数日前にお気に入りのグラスを割ってしまった。
薄いガラスなので、いつも気を付けて洗っていた。
スポンジを押し当てた瞬間、パリっといってしまった。
ケガはしなかった。
ざっくりと切れていたかもしれないと頭によぎったら、急に怖くなった。
とても大切にしていたものだっただけに、すごく落ち込んだ。
その出来事からまだ立ち直っていないのに、また昨夜グラスを割った。
今度はテーブルからグラスを落としてしまった。
飲もうと思いグラスを触ったら、そのまま倒してしまった。
ガシャーン
私にはとてつもなく大きな音に聞こえた。
しかも赤ワイン。
最悪だ。
呼吸が苦しくて、涙が止まらなくなった。
夫が急いで片付けているのに、身動きが取れない。
しばらくして、私も一緒に拭き掃除をした。
飲み始めたばかりで、酔っていたわけではない。
またやらかした。
動揺して、自己嫌悪。
『迷惑かけてばっかりだね』
落ち込みすぎて、泣きながら何度も謝った。
夫が寝た後も、動悸が強くて眠れなかった。
安定剤を飲んでも落ち着かない。
フラッシュバック
入院中の出来事。
手術数日後、看護師に車椅子を押されて検査室へ行った。
朝イチ。
外来患者も多くいる場所。
尿のバッグ
ストーマからの排便のバッグ
腹部左右のドレーンバッグ
そして点滴スタンドを自分で押していた。
尿と便のバッグはパンパンだった。
毎朝、計量のために、バッグの中身を出してくれるのだが、この日は看護師が忙しかったようで、後回しだった。
部屋を出る前から、すごく嫌な気持ちだった。
どうして中身を出してから行かないのかな。
しかも、いつも誰かの陰口を言っている苦手な怖い看護師だった。
病衣ははだけて、オムツや下着が見えている。
恥ずかしい。
排泄物も丸見え。
みんなにジロジロ見られている気がした。
恥ずかしい。
もう嫌だ。
バシャーン
バッグが落ちた。
ほら、やっぱりね、と思った。
『この部屋に入ってください』
近くにいたスタッフが慌てて、私の車椅子を押していた看護師に指示してくれた。
涙が止まらなくなって、息が苦しくなった。
部屋に戻っても涙が止まらなかった。
違う看護師が謝りにきた。
『中身を出してから検査に行くべきでした』
行く前から、そう思ってた。
『中身を出してから行きたい』
と、言えばよかった。
なんで言えなかったんだろう。
後悔して、自分を責めた。
ちゃんと言えば、嫌な思いをしなくて済んだのに。
私のせいだ。
私のせいだ。
嫌な記憶が鮮明に蘇っていた。
大きな音のせいで、辛い記憶を引っ張り出してきたのだろうか。
少し眠ったようだ。
気が付いたら、カーテンから光が漏れていた。
朝だ。
涙と汗で枕が濡れていた。
リビングに行ったら、白い絨毯に赤ワインのシミが残っていた。
そうだ、またやらかしてしまったんだった。
ダメージが大きい。
藁にもすがる思いでピルクルを飲んだ。
