かれこれ10年以上昔のことになる。
当時、ぼくは競馬が好きだった。
まだ未成年だったから
お金なんて賭けたことはなかったけれど、
ただ観ているだけでも充分に楽しかった。
緑色に輝く一面のターフ。
躍動する馬たちのしなやかな四肢。
競馬というのは美しいスポーツだ。
ドガやデュフィは競馬をモティーフにして絵を描いた。
その気持ちは良く分かる気がする。
夏には北海道で牧場めぐり。
雨に霞む放牧地、今でも忘れられないのは、
「馬にも気品があるんだな」
そう思ったあの夏。
当時、家族でPOGをやっていた。
POG(ペーパー・オーナー・ゲーム)は、
仲間内でそれぞれの持ち馬を決めて、
その合計ポイント(獲得賞金など)を競うゲーム。
大体、1人が10頭くらいを所有するのが一般的。
その馬「サイレンススズカ」は僕の馬だった。
サイレンススズカ ー 金鯱賞(YouTube)
※↑は彼が生涯で最高の走りを見せたレースです。
美しい馬だった。
あの柔らかい体。
出走ゲートを潜り抜けて脱走した。
たぶん、前代未聞だったんじゃないかな・・・
聞かん気で、ヤンチャで・・・天性の逃げ馬だった。
異次元の走り。
圧倒的なスピードで他を寄せ付けず、
そのまま直線に入って逃げ切ってしまう。
「他の馬なんてボクには関係ない」
そういう風に走った。
彼と一緒なら、
このままずっと地上を離れて、
何処までも飛んで行けるような、
そんな気がしていた。
あの秋の日。
あの大欅の向こうで、
すべてを置き去りにして・・・
彼はホントに天国へ行ってしまった。
叶えられなかった夢を抱えたまま
ひとり取り残された僕は、
それ以来、競馬を観なくなった。
そういう話。
今でも、弟は競馬を観ている。
そんな弟に僕がひとつだけ頼んでいることがある。
「あれくらい圧倒的な逃げ馬が出てきたら教えて」
あれから10数年。
未だに、その願いは叶えられていない。
サイレンススズカ(1994-1998)