映画ドラえもん のび太の月面探査記(4.5) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

 
映画ドラえもん のび太の月面探査記 
 
監督:八鍬新之介
 
概要
 『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』などの八鍬新之介が監督、直木賞作家の辻村深月が脚本を担当した『映画ドラえもん』シリーズ第39作。月を舞台に、のび太たちが冒険を繰り広げる。水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみらおなじみのメンバーがボイスキャストを務め、ゲスト声優として広瀬アリス、お笑いコンビ「ロッチ」の中岡創一、お笑いコンビ「サバンナ」の高橋茂雄、柳楽優弥、吉田鋼太郎らが参加している。(シネマトゥデイより)
 
感想
 これまで、山崎貴や川村元気によるお涙頂戴でズタボロにされてきた「ドラえもん」。それでもまだ見に来てしまうのは、結局のところ僕の根本にあるから…なのかな。まわり小学生しかいないけど気にしない。あきちゃん(豊永阿紀)も「見に行く」って言ってたし!←
 
 冒頭、誰もいない月面をひた走る探査ロボット。まるで『WALL-E』のようだ。レイアウトよし、雰囲気も悪くない。これは期待できるかな…?
 
 辻村深月による脚本は、ツッコミどころや入り組んだところもあるものの、「ドラえもん」と作家自身の世界をちゃんと融合させている。「異説クラブ」をアレンジするという発想も悪くない。原作に準拠した序盤は、当然のことながらほぼ完全に藤子Fワールドだ。天動説で描かれる世界が美しい。
 
 オリジナルのゲストキャラクターもきちんとキャラが立っている。デザインには異物感があるものの、それもやがて慣れていく。さらに仲間が登場するに従って、彼のキャラクターに生命が吹き込まれていく。とくに良いのは「アル」だな…。単にひとりを放り込むだけじゃなく、周りにああいうキャラクターを配置することで、ちゃんとこの世界に生きている存在だと感じさせる。
 
 逆に、やや「弱い」と感じたのは、月世界や惑星かぐやの描写。これはむしろ美術の問題かな。小説だったら言葉で済んでしまうことでも、アニメの場合はひとつひとつ描かなければならない。原作では地底になっていた設定を月に変えたことで、世界デザインも一からやり直さざるを得なかったのだろう。そこに宮崎駿のような天才でもいない限り、ひとつの世界を構築するのは難しい。
 
 まして、「月」と「惑星かぐや」という2つの世界をそれぞれ説得力のあるものとして築くのは極めて困難だ。「かぐや」にちなんだ「竹」というアイデアは良いと思うけれど、それはのび太の作った「月世界」よりもむしろ「惑星かぐや」にこそ相応しかったのではなかろうか。世界観に関しては、設定をもう少し透徹すべきだったように思う。
 
 考証に関しても少し。「光ゴケ」が重要なアイテムとして出てきたけれど、あれは地底だからこそ意味がある。壁面や天井一面に張り付いて光を発するから地底全体が明るくなるんで、月面のようなオープンな空間で使ってもあまり意味がない。地面がボヤ―っと光るだけだろう。
 
 それから、月面での「カーチェイス」シーン。一瞬、橋みたいな岩が出てきたけれど、月面にあんな岩ありえないから。ああいう奇岩は水の侵食で作られるんだから。そういうところは徹底して欲しいなと。
 
 もうひとつおまけに。「月のうさぎ」に関しては『魔界大冒険』で魔法世界に行った際、のび太が「月にウサギがいる!」って驚いている描写がある。つまり、もともとのび太は月にウサギがいないってことを知ってる筈なんだ。まあ、「雲の王国」では雲の上に「天国」があると思ってたりするのび太だから、原作でもその辺の設定があやふやなのは確かなんだけれどね。
 
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『のび太の魔界大冒険』
 
 それはともかく。そういう細かい話をすれば、イチャモンはいくらでもつけられる。それは原作者がいないんだから仕方ない。それを踏まえた上で全体的な話をすれば、これは大長編シリーズの「非原作モノ」のなかでも、かなり良い出来のように思える。もしかしたら、2013年の『ひみつ道具博物館』を抜いて最良の作品かもしれない。
 
 とくに素晴らしいと思えるのは、本筋にはそれほど関わらないところにチョコチョコと現れる情景描写だ。この映画は、きちんと月夜の明るさ…あの青く透明な空を描けている。夜空に流れる雲のあの不思議な近さや、街の灯りのあのほわっとした暖かさ、月光に照らされるススキたちのキラキラとした輝き、そうしたものがこの映画に詩情を与えている。
 
 たとえば、『となりのトトロ』での嵐が止んだ月夜の静かな煌めきや、『魔女の宅急便』でのキキがラジオを止めた瞬間に聞こえてくる風の音、『夜明け告げるルーのうた』での遠くに流れていく電車の明かり。それらに感じた夜の詩がこの映画にもある。それだけでもう、充分じゃないかな…。
 
☆☆☆☆★(4.5)