バスに乗らなかった日 | 想像上のLand's berry

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言葉はデコヒーレンス(記事は公開後の一日程度 逐次改訂しますm(__)m)


旅は道連れ世は情け

 ボクはかつて、とある定時運行のバスの乗客だった。あるいはそれは、巡回バスだったかも知れない。週に1、2回だけ、18:30に出発するバス。週末には日に2本運行することもあった。

 そんな他愛もない旅が、ボクは大好きだった。数々の出会いと別れ。忘れ得ぬいくつもの風景。今となっては、あまりにも遠い昔の話のように感じる。

 今春、バス会社は大きな改革を行った。

 馴染みだった乗員たちの多くは去り、新たに入ってきた乗員たちの中には、良からぬ噂のあるものも居た。だけど、そのことについて乗客には何ひとつ説明がなされなかった。そのことはまた、このバス会社の誠意と、このバスの行き先についての不安を抱かせることにもなった。

 このバスはどうなってしまうのだろう。そもそも、このバスは「どこ行き」になったのだろう。たとえどんなに景色の良い旅だとしても、たとえどんなに快適な旅だとしても、行き先が違ってしまえば、ボクがそのバスに乗るわけには行かなかった。

 乗員たちは、「このバスは良いバスになる」と、「良い旅になる」と繰り返していた。けれど、その「良い」という言葉が、ボクにとっても同様に「良い」ものなのかどうか、それが分からなかった。その言葉は、ボクにはまるで、どこか遠い異国の言葉のように聞こえた。

 バスの改修にテンヤワンヤになる乗員たちをボーッと眺めながら、ボクはずっと、なんだか取り残されたような気分になっていた。そんな気持ちを知ってか知らずか、ひとりの若い乗員が、四つ葉のクローバーを届けてくれたりもした。

 ボクはもう少しだけ、呑み込むための時間が欲しかった。それでも、新しいバスの運行開始日は徐々に近づいていた。結局、最後まで納得のいく説明は得られずじまいのままだった。出発の日、ボクはひとりそっと、バス停をあとにした。

 手元には、あの四つ葉のクローバーだけが残っている。それだけが心に引っかかっていた。