
『ある日』
朝。
語学の授業のことを考えて気が重い。
自分の力不足を思い知らされる授業。
いつも考える。
なぜ、演習の方を選択しなかったんだろう。
僕は何を求めているんだろう。
どんな自分になりたいんだろう。
そして、数時間後までジャンプしたいなどと考える。
電車の中。
岩波茂雄の伝記を読む。
若くして亡くなった長男、雄一郎。
翌年、後を追うように茂雄も亡くなる。
人は誰しも何時かは死ぬ。
僕の両親も、いつかは居なくなるんだろう。
両親の願いは何だろう。
それは何より僕の幸せなんじゃないか。
そんなことを考える。
「頑張らなきゃいけない」
そう呟いてみる。
苦しむ時間こそが大事なんだと。
昼休み。
図書館で時間を潰す。
美学の発表が近い。
モダン・デザインに関する幾つかの調べ物。
僕は本当に論理的なものを作れるんだろうか。
午後の授業。
「信長の上洛は1558年じゃないだろ」
心の中で、そう突っ込んでいる。
知識で濁らされた世界は美とは程遠い。
「いつしか僕は、美と縁遠くなってしまった」
そんな気がして、少し呆然とする。
椅子を傾けて、壁に寄りかかる。
心持ち、教室がフラットに感じられる。
幾つもの薄暗い照明。
前席の椅子が床に複雑な影を作っている。
僕はそれを写真に撮りたいと思う。
前席の椅子が床に複雑な影を作っている。
僕はそれを写真に撮りたいと思う。
「この教室で撮りたいのは、あの影だけだ」と。
そう嘯いてみる。
帰り際。
帰り際。
時間を調節するために本屋へ。
中学生くらいの女の子とすれ違う。
再び電車の中。
中学生くらいの女の子とすれ違う。
漫画の新刊の表紙を、とても幸せそうに眺めている。
今日、何よりも美しいと思えた光景。
あの純粋さは、何よりも得難いものだと思える。
再び電車の中。
段々、赤みを増していく日の光。
この色に付ける名を、僕は知らない。
より反射する物の方が、より美しく染まる。
磨き抜かれたレールの上をオレンジの光が走る。
「あれは、太陽そのものの色なんだ」
そんな気がする。
黄色い花が咲いている。
あの花の名を、僕は知らない。