産婦人科の木田先生、外科の入院病棟まで毎日来てくれる。
疲れているのか、いつも暗い。
産婦人科で、手術の映像を何度も見て、検証を行ったそうだ。
大網、子宮、両側卵巣、直腸が強固に癒着しており、慎重に癒着剥離を行ったが、消化管穿孔が発生していた。
確認して手術を完了したが、穿孔を見落としてしまっていた。
『不便な生活を強いてしまい、申し訳ありません』
研修医の伊東先生から、毎日遅くまで、手術の検証を行っていると聞いていた。
手術が上手と評判の良かった木田先生は、責任を感じ、すっかり落ち込んでいると。
心苦しかった。
こちらこそ、申し訳ないと思っていた。
しかし、腑に落ちないこともあった。
私は長く上場企業の会社員だった。
管理職も経験した。
だからこそ、不思議だと感じた。
一般企業では、部下の失敗は上司の責任。
ある程度大きなミスは、上司も謝罪に行く。
この私の常識からすると、きっと偉い人が面会に来るとばかり思っていた。
産婦人科は木田先生と研修医の伊東先生以外、最後まで誰も来なかった。
医師とは個人事業主のようなものなのか。
上司は存在しないのか。
一般人の常識は通用しないのか。
偉い人の謝罪を求めていたわけではない。
ただ、それが当たり前だと思っていたので、違和感はあった。
偉い人が来たら、木田先生をあんまり怒らないでくださいね、と言うつもりで、シュミレーションはできていた。
『毎日来なくて良いですよ』
と、言いたい気持ちはあった。
しかし、痛みを訴え続けていたのに、放置されていた苦しみを思うと、毎日来るのが当たり前だと思う自分もいた。
『何でも言ってください。
困ってることや、してほしいこと何でも』
木田先生のその言葉に甘えて、ナースコールは押せないようなことを時々頼んだ。
冷蔵庫のジュースを取ってもらったり。
ベッドの下に落とした、スマホの充電器を取ってもらったり。
そんな小さなことが積み重なると、心から許せる日が来るだろう。
未来ある若い医師の、足枷にはなりたくないと思っていた。