先生や看護師からは、病棟内を歩くように言われていたが、ほとんど病室から出ることはなかった。
シャワーも自室で浴びるようなり、レントゲン室に行く時くらいしか、出る機会がなくなった。
自室のトイレやシャワーに行くのも、立ちくらみとの戦い。
だから、病室を出て歩き回る自信がなかった。
体調が悪くなり、看護師の手を煩わせることになるかもしれない。
そう考えると、出るのが億劫だった。
病室の中ではできるだけ動くようにしていた。
日中はベッドと椅子、交互に座って過ごした。
軽くストレッチをしたり。
フラつきながらも、立ったり座ったりを繰り返した。
人目につかない努力の方が、性に合っていた。
たまたま窓辺で外を眺めていたら、田部先生が来たので、急いでベッドへ戻った。
『藤井さんが立っているのを、初めて見ました。
思ったよりも動けるんですね』
と、驚いていた。
照れ臭かった。
どうやらベッドから、全く動かないと思われていたようだ。
看護師からは毎日プレッシャーをかけられる。
『おじいちゃん達も頑張って歩く練習してますよ』
『退院してから大変ですよ』
『ずっと部屋にいて、退屈ではないですか?』
『動いたら、お腹が空いて何か食べたくなるかもしれませんよ』
コロナで外には出られない。
院内は封鎖されている通路もあり、患者が行ける範囲は限られている。
狭いところを、何人もグルグルと歩き回っている。
そこに参加する勇気はなかった。
歩け、動け、うるさい
と、本当は思っていても、ちゃんと笑顔。