ケチョンケチョンの上にネタバレです。ご注意ください<(__)>
『とある飛空士への追憶』
2011年日本、99分
監督: 宍戸淳
主演:神木隆之介
概要
迫力ある空戦と身分違いの恋によるエピソードが口コミで話題を呼び、ラジオドラマ化や漫画化もされた犬村小六の長編小説をアニメ映画化。アニメーション制作を、日本が世界に誇るマッドハウスが担当。身分は低いが、操縦技術は空軍の中でも群を抜く青年飛空士・狩乃シャルルの声を、『サマーウォーズ』でもマッドハウス作品の声優を務めた俳優・神木隆之介が務める。甘酸っぱい恋愛模様と壮大な航空戦シーンに注目だ。(Yahoo!映画より)
感想
なんか詰まらん…たとえばシェイクスピアの表面をなぞっただけのようなストーリー。一方でその神髄(人間の本質)はまるきり理解していない。何より必然性の薄さが致命的。
「必然性」
軍隊って組織が、傭兵(しかも当の交戦国とのハーフ)に大事な「お姫さま」の護衛を任せるだろうか。実際にどうかというより、何かあったら確実に問題視される。そういうのは避けるでしょ、普通は。どうしても彼じゃなきゃいけないって理由があるならば別だけど、むしろ、彼がNo.1なのにハーフだからって敬遠される方が余程納得できる。
大体、王子さまと婚約している姫さまを若い男ひとりに任せるかっていう…計算外の緊急事態なら分かるけど、そんなもの作戦として組むわけないでしょ。この作者、たぶん、物事を知らないし理解もしていない。だからツマらない。いくら薄くとも、いくら荒唐無稽でも、どこか本質を衝いているのならば評価できるけど、これにはそれもない。そもそも大して高高度性能もないような飛行機が単機で敵中突破を図るのも良く分からんし、ここには戦術論も戦略論も存在しない。「子供だまし」という常套句が思い浮かびそうだけど、ボクはむしろ児童文学を高く評価している。これはそういうんじゃない。ただの想像力不足。
飛行機に関しても余り詳しくない様子…(後部座席に銃があってフロート付きの)あんな艦攻みたいな水偵で戦闘機と空戦をやらかすってのがそもそも無茶な話…(ネタバレになっちゃうけど)相手のエースパイロットも、あんな間近で目視したあとで、後部座席に銃がある飛行機の真後ろを取ろうとするって何?…戦闘機と水偵じゃそもそも運動性がまるで違うし、最高速度だって自分が上(って設定)なんだから、別に真後ろをとる必要はないでしょ。
そもそもさ~…(別の場面で)あんな大型機にあんな距離に近づかれるまで気付かないってのも何なのよ…坂井三郎さん曰く、優秀なパイロットの条件は何よりも「目」だよ…んなことも知らんのかい…この作者/脚本家は…(まあ、あんな簡単に後ろをとられている時点でとても優秀だとは思えんのだが)
「価値観」
ここでもまた、上の方は一方的に間違っていて、下々は一方的に正しいという、あきれるほどこの国で繰り返されてきたウンザリするようなステレオタイプの価値観が描かれている(実のところ、ボクはこの価値観こそが、現在の政治的混迷を導いた元凶だと見なすわけだが)。この文脈において、「お姫さま」が登場して「染められていく」理由は一体なんだろう。それは、一種のバンダリズム(あるいは逆ベクトルのオリエンタリズムと言ってもいい)、すなわち自らの価値観と異なる文化/価値観に対する征服欲の現れとしか見なすことができない。(『ラピュタ』のようなものが描きたかった?冗談じゃない!)
大体、ボクは身分違いの恋にも道を外れた恋にも(一切)興味はないんだ!シェイクスピアだったら、その構造全体の愚かさをあざ笑うように、あるいはその本質的な部分を暴露するように物語を作り込むだろう。だけど、もちろん、これにはそんなことは期待できない。その封建性は否定するくせに、それの持つオーラ/煌びやかさには惹きつけられる。そういう下卑た根性は大嫌いなんだボクは!んなもん、建前ではナチズムを否定するくせに、「制服がカッコイイからSSは好き」とかヌカすバカと何ら変わらん。
それから、ここにはロイヤリティ(忠誠心)や義務感という観点がまったく欠けている。たびたび出すけど、シェイクスピアだったら、ロイヤリティと個人の望みの狭間に揺れ動く姿を克明に描写するんじゃないの…設定とか変にシェイクスピア的なだけに、そういうところの全くの凡庸さが逆に目を引いてしまう。
評価を見たら主演の2人の評価が散々だけど、それだけじゃないなこれ。演出もリズムが悪すぎる。ところどころ「良い話」に仕立てようとしている辺りが逆に痛々しい。まあ、こう言っちゃあ何だけど、屑映画だなこりゃ。
☆☆(2.0)
追記…
評価サイトをいくつか巡って、原作においては(少なくとも必然性に関する)ボクの疑問はある程度クリアされているらしいことを発見。どうやら、より大きな問題は脚本家の出来にあるらしい…(;一_一)
追記2…
思ったんだけど、これ、(空と言うよりは)ちと海の物語みたいなんだな。まあ、今さら詮無きことだけど、水偵にしないでキ77(A26)みたいな長距離飛行機による高空突破にした方が遥かに納得できたし(現実にもあったしね)、ロマンをかき立てられた気がする ― とりわけ夜間飛行において。(この映画がおかしいのは、敵中突破を図ろうってのに、わざわざ見つかり易い日中に飛んで、なぜか夜には停泊しちゃうってこと-笑)