ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
THE POST
監督:スティーヴン・スピルバーグ
概要
メリル・ストリープとトム・ハンクスが共演し、スティーヴン・スピルバーグがメガホンを取った社会派ドラマ。実在の人物をモデルに、都合の悪い真実をひた隠しする政府に対して一歩も引かない姿勢で挑んだジャーナリストたちの命懸けの戦いを描写する。『コンテンダー』などのサラ・ポールソンやドラマシリーズ「ベター・コール・ソウル」などのボブ・オデンカークらが出演。脚本を『スポットライト 世紀のスクープ』で第88回アカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーらが担当した。(シネマトゥデイより)
感想
ハルバースタムに『ベスト・アンド・ブライテスト』という名著がある。JFK、LBJ、マクナマラ、マクジョージ・バンディなど、当時の「最良の、最も聡明なはずの人々」が、なぜベトナム戦争の泥沼に突っ込んでいったのか…。彼らが愚鈍な悪人だったんなら話は簡単だ。でもそうじゃない。ハルバースタムは彼らに一定の敬意を払うからこそ、より強い疑問をもつ。いったいなぜなんだ…と。その筆致は冷静だけれど、迫力に満ちている。
そしてもちろん、ボブ・ウッドワードの『大統領の陰謀』…。彼は共和党支持にも関わらず、ウォーターゲートで共和党の大統領(ニクソン)を辞任に追い込んだ。それは『スポットライト』の記者たちも同様だ。彼/彼女らはさほど敬虔ではないにしても、自らもキリスト教徒で、生まれたときから教会を身近に感じていた。それでも神父たちのスキャンダルを暴いていった。
この映画の主人公たちも同じような境遇だ。糾弾しようとする相手とは友人関係にある。
ぼくがアメリカという国をうらやましく思えるのは、彼らのようなジャーナリストが存在し、そして尊敬を集めているからだ。党派性を越えた信念を持つ彼らのことを思うとき、ひとつの格言が思い浮かぶ。「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」。上にあげた例とは逆だけどね。要は党派性を越えて守らなきゃいけない地平があるってこと。
この映画、日本においてもある種タイムリーなところがある。昨今、話題となっているとあるニュースを連想させるからだ。じっさいそういう切り口で語ることもできるだろう。ただ、こと「党派性」という観点から見ると、シチュエーションはかなり異なるようにも思う。
思えば、ジャーナリズムを正面切って描いた映画は、いまの日本にはほとんど存在しない。とりわけお客さんを呼べるようなものはね。近年を見ても『ナイトクローラー』のような映画としては『SCOOP!』があるけれど、『スポットライト』のような…そしてこの『ペンタゴン・ペーパーズ』のような映画はない。
不思議なんだ。『ダンケルク』や『スター・ウォーズ』や『リメンバー・ミー』を作れないのは仕方ない。お金も技術もないからね。でも、『スポットライト』みたいな作品が作られないのは、どうしてなんだ。かろうじて原田眞人監督がやろうとしていたくらいかな…。『クライマーズ・ハイ』はそうした薫りがほのかにした。けれど、あれも(実際の事故が背景にあるとはいえ)もとは小説だしな…。
閑話休題
話が逸れた。この映画は『ベスト・アンド・ブライテスト』と『大統領の陰謀』の間を埋めるような映画だ。JFK…LBJ…マクナマラ…ニクソン…キッシンジャー…そんな名前が頻出するけれど、アメリカ現代史ではおなじみの名前だし、スピルバーグらしくそうした知識がなくても楽しめるようにはなっている。
スピルバーグはやっぱり巧いんだ。この映画でもっともドラマティックな場面は、テーブルの上に新聞が並べられていくシーンだ。あんな地味なシーンがあれだけ感動的に見える…そこまでの場面の積み重ねでそう見えるわけで、その辺の手管はやっぱりすごいよ。
それはもちろん、脚本の手柄でもある。この脚本の方、『スポットライト』を書いた人なんだね。ああいうところに見せ場を持ってこようとするって、その発想の時点でもう違う。ねえ? うらやましい。ちゃんとした信念を持っている人間は「愛」だの「恋」だの「友情」だの書かなくても、ちゃんと人を感動させられるんだ。
ただ、この手の映画にしては、ちと寓話的に見えるところはあるかな…。とくにメリル・ストリープ。もちろん巧いんだけど…登場シーンに吉永さんの映画と同じ匂いを感じたと言うか…。劇中での彼女の成長が物語の鍵を握っているわけで、メリル・ストリープの演技力なくして成立しないというのも確かなんだけれど…なんて言うのかな、演技力とかそれ以前に…と言うかその巧さ含めて「ああ…メリル・ストリープだなあ」って。
☆☆☆☆★(4.5)