3月のライオン 前編 (2.5) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

 
3月のライオン 前編 (2017)
 
監督:大友啓史
 
概要
 羽海野チカの人気コミックを、2部作で実写化したドラマの前編。家族を亡くして孤独に生きてきた17歳のプロ棋士が、ある3姉妹と心を通わせながら厳しい将棋の世界を突き進む。メガホンを取るのは、『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史。『るろうに剣心』シリーズにも出演した神木隆之介、『映画 ビリギャル』などの有村架純、『ヒミズ』などの染谷将太、テレビドラマ「カインとアベル」などの倉科カナらが出演。緊張感に満ちた対局シーンに目を奪われる。(シネマトゥデイより)
 
感想
 30年に一度くらいの豊作だった昨年の邦画界(アニメ含む)、口火を切ったのが珠玉の名作『ちはやふる~上の句~』だった。東宝配給、ROBOT制作の春映画。マンガ原作の実写化で前編後編の2部作。
 
 そんな辺り、共通点も多い今年公開の『3月のライオン』。
 
 今年は…ダメかも…と、この映画を見て思った。ぼくはもともと、この原作自体をいまひとつ好きになれないのだけれど、この映画はもう…それ以前の問題。
 
1.「湿度」
 アニメを見たときにも感じたのは…単純に言えば、マンガとアニメ、実写映画はそれぞれ違うってこと。何が違うって、まずマンガには音声がない。当たり前のことを言っているようだけれど…人の声って、湿度があるんだ。
 
 文字ってのは(書体やなんかで表情をつけることが出来るけれど)基本的に乾いている。それは物理的にもそうだし、見る分にもさっと流して見てしまえる。視線ってのはサッと流してしまうことが出来るんだ。あえて言えば「風」…と言うのかな。
 
 でもね、声ってのは、そうはいかない。人の発声器官自体に湿度があって、それはもちろん電気信号に変換される段階で失われるけれど、でも情報自体は伝わるわけで、スピーカーから聞こえる声にも湿度が感じられる(とぼくは思う)。それに、声は時間に縛られて伝わるから、粘性があるんだよね。文字のようにサッと流すことが出来ない。何というか…身体にまとわりつくんだ。
 
 でね…この文字と声の違いによって、同じことを書いて/言っても、受け手の印象は違ってくる。もともと、『3月のライオン』はストーリー的にも湿っぽいし、主人公のモノローグも多いわけだけれど、文字であることによって湿度はそこまで高くない。でも、同じことを声でやってしまうと、非常に湿っぽい印象になる。ジメジメ…っとした感じ。
 
 それにね…原作マンガを読み直して改めて思ったのだけれど、川本家の日常描写が細かいんだ。時にデフォルメされたコロコロとしたキャラクターが繰り広げる日常は…いかにその背後に悲しみを秘めていたとしても…「愛らしい」という形容詞が似つかわしいようなものなんだよね。
 
 (いい意味で)ちまちまとした日常描写と、あの川本家の暖かさによって、湿度もまた心地よいものになっている。なんと言うかな…暖かな日常でも、乾いてるんじゃなくて、やや湿度のある日常なんだ(比較すれば『海街diary』はもっと湿度が低くて爽やかな印象がある)
 
 つまり、何が言いたいかと言えば、原作マンガでは湿度が不快にならない程度に全体がコントロールされているということ(それでも、イジメ関連のところは湿度が高くてやや不快なのだけれど)
 
 アニメの場合、音声が加わることによって、(日常描写のところですら)やや不快な湿度になっている。「ちょっと湿っぽいな…」って。原作マンガはもう少しエンターテインメントな印象があるのに、アニメはちと湿っぽくて見ているのがツラいんだ。
 
 これが実写になると、もうアナタ! 音声だけじゃないわさ。アニメってのは、要は絵かCGだから、それ自体には湿度はないわけで。そこへ行くと、人間ってのは生身だから…中身、水だから。それ自体、湿度が高いというか、この場合、生々しいと言い換えた方が良いのかな(生ってのは水気があるってことだから)
 
 たとえばさ…あかりさん(倉科カナちゃん)が妙に生々しくてエロいんだ…それは違うだろうと。あかりさんってのは、もっと母性のかたまりみたいな人で…って仕方ないんだよね。生身の人間ってのは、もうそれ自体で生々しいんだ。なんかさ…「あれ? このシチュエーション、じつはエロくね?」って、マンガじゃ決して抱かなかった感想を抱いた。
 
 姉貴=有村架純ちゃんがエロいのは意図としては分かるけれど、あかりさんがエロいと劇構造そのものが変わってしまう…。つまり、エロスってのは時に攻撃的(挑発的)でもあって。あかりさんって、少なくともマンガの描写では、そうした攻撃性が全然感じられないんだよね。だからこそ、癒しの空間に成り得るわけで。
 
2.脚本
 それに、この実写版は脚本が良くない。初っ端から葬式シーンでな~んか湿っぽいし…。実写にした時点で湿度が上がっちゃうんだから、それをさらに湿度を上げる方向に脚色してどうすんのって。
 
 川本姉妹がいきなり零君の素性を知っちゃう改変もよく分からんしな…。将棋がすべての零君にとって、将棋と無縁な川本家はまずそのこと自体によって安らぎの場所となるわけでしょ? なんでその構造変えちゃうの…。みんなで応援してカタルシスって、それなんか作りとして安すぎない?
 
 流れも変。連載マンガと映画じゃ、当然、流れの作り方は違う筈なのに、この映画は物語を融かして再構築するんじゃなくて、微妙に組み替えながら中途半端にダイジェストにしている。だから、物語の焦点が見え辛いし、その上、前編と後編に分けているせいもあって、全体の流れも掴めない。「え? これどこで終わるの?」って。後半、長かったなあ…。
 
 それにさ、『3月のライオン』って、やっぱり日常描写に妙味がある作品だと思うのね。ただ将棋をやっているマンガじゃないわけさ。この映画…そこのところがどうも分かってないんじゃないかって気がする。実写版『海街diary』はあれはあれで不満はあったけれど、日常の描写は丁寧にやっていたし、これに比べたらずっとマシだったと思える。
 
3.美術など
 「日常描写」って観点から言えばさ、もう、美術もさ…。あかりさんがぽっちゃりタイプが好きだからって、家の中にお相撲グッズが山ほどあるって…そういうのって、なんだろうな…トレンディドラマとか、そういう系統の発想の気がする。ぽっちゃり好き=お相撲グッズって記号化しちゃってるんだよね。それじゃ、あのちまちまとした温もりのある日常の描写は出来ない。
 
 あと、衣装というかスタイリスト? スミス先輩とか…サイテーだったのは、染谷君の二階堂…。コスプレかっつの。そこもマンガと実写の違いを考えてないというか。マンガでは成立していても、その髪型をそのままやれば良いってわけじゃないよ。風体も特殊メイク丸出しで、その世界にちゃんと生きて暮らしている人には見えなかった。
 
 なんか、あんなユルい画でよくOKしたな…って。そういや、この監督さんが撮った『るろ剣』でもやたらぬるい画があって、「なんだこりゃ…」って思ったんだ…その辺の感覚はぼくにはもう理解できん…。なんであんなユルい画がOKになるんだって。
 
 これ、後編はもう見ないな。
 
☆☆★(2.5)