NETFLIXでいくつかドキュメンタリーを見たので、その雑感を少々。
『イカロス』
アカデミー賞を獲得した作品。ぼくが見たのはアカデミー賞を獲る前。もともと、(ドーピングでツール7連覇を剥奪された)ランス・アームストロングが好きで、彼に関するドキュメンタリーも見ていたから、これもそんな感じかな…と。
このドキュメンタリーはまず、アマチュアのロードレーサーでもある監督が、ランスのしたことを「実際に再現」しようとするところから始まる。それがやがて、ドーピングをめぐる国家的陰謀に巻き込まれ…って、いやその落差! サスペンスドラマかと!
「入り口」と「出口」が違うと言うか、途中からランスどころの話じゃなくなってくるので、ドキュメンタリーとしての完成度という点では疑問符が付く。ただ、エンターテイメントとしてはもう圧倒的に面白いし、ロシアがなぜ五輪出場停止になったか…という一大事件の記録としても興味深い。
『ストロング・アイランド』
これは一転してシリアスで陰鬱なドキュメンタリー。主観性のパースペクティブというかな…客観性よりはむしろ主観性を前面に押し出したスタイル。なにせ、このドキュメンタリーで扱われる射殺事件の被害者は、監督の実兄なのだ。
犯人は「正当防衛」として不起訴となった(ちなみに、被害者は黒人で犯人は白人、陪審もみな白人)。でも…「兄」は本当にそこで言われているような、殺されても仕方のない人間(=暴力で脅すならず者)だったのか…母や友人、そして監督本人の証言によって「兄」の人物像が浮かび上がっていく。
親しい人の証言でほとんどが構成されているから、偏っているという批判はあり得るかもしれない。ただ、偏っていることそれ自体によって、事件の欠けていたピースが埋められていく、そんな印象。これもまた、ひとつのドキュメンタリー。アカデミー賞ノミネート作品。
『フォックスキャッチャー事件の裏側』
ベネット・ミラー監督の名作『フォックスキャッチャー』でも描かれた事件のドキュメンタリー。あの映画は「文学」としてよく出来ているけれど、やはりフィクションの部分もある。これを見ると、実際の顛末がよく分かる。
なにより印象的だったのは、被害者となったデイヴの…娘さん。父親を殺された当時はまだ幼かった彼女。大人になった彼女は、犯人のデュポンが塀の中で亡くなったことについて聞かれ、こう答えたんだ。「ホッとしたけれど、不公平だとも感じた」と。父親の死は誰からも悲しまれたのに、デュポンは誰からも愛されず、その死をみんなが喜んでいる…それは悲しすぎる。不公平だ…と。
ああ…なんて人だ。親を殺されたのに、その仇をも憐れむなんて。
なんだろうな…このドキュメンタリーでは、デイヴがいかに人格者で、いかにみんなに慕われていたかということが繰り返し描かれる(そしておそらく、その人望こそが、被害妄想だったデュポンに敵視される一因になった…)。ただ、ここで描かれていたすべてのことよりも、彼女のこの言葉こそが、「ああ…この子のお父さんは本当に人格者だったんだろうな…」と痛切に感じさせた。あの親にしてこの子あり…と。
人は…親を殺されてもまだ、その仇をも憐れむことが出来る…。