感も感じられない、ディテールもまるで足りない大和。それを「大和」と言うか?
こう言っちゃなんだけれど、『この世界の片隅に』に描かれた大和のほうが、この映画の「大和」なんかよりも遥かに実在感があったよ。物量対決、技術力対決になったらハリウッドに勝てないの分かっててこういうものを作る。「大和」の教訓を活かせていないのは、果たしてどこのだれ?
☆★(1.5)