ボヘミアン・ラプソディ
BOHEMIAN RHAPSODY
監督:ブライアン・シンガー
概要
「伝説のチャンピオン」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」といった数々の名曲で知られるロックバンド、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記ドラマ。華々しい軌跡の裏の知られざる真実を映す。『X-MEN』シリーズなどのブライアン・シンガーが監督を務めた。ドラマシリーズ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」などのラミ・マレック、『ジュラシック・パーク』シリーズなどのジョー・マッゼロらが出演。フレディにふんしたラミが熱演を見せる。(シネマトゥデイより)
感想
僕はブリット・ポップ世代だから、クイーンと云われても今ひとつピンと来ない。もちろん、聴いたことはあるし、凄いバンドだとも思うけれど、要はそれくらいの距離感なんだ。
この映画、そうした距離感の違いによって、感想も違ってくるだろう。クイーン世代の人ならば、自らの記憶をここにオーバーラップさせて見ることが出来る。でもそうした記憶を持たない僕にとっては、正直、平凡な伝記映画だ。
なんだろうな…たとえば、チューリングとかホーキングとかラマヌジャンのような数学的天才を描いた映画と、この映画の間にどれだけの違いがあるかと言えば、本質的には何も違わない。これまで散々作られてきた「天才」伝記映画。そこに添えられているスパイスが、たとえばジェンダーだったり、ドラッグだったり、移民だったり、数学だったり、文学だったり、音楽だったりという違いがあるだけでね。
この映画ではとくに、「ボヘミアン」ゆえの孤独さみたいなものに焦点が当てられている。ブライアン・シンガーは、X-menの時代から一貫して「マイノリティ」を描いてきた人だから、こういうテーマ設定にしたことは理解できるし、このテーマに思い入れがあるのも分かる。でも裏を返せばそれは、クイーンやフレディ・マーキュリーそれ自体は、テーマを語るための素材に過ぎないってことになりやしないか?
たとえば、(別に伝記映画ではないけれど)同じく「ボヘミアン」を題材にしたミュージカル『レント』からは、僕は、自分が実際には知らない当時のイーストヴィレッジの…そこに住んでいた若きボヘミアンたちの息遣いが感じられる。それは作った本人(ジョナサン・ラーソン)がまさにその一人だったからだろう。
この映画からは、そうした息遣いが感じられない。描こうとする対象と制作者が(マイノリティという一点を除いては)断絶している。こうした類の伝記映画がたまらなく退屈に思えるのは、描こうとする対象がいくら「天才」であっても、描き方が「平凡」なら、それは結局「凡作」にしかならんってこと。不思議なことに、こうした映画の主人公は誰も彼もがみんな同じに見える。「○○は規格外/常識はずれ」だと言ってのける映画それ自体が「型」にはまり込んでいる。
そういうものだと思って見れば、これもそれなりには見られる――たとえば、「まんが日本史」のように――けれど、それ以上でもそれ以下でもない。特に、そこにオーバラップさせる自らの物語が何もない僕にとっては、つまらなくはないけれど退屈だ。呆れるほど繰り返されてきた物語をもう一度聞かされているような、そんな気分になる。
特に中盤はやや退屈に感じるけれど、それでも終わりに向かう道筋はうまく出来ている。宣伝にも用いられている「ラスト21分間」が始まる辺りでは、「ここまでの物語はいわばオマケだ、ここからの出来がよければ万事オッケー」という気持ちにもなってくる。テンションも上がる。
実際、ライブ冒頭「ボヘミアン・ラプソディ」が始まった辺りではわりと感動もする…けれど、ライブが進行するに連れて、次第に「ここには嘘がある」ということに気づく。なんだろうな…カメラワーク、CG、役者/エキストラの演技、差し込んだ陽射し…。「これは本物じゃない」、強くそう感じる。コンサートの空気感というか…バンドと観衆の巻き起こす「波動」のようなものが再現できていないんだ。
このシーンには大きな矛盾があるように思う。実際に行われたアクトが本当に特別なものだったら、それは映画では再現できない。再現できるとしたら、それは何ら特別なものじゃなかったということだ。このアクトが特別なものだったという「演出」をすればするほど、このシーンの「嘘」が強調されていく。
演者の表情に、観衆の熱狂に、「嘘」がある。どれだけ取り繕っても、それは誤魔化せない。
多くの人がこの映画を見たあとで、You Tubeで当時の実際のコンサート映像を見るだろう。僕もそうだ。そこにあったのは、何よりも自由さだった。空を駆け巡るような自由さ。
その映像の背後にある文脈は、この映画では一つの物語として提供されている。ゆえにこそ感動もするだろう。だけど、逆に言えばそれは、見方を規定してしまうということにもなる。それがまた本質を損ねている。
You Tubeに比べれば音質は段違いに良い。でも、そこにあった筈の自由さが、そこに居た人たちが抱えていた筈の無数の小さな物語が、本当の熱狂が、この映画からは伝わってこない。少なくとも、僕には。
唯一、バックに流れているクイーンの音楽だけが本物だ。
☆☆☆☆(4.0)