
『しかく』
阿部和重
(2013)
内容紹介
「角貝ササミを蘇らせるには、まずは三六五日以内に、特定の四つのパーツをすべてそろえなければならない。」烏谷青磁(からすやせいじ)のこの言葉から水垣鉄四(みずがきてつし)のパーツ探しが始まった。水垣は烏谷に従うしかなかった。なぜなら水垣には烏谷に逆らえぬ理由があったから。そんな二人の前に現れたのは全身真っ白の若い女、花貝(はながい)さえずり。水垣と烏谷は果たして全てのパーツを揃えることが出来るのか? 全く新しいホラーとサスペンスが四つの季節を駆け抜ける!『シンセミア』『グランド・フィナーレ』『ピストルズ』……作品を発表するごとに、高い評価を得る阿部和重、新たな世界を提示した最新長篇小説!
(Amazonより)
感想
阿部さんの最新作をいち早く手に入れました。いち早く手に入れ過ぎて、数日後にKindle版が39%offで発売されるのを知った時は、ちょっとガックシきましたけど←
阿部さんの処女作と最新作を、立て続けに読むことになったわけですが、若干、彼の興味が、小説の形式よりも中身の方にスライドしていってるのかな、という気がしました。物語というより、RPG的な進行を見せる辺りは、阿部さんらしいと思いましたけどね。
そもそもそんなに長い小説ではないのですが、それでも一気に読ませる筆力は、やはり圧巻です。RPG的と書いたのですが、「ミッション→達成」というシンプルな構造が、この複雑怪奇な小説を貫いていきます。それをくぐり抜けていく感覚は、まさに麻薬的と言えるでしょう。阿部さんの小説を一言で表わすならば、「面白い」とか「感動」という言葉よりも、この「麻薬的」という言葉がピッタリくるような気がします。
まず印象的だったのは、この小説が、(本当は怖い)おとぎ話のような幻想的な雰囲気を纏っていることです。『ピストルズ』(2010)で「ガルシア=マルケス的」と評された阿部さんが、まるで、その幻想をも取り込もうとしているかのように感じました。
しかし、この小説『しかく』は、もっとシュールな方向に進んでいきます。幻想を入り口に、段々と、その幻想の身体を解体していくかのようです。内容紹介に「ホラー」と書いてあるので、少し身構えてしまうかも知れませんが、それよりはもっとずっと乾いていて、ダリの描く絵画や、例の『アンダルシアの犬』を彷彿とさせます。
最終的にはブラックユーモアのような、なんともいわく云い難い、血まみれの浮遊感に充ちたシュールな世界へと突入していくわけですが、そこで描かれる乾き切った感覚は、ジメジメとしたホラーとは全く異質のものです。この小説でいちばん怖いのは、表紙の写真です(笑)
そして、幻想が解体されていく過程で、じつはこれがSF的に現実に言及する小説だということに気付かされます。ここで連想したのは、藤崎竜さんの初期マンガ『Worlds』でした。それは、人が単に「肉」として扱われる未来世界を描いたSF作品です。
『封神演義』では、かなり自重していましたが、もともと藤崎さんは、かなりダークな世界を描く漫画家さんでもあります。そして、そうしたダークな世界を、妙に乾いた明るさで描き切ってしまう辺りに、この同世代の作家2人の共通点を見いだせるかも知れません。
(そして、その辺りにボクが惹かれてしまう理由もあるのかも…ちなみに、ボクはPSYCHO+以来の藤崎ファンです)
そして、この『しかく』は、ある意味では、とても政治的な小説ですらあります。あらゆるタンパク質を人へと変換していく、というのが、近代以降、人類が行なってきたことであり、増大し続ける人口(とそれに伴う資源/タンパク質の枯渇)が世界的な課題なのですから。
あらゆるタンパク質が人へと変換され、そして、意識そのものが物質化していく。視覚(感覚)が四角(物質)になる…なんてね。過剰な読み込みは、時として軽蔑の対象でしかありません。人は、見たいものをそこに見ます。視覚だけに…←「しかく」って言いたいだけ(笑)
お粗末さまでした<(__)>