日本のいちばん長い日(3.5) | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)

 
日本のいちばん長い日
 
2015年日本、136分。
 
監督:原田眞人
 
主演:役所広司
 
概要
 半藤一利のノンフィクションを基にした群像歴史ドラマ大作。太平洋戦争での日本の降伏決定から、それを国民に伝えた玉音放送が敢行されるまでの裏側を見つめていく。メガホンを取るのは、『クライマーズ・ハイ』『わが母の記』などの原田眞人。キャストには『わが母の記』などの役所広司、『おくりびと』などの本木雅弘、『ツナグ』などの松坂桃李ら実力派が集結し、昭和天皇や阿南惟幾陸相をはじめとする実在の人物を熱演する。身をていして現在の平和の礎を築いた人々の思いに引き込まれる。(シネマトゥデイより)
 
感想
 2015年8月14日。
 今日はちょうどあの日から70年。
 
1
 「米内を斬れ」
 
 阿南惟幾という人は不思議な人だ。ボクは今でも、彼がどういう人だったのか、どういう考えを抱いていた人だったのか分からない。
 
 敗色濃厚となった日本の中でも、徹底抗戦派が主流を占めていた陸軍の大臣。彼はその意志を代弁するかのように、内閣を再三に渡って突き上げ、和平派の米内海軍大臣などと衝突した。
 
 その一方で、内閣の大勢が降伏に傾いてからも、切り札である辞職によって内閣総辞職に追い込むことをしなかった*。もちろん、聖断に反することは出来ないという思いもあっただろう。結果的に、一部叛乱の動きが見られたものの、陸軍は無事抑えられ、玉音放送を迎えることになる。そういう意味では、終戦の影の立役者とも言えるだろう。
 
*(当時は、現役武官しか軍部大臣になれない決まりのため、陸軍大臣が辞職し、陸軍が次の大臣を出さなければ、内閣を総辞職に追い込むことが出来た。この「軍部大臣現役武官制」こそが内閣が軍部の言いなりになる大きな要因だった。阿南陸相はその手を使わなかった)
 
 ある人は、阿南陸相の強硬な姿勢は陸軍を抑えるための腹芸だったと言う。そういう考え方もあるかも知れない。しかしながら、8月15日の早朝に自決した彼の最期の言葉は「米内を斬れ」だった。最期の最期に和平派の巨魁である「米内を斬れ」と言ったということは、彼の本意は和平にはなかったとも捉えられるだろう。
 
 彼の本意がどっちにあったのか。それは今でも議論の的になっている。そして、そうした分からなさ、どちらにも容易に決することが出来ないところが、阿南惟幾という人の興味深いところなのかも知れない。そういう意味では、終戦を描いた作品での阿南像というのは、ひとつの見どころでもある。
 
2.
 さて、この映画ではどう描かれているか。これは、もうほぼ前者と言って良いだろう。すなわち、本心では終戦を視野に入れながら、陸軍を抑えるために強硬姿勢をとってみせる大臣という描き方だ。
 
 ボクは、正直、これはあまり面白い阿南像だとは思えない。先述したように、どっちか分からないところが阿南惟幾という人の興味深いところなのであって、こういう風に分かりやすく描かれてしまうと、その面白さが削がれてしまうと思うからだ。
 
 それだけじゃない。これは何と言うか…『真夏のオリオン』から『日輪の遺産』から『永遠のゼロ』に至るまでボクが再三にわたって批判してきた、平成期の戦争映画に典型的に見られるような現代的な人物造形…つまり現代的な意味での「良い人」(ヒューマニスト)…になっているんだ。
 
 これはホントにくだらないと思う。ボクは、歴史の重みというのは、そのそれぞれの時代の価値観の中で、それに流され、時に何とかそれに抵抗し、そうしていく中で積み重ねられてきたものだと思うから。その葛藤がなくなってしまったら、ボクがそこに歴史の重みを感じることもない。
 
 (半藤さんの原作がそうなっているとは言え)原田監督が作り上げた阿南陸相は、実際とはおそらくかけ離れていて、だからこそ例の最期のセリフ「米内を斬れ」を言わない。ああいう風に作ってしまったら、流れ上、言えなくなってしまうんだ。そこに嘘があるとボクは思う。
 
 それはまさに、『永遠のゼロ』(映画版)で、典型的なヒューマニストに描かれた主人公が、最期、敵艦に突っ込んで多くの敵兵(人)を道連れにするところを描けなかったことと同じことのように、ボクには思えた。
 
3.
 演出。岡本喜八監督の1967年版『日本のいちばん長い日』。ボクは正直に言って、あまり好きじゃなかった。どこかヤクザ映画みたいで、迫力はあるけれど安っぽいんだ。
 
 原田監督ならば、ボクは期待に答えてくれると思っていた。『クライマーズ・ハイ』で見せたような骨太の演出はこの題材にピッタリだと思ったし、最新作『駆込み女と駆出し男』も出来が良かった。
 
 でも、少々期待外れだった。人物造形のこともそうなのだけれど、演出面ね。この映画、鈴木内閣の成立から背景を見せていくところは分かりやすいし、聖断の描写や、その後の御前会議の描写も良い。けれど、肝心の「日本のいちばん長い日」の描写がタルい。演出のリズムも上がってこないし、余計な要素を入れていることで、むしろテンポが悪くなっているんだ。
 
 たとえば、阿南陸相の奥さんのくだりとか、あれ要らないでしょ(どうしても入れたければ最初と最後に入れれば良いんで、わざわざクライマックスに挟み込む必要はない)。あれはたぶん、人物造形と物語に深みを与えるためにやっているのだろうけれど、先述したように典型的な「良い人」描写になっているから、奥さんのくだりも、むしろワンパターンに見えてしまって陳腐に感じた。
 
(人物造形に深みを与えたいならば、ああいう分かりやすい人物像にしてしまうんではなくて、むしろその胸の内にあった筈の葛藤に迫った方が良かったのじゃないか…と)
 
4.
 キャスト。ここまで書いてきたように、阿南陸相の人物造形には失敗していると思う。その点では、役所広司さんを使っていることも、逆にマイナスに働いているかも知れない。彼がこれまで数多く演じてきたような、一見しっかりしているけれど、どこか抜けた「良い人」の人物像が重なって見えてしまうからね。
 
 山崎努さんは、さすがと言うところ。鈴木貫太郎に見えたかと言えば…あまりそうは見えなかったんだけれどね(笑) でも、あの迫力はいまや、あの人にしか出せない。
 
 本木雅弘さんも良かった。昭和天皇というもっとも難しい役どころだったけれど、説得力をもって演じられていたと思う。話し方なんかは相当に研究しただろうし、とくに御前会議の演技は出色だった。
 
 若手の松坂桃李くんもキリッとした存在感が光っていて良かった。彼はやっぱり良い役者さんだね。激昂して机に頭をぶつけるシーンでは、血管が浮き上がっていて、見ていて怖いくらいだった。
 
 米内海相は存在感がなかったな…。中村育二さんは良い役者さんだと思うけれど、演出の問題もあって、なんとなく小物に見えてしまっていた(出番自体も大してないし)。海軍善玉説に与するわけじゃないけれど、ボクは米内さんには思い入れがあるから…なんかね。
 
5.
 1967年版とは、もちろん映像面でも異なる。灰燼と化したCGの帝都は見どころのひとつだろう。ただ、コンポジティングの問題か、実景の部分と融け合っていないように見えるところもあった。この辺は、たとえば『ジュラシック・ワールド』なんかのハリウッド映画とは明らかに差があるところ( ..)φ
 
追記:それから、この映画の弱さのひとつは、世相とか時代の空気を描き切れていないところだと思う。だから、陸軍中枢と内閣のみの狭い範囲でやっているように見えてしまって、これがいかに重大な局面だったのか、いかに困難な綱渡りだったのか、ということがいまいちピンと来ない。
 
 ああ、それから…いまいち暑さを感じないな…。
 
☆☆☆★(3.5)
物語☆☆☆★
配役☆☆☆☆★
演出☆☆☆★
映像☆☆☆★
音楽☆☆☆