怒り(4.0) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

 
 
『怒り』
 
監督:李相日
 
概要
 『横道世之介』『さよなら渓谷』などの原作者・吉田修一のミステリー小説を、『悪人』でタッグを組んだ李相日監督が映画化。現場に「怒」という血文字が残った未解決殺人事件から1年後の千葉、東京、沖縄を舞台に三つのストーリーが紡がれる群像劇で、前歴不詳の3人の男と出会った人々がその正体をめぐり、疑念と信頼のはざまで揺れる様子を描く。出演には渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡など日本映画界を代表する豪華キャストが集結。(シネマトゥデイより)
 
感想
 今年、『ちはやふる』『シンゴジラ』『君の名は。』とエポックメイキングな作品を送りだしてきた東宝配給、市川南製作。しかも、今作は企画が川村元気というところまで『君の名は。』と同じだ。
 
 さらに上記3作品では、監督が脚本も兼ねているという共通点がある。それに対して、今年の東宝作品の中では失敗作の部類に入る『世界から猫が消えたなら』と『四月は君の嘘』では監督と脚本が別人だった。
 
 この『怒り』は、前3者と同様に監督が脚本も兼ねている。これは、当たりのパターン…なのか?
 
1.
 この映画、多くの人がそう語るように、「人を信じることの難しさ」がテーマになっている。こうしたテーマを、明確に物語の中で現出してみせる。それはやはり、小説原作ならではの醍醐味だ。そして、監督が脚本を兼ねていることの効用は、この作品にも見出せる。このことについて、原作者の吉田修一がこんなことを語っている。
 
これを脚本にするためには、映画のプロの手じゃないと難しいだろうなと思った。演出しながら脚本を書かないと成立しないということを直感で気付いたということです。
 
 さすがに数々の作品が映像化されているだけあって、吉田さんはその辺りのことを良く分かっているなって気がする。その彼は、この脚本を読んでこういう感想をこぼしている。
 
読んでいる間、ずっとリズムが打たれているんですよ。ドン、ドンッと。(中略)最初から脚本のための脚本ではなく、映像になるための前提としての脚本というのでしょうか。それは当たり前だと思いますが、監督の中でしっかりとリズムが出来上がっていて、脚本からもそれが伝わってきた。うまいなと思うと同時に、早く映像として観たいなと思いましたね。
 
 吉田さんが感じたそのリズムは、ちゃんと映像にも表れていた。ただ…中盤はややもたつき感がある。3つの筋を並行に動かしていることによって、物語のピークを揃えることが難しくなっている。序盤とクライマックスは一気に「読ませる」けれど、この中盤のもたつきによって、全体を通しての娯楽感はさほどない。
 
 それから、この手のミステリーものにはありがちなことだけれど、「派遣労働」とか「米軍沖縄基地」、あるいは「孤児」や「知的障害」、「同性愛」といった「社会問題」を扱う手つきが雑過ぎる。個人にはどうしようもない社会的不正義や業みたいなものが事件と結び付くのは松本清張的でも、ここでは単に物語のために使われているような印象で、あまりにも底が浅く見えてしまう。そのせいかタイトルになっている「怒り」がいまいちグサッとこない。
(だからこそ、「人を信じるって難しいね」みたいな感想になるわけで)
 
2.
 映像に関しては…正直どうなんだろうな。ところどころに良いショットはある。冒頭、星空のような光景。夜の街を映した俯瞰の空撮ショットで、窓の灯りがまるで星々のように見える。どこか不穏な気配。でも素晴らしい。期待が高まる。
 
 それから、終盤の、(予告にも映っている)上空から住宅街を真下に見下ろした、まるで衛星写真のようなショット。幾何学的な街並みの冷たさによって、その中を歩いていく犯人のドス黒い感情が中和されて、でも逆にそのことによって不穏さが増している。
 
(それから、海を眺める広瀬すずの「背中」をローアングルから映したショットも良かった。まあそれは、ただ単純に画として良いってことだけれど)
 
 ただ…「顔」が映った瞬間に、この映画はただの「映画」になってしまう。思えば、『ソロモンの偽証』が素晴らしかったのは、見知らぬ子供たちの顔だった。見知らぬ「顔」は人を不安な気持ちにさせる。それに対して、この『怒り』に登場するのは、よく見知った顔…顔…顔…。こうした顔が映ることで、それまで仄見えていた不穏さは影を潜めてしまう。それはもう、演技の巧拙以前の問題。
 
 もうひとつ。広瀬すずの特徴は「声」だってことに気が付いた。あのどこか金属的な響きを持つ声はひどく印象的だ。でも、今作では逆に、その印象的な「声」が見知った「顔」同様に、映像の生々しさを奪ってしまう。あれ…千早…? が喋っているのか? ←『ちはやふる』見過ぎた副作用(笑)
 
 まあ、「体当たり演技」は買うけどね〜…。そうそう…某サイトの※「すずちゃんが黒人米兵2人に犯されます。バックから。マジふざけんな!クソ映画!」ってユーザーレビューが傑作だった。見方が偏り過ぎていて、いっそ清々しい。変に中立ぶった見方より、これくらいはっきりした見方の方が僕は好きだ(リンク先ネタバレ注意)
 
☆☆☆☆(4.0)