刺傷被害女性は「アイドル」なのか 「シンガー」との線引き巡り「そもそも論」浮上
1.
上に挙げた記事のように、「そもそもアイドルとは何なのか」という議論まで登場してきた今回の事件。ぼくは「実態としてアイドル活動をしている子」と「アイドル的な要素をもった子」の二つに分けて語らなければならないと思っています。
「実態としてアイドル活動をしている子」というのは、握手会をはじめとする「ファン交流」を柱のひとつとして活動している子のことを指します。一方の「アイドル的な要素をもった子」というのは、「アイドル」というイメージに近い要素を持った子のこと。「若さ」とか「可愛らしさ」ってのも、その要素のひとつでしょう。
前者は「仕事」の問題なので、実際にそういう仕事をしている人にしか当てはまらないのに対し、後者は「性質」の問題なので、そういう要素を持つ人ならば、およそ誰にでも当てはまります。
冨田さんの場合は、明らかに後者です。
たしかに、雑誌付録のDVDドラマの企画としてアイドルグループに所属していた時期(2011~2012頃)もありましたが、(犯人が目をつけたと思しき)ここ2~3年の活動を見るならば、その活動は明らかに「実態としてアイドル活動をしている子」のものではありません。本人の自覚としてもそうだったようで、「真由ちゃんが自分のことをアイドルだと言ったことは1度もありません」というファンの証言も出ています。
2.
吉田豪さんや田中秀臣さんといったアイドル業界に造詣の深い方たちや、本人と直接接点のあった方たち①②が、「冨田さんはアイドルじゃない」と言い続けているにもかかわらず、多くのマスコミは「アイドル刺傷事件」と呼び続けています。
(現状、「アイドル」という呼称を使っていない大手マスコミはNHKと読売くらい)
とくに「アイドル活動をしていた」*と報じている各社①②③の報道は、どう見てもミスリードです。このミスリードのどこがマズイかといえば、今回は「アイドル的要素を持った子」の事件であり、およそ誰にでも当てはまり得る話であるのに、「実態としてアイドル活動をしている子」の固有の問題として捉えられてしまうということです。
(追記:この言い方は時制が曖昧にされているように思います。記事から見ると事件自体が過去の出来事なので、読み方によっては事件の頃にも「アイドル活動をしていた」と読めます。「かつてアイドル活動をしていた」ならば、ぼくは問題ないと思います)
とりわけ酷いのはフジ産経グループで、彼らは当初から「アイドル活動」に内在する問題として今回の事件を取り上げていました。
インターネットでの情報発信や握手会など、ファンとの交流を重視して人気を集める近年のアイドルブーム。その一方、距離感を見失って暴走してしまう事件が増えてしまったといえる。(産経)
個人情報が漏れる恐れも 常に危険と隣り合わせのアイドル事情(夕刊フジ)
女性アイドル刺傷 「地下アイドル」の実態を取材しました。(フジテレビ)
フジテレビに対しては、取材を受けた識者たちが散々「冨田さんは地下アイドルじゃない」と説得したようですが、まったく話が通じなかったようで、田中秀臣さんも呆れ顔でした↓
吉田豪さんが悪戦苦闘した電話の相手と僕も説得不可能だと思った相手は同一人物だろうけど、おそらく姫乃たまさんの相手も同じ人か、その制作チームの一員ではないかと? いずれにせよ、この三人で話しても「テレビ局のシナリオ」を変更できなかったので、誰がやっても現時点では変更無理かと思います
(追記:フジに関してはこんな話も)
【炎上】冨田真由さん刺傷事件に関して吉田豪が説明するもフジテレビが捏造し全く違うコメントを放送
まあ、アイドルとかドルヲタへの偏見があるのは、いまにはじまったことじゃないので…こうした機会を「利用して」、毎度おなじみの偏見を垂れ流しているだけだなと思いますが…。
ひとつ思うのは、結局、彼らにとって取材ってのは、あらかじめ作った「物語」にもっともらしさを与えるための手段に過ぎないのだなってこと。本来、これは逆であるべきで。取材していく中で認識と違う事実が出てきたのならば、「物語」の方を書き換えなきゃならない筈で。
これだけ「マスコミは!」って叩かれているのに、いまだにそうしたやり方が抜けていないってのは、いったいどういうことなんだろうなって…。
3.
ただ、こうした問題はマスコミやメディアだけの問題ではないかも知れません。結局、人は見たいものを見るのであって、ああした物語をマスコミが垂れ流すのも、視聴者/読み手側にそうした物語を受け入れてしまう潜在的な何かがあるからでしょう。マスコミは視聴者/読み手の顔を映す鏡みたいなもんですから。
こうした視聴者/読み手の代表的な例として、以下のような方たちのコメントを考えることが出来ます。彼らは一義的には視聴者/読み手ですが、また一方では、Yahooオーサーとして発信者でもあります。そのコメントからは、こうした業界に対する彼らの無知と、根深い偏見が見え隠れします。
「現代のアイドルは、近くにいる存在。熱心なファンを生み出す演出は、危険性をも生みやすい」と述べるこの方は、アイドル業界に対する知識がまったくないにも関わらず、あたかも識者のような顔をして、懲りもせずに以下のような誤解をメディアに垂れ流し続けています↓
ただいま、 #あしたのコンパス に電話で生出演しました。アイドル殺傷事件についてです。心理的に近づきすぎたアイドルは、リスクもある。(後略)
先に述べたように、今回の事件はアイドル活動の中で起きたものではありませんし、そのリスクはアイドルのみに当てはまるものではありません(大体、「殺傷事件」ってなんだよ!)
また、「現在のアイドルは握手会による身体的な近さと、SNSによる精神的な近さを積極的にビジネスに活用しており、ストーカー行為を誘発しかねない状況があります」とコメントしていた方は、その後のブログでは、「タレント・アイドル」と呼称を変えていました。しかし、単に言葉を入れ替えているだけで、主張の中身は何も変わっていません↓
繰り返しますが、今回の事件は、握手会をしているようなタレント・アイドルに起こる固有の問題ではなく、およそ誰にでも当てはまり得る話なのです。SNSによる精神的近さなんてのは、それこそ芸能活動をしていなくたって当てはまるでしょう。現在のタレント・アイドルは握手会による身体的な近さに加え、ツイッターやブログなどによる精神的な近さもあり、ファンとしてはより勘違いをしやすい環境にあると言える。
この方は、その長文記事においてセキュリティの重要性を訴えていますが、以下のような記述からは、こうした業界のことをまったく分かってないであろうことが伺えます↓
今回の事件はタレント本人が対応するのではなく、事務所が当初から前面に出てツイッターをブロックし、イベント等で出入り禁止にしていれば怒りの矛先はタレント本人には向かず、ここまでの大事件に発展しないですんだ可能性はあったのではないかと思えてならない(中略)
もちろん、売れるかどうか分からない芸能人の卵にそこまでコストをかけないといけないとなれば芸能事務所の負担は重くなるが、タレントが事務所に所属して活動することはアマチュアバンドが自腹で費用を負担してライブハウスに出ることと全く状況が違う。
いや…彼女、事務所に所属してなかったんですけど…と、言うか、アマチュアバンドみたいな地下アイドルやシンガーソングライターって山ほどいるわけで。芸能活動している子が、みんなプロだとでも思っているのでしょうか。逆です、逆。
もちろん、セキュリティというのは考えなきゃいけない大事な問題です。でも今回の話はむしろ、現にそういうセキュリティの恩恵を受けられない子がいて、それでもどうやって彼女たち/彼らが、芸能/表現活動を続けられるかって問題でしょう(だから「ストーカー規正法改正」って話になるんであって)。
マスコミもそうだし、こういう「識者」の人もそうですが、ぼくが言いたいことはひとつだけです。
「ちゃんと、調べましょう」