10 seconds(アイドルに関する長い話10) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)





「10 seconds」

1,2,3…

4,5,6…

7,8,9…

10秒間の長さはどれくらい?


全握ではたいていの場合、メンバー2、3人のレーンになる。

この日の第2レーンはくまなるレーン。

ボクの初握手がくまになるか、なるちゃんになるのか。


列を抜けると、そこに居たのは…

くまだった。


ボクが知っている通りのくま。

その姿も、一言も聞き漏らすまいとするそのまっすぐな瞳も、

その話し方も、普段より1トーン高くなるその声さえも。

この2年半ずっと見続けてきたくまそのものだった。


仕切り用の白いパーティションがレフ板の役目もするのか、

その白い肌がまるで自ら光を発しているように見えた。

世界でただひとりの熊崎晴香がそこに居た。


ボクはたぶん、くまに少しウソをついた。

48の握手会は初めてでも、イベントでの握手は初めてじゃなかった。

1,2,3…そんなことを説明している時間はない。

それは、はじめから分かっていた。


触れた手の感覚…じつは良く覚えていない。

握手会は「接触イベント」と呼ばれることがある。

でも、ボクの感覚では、

それは「接触」(contact)というよりも「接続」(connect)だった。

手を繋いでいる間だけ心が繋がる…

というのは、さすがに1度や2度の握手ではないかもだけど。


たとえば、音の伝わらない宇宙空間。

互いの宇宙服をくっつけると振動が伝わって会話ができる。

ガンダムとかで良く出てくるあれ。あの感覚。

手を繋いでいる間、2つの世界が繋がる。

その手を離してしまえば、ボクはまた真空の宇宙に逆戻り。

そんな感じだった。


あとで気づいた。ボクは最初、くまに敬語を使っていた。


そのまま、なるちゃんとの握手にスライド。

じつは、この日がくまなるレーンだったことも、ボクには大きかった。

たとえば、7月分のボク的(ぐぐたす+1)選抜・市野成美/熊崎晴香…

そう…この2人、ボクの現選抜2トップなんだ。


(初回版を買っていたから)イベント参加券=握手券は持っていたけれど、

つい数日前までは、この全握に行く積もりは全然なかった。

ただ、ひょんさんが卒業だということ、青春18切符が余っていたこと、

そして…とどめのくまなるレーン。

いくつかの要素が重なって、ボクは思い立ったんだ。


一身に耳を傾けるくまが、直線型のコミュニケーションだとしたら、

なるちゃんのそれは、オープンな扇形のコミュニケーション。

どっから投げ込まれても即座に打ち返せるような感じ。

スタンスもフレンドリーだから、はじめから友達感覚で話せる。


なるちゃんが「これからよろしくね」と言い、ボクは「うん」と返す。

そこにはアイドルとファンというより、もう少し人間的な何かがあるような気がした。

(それはボクの持論でもあるのだけれど)


背を向けて出口通路を抜ける途中、もういちどなるちゃんの声が聞こえる。

ボクは振り向かなかった…けれど、あとで気づいた。

あれ? 今のボクに言ったのかな…? 


1,2,3…1,2,3…

そんな僅かな時間に、これだけ集中することなんて普段はない。

たとえば陸上選手の棒高跳びとか、スポーツ選手ならあるかも知れないけれどね。

ボクも発表の時は集中するけれど、それだって30~40分だから話が違う。


何を言うか決めて、でもどれだけ圧縮された言葉でも、

この短い時間で想いを伝えることなんて不可能だって知っていた。

だからボクは、ボクが取れるたったひとつの方法…ループをすることにした。

それだけが、「ボクはあなた(達)に会いに来たんです」と伝える唯一の方法だった。

言葉じゃなく行動で。


4,5,6…

2ループ目。

くまちゃんには初センター曲、なるちゃんには研究生公演のこと。

出口で振り返ってみると、なるちゃんが手を振っているのが見える。

今度はボクも振り返す。

女の子に手を振ってしまうのは、普段のクセでもあるのだけれど←

その瞬間、ほんの少しだけ(a little bit)、心が通じた気がした。


3ループ目

…7,8,9…

言うべきことはもう決まっていた。

これが最後の一枚なんだってこと。


ループして列に並んでいる最中、

隣のレーンでは真摯に握手をし続ける玲奈の姿があった。

そんな姿を見ていて、なんとなく心に決めたことがあった。


握手券が付属する初回限定版CDはABCDの計4種類出ている。

ボクが買ったのも4種類。つまり、手許には4枚の握手券があった。

でも、1枚だけは残して置こう…と。


もちろん、くまなるレーンがイヤになったわけでは全然ない。

たぶん、事故らなかったと思うし(事故ってどうなったら事故なの?←)。

もう受付は締め切られていたから、その握手券で玲奈と握手できるわけでもない。

結果的には単に「干す」結果になるわけだから、まったく非合理的な決断だった。


ただ…この一枚は、あり得たはずの無数の可能性の一枚として、

全握に来られなかったさきぽんの…

受付時間に間に合わなかったりおんの…

間に合ったけれど行けなかったひょんさんの…

あり得た筈のくまなるレーンの4ループ目の…

etc.…etc.…

その一枚として残すことに決めた。


帰り道、ロッカーからカメラを取り出す。

そして、バッテリーを家に忘れてきたことに気づいた。

どこまでも抜けているな…ボクは。


あれから時は経ち…

段々と薄くなっていく現実世界の実感。

ボクはホントにくまと握手したのかな?

この世界はホントにくまの世界と繋がったのかな?


ボクはゆっくり時間を数える。

1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9…10。

脳裏には、あの白く光を放つ姿が焼き付き、

手許には、使わなかったあの一枚の握手券が残っている。