
どこかで聞こえる風の音。そっとドアを開ける夜明け前。昨日までの雨が、路面を濡らしていた。街灯に照らし出されるのは、人けのない道。空を仰いでついた溜め息は、僕の心を白いヴェールに隠して昇っていった。夜空に浮かぶ雲の先、星が瞬いている。少し歩こう。
子どもの頃、星々は夜空を埋め尽くしていた。今の僕に見えるのは、ほんの僅かな星。立ち止まって、ひとつひとつと数えてみる。しだいに夜の闇に目が慣れて、暗幕の向こうから見失った筈の星たちが現われた。僕の世界は、今でも星々で埋め尽くされていた。だから歩こう。
空を見て星を見て、風に吹かれて歩いていこう。目には映らない星々が共に歩んでくれる。雨の日は傘を差し、雪の日は手袋をして歩いていこう。
いつか、この足は動かなくなる。
それでも僕の世界は、星々でいっぱいだ。