杉原千畝 スギハラチウネ
2015年日本、139分
監督:チェリン・グラック
主演:唐沢寿明
概要
第2次世界大戦中、リトアニア領事代理として日本政府に背く形で多くのユダヤ難民にビザを発給し彼らの命を救った杉原千畝の波乱に満ちた半生を映画化。世界情勢が混乱を極める中、諜報(ちょうほう)外交官として日本にさまざまな情報を送ってきた杉原を唐沢寿明が演じ、彼を支える妻に小雪がふんするほか、日本、ポーランドの実力派俳優が集結。『サイドウェイズ』などのチェリン・グラック監督がメガホンを取り、国際色豊かなスタッフ、キャストをまとめ上げた。(シネマトゥデイより)
感想
最近、TV、映画を問わず、この手の作品が多い気がする。日本、あるいは日本人の素晴らしさを訴える作品というかね。それも、海外の目を通して日本人に訴える、という逆転的な構造になっているところが特徴だ。今作もそうだし、いま公開されている『海難1890』もそうだ。
まあ、外国人からの評価に弱いってのは、昔から同じだという気もする。国内で評価の定まらないものが、海外で評価されたことによって一気に評価が高まるというのは、いつの時代でもよく見かける光景だ。僕ら日本人は自分たちの目に自信がないのかしら。
まあ、それはともかく。今度の主人公は、戦前から戦中にかけ外交官として活動し、いわゆる「命のビザ」を発給し、数千の(とりわけユダヤ)難民を救ったという、かの杉原千畝だ。そのうち、「オトポール事件」の樋口季一郎/安江仙弘や、「義和団の乱」の柴五郎なんかも映像化されるんじゃないかしら…とか思ったりして。とりわけ柴五郎は数奇な運命を辿った人だから、大河ドラマにうってつけかも。でも旧帝国陸軍軍人だから難しいかな。
―閑話休題―
話が逸れた。この映画を見て感じたこと、それは、「日本はちゃんと過去と向き合ってきたのか?」ということ。そのことは、まず杉原千畝のような人をずっと無視してきた日本という、この映画で描かれたことから感じられることでもあり、そしてまた杉原千畝をテンプレートの陳腐な構図に当てはめてしまうという、この映画の描き方から感じられることでもある。
この映画。冒頭からガックリくる。いきなりファンタジーなんだ。アクションの描き方がもう明らかにフィクションの描き方だし、007かよと。関東軍の描き方もステレオタイプで面白みがない。ただ関東軍(悪)であるためだけの関東軍。記号として存在しているだけで血が通ってない。
たとえば、『永遠のゼロ』で出てきたような典型的な悪者として造形される軍人。そうした愚かで残虐な悪に対する、ヒューマニスト(人道主義者)でかつ先をすべて見通せる主人公、という対比は、まるで『日輪の遺産』や『永遠のゼロ』、『真夏のオリオン』のような質の低いフィクションと同じ構図だ。
同じフィクションでも、『善き人のためのソナタ』や、『フューリー』に現れていたような、もうどうしようもない状況の中で、「善」とはいったい如何にして成立するのか…といった葛藤が、それらの作品では端から問題にならない。だって、善悪や「なにが正しいか」は端からはっきり決まっているのだから。
たしかに杉原千畝は実在の人物だし、彼が実際に為したことは素晴らしいことだとも思う。とびきり優秀だったのも事実だろう。でも、この作品は、これまで何度も繰り返されてきたテンプレートの構図に、杉原千畝を当てはめているだけだ。本当の杉原千畝が、彼の生きた時代が、ここに描かれているとは到底思えない。
そういう意味では、チューリングを描いた『イミテーション・ゲーム』と同じかも知れない。ただ、あちらが優れた人間ドラマであり、上質なエンターテイメントであったのに対し、こっちは箸にも棒にもかからないってところが違うかな。ビザを発給するシーンは、それなりに感動させるけれど、とにかく余計なシーンが多過ぎる。
時間を費やしている割に難民たちの顔も見えないし、世界の広がりもないから…「こういう状況の中でこういうことをしたんだ」ということが伝わり辛い。狭い世界の中だけで物事が動いている気がする。かと言って、杉原千畝の内面に深く迫っているかと言えばそうでもない。あれだけの時間を費やして、なにも抉り出せていないんだから、逆に大したもん。
監督はチェリン・グラック。驚くべきことに外国人だ。どんな人かと思って調べたら、『太平洋の奇跡』や『日輪の遺産』に関わっている。ああそういう人ね、と妙に納得。そもそも日本生まれらしい。結局、単なる日本人が監督したんじゃ説得力がないからって担ぎ出されるだけなのかもな、ここでも日本の外国人コンプレックスが…と、これはうがち過ぎな見方。
最後にキャスト。子供の演技が「棒」なのは仕方ないとしても、とくに小雪さんが酷い。ビザを発給する場面でのベランダで涙ぐむ姿を除いては、ほぼ最悪の出来。画として成立しとらん。
☆☆☆3.0
物語3.0
配役2.5
演出3.0
映像3.5
音楽3.0