来秋にも解禁! 農林水産省が海外レースの馬券発売を急ぐわけとは?
All About 2015年11月27日付コラム
来秋にも海外レースの馬券発売が解禁される
競馬を管轄する農林水産省は日本中央競馬会(JRA)に対し、
来秋にも海外レースの馬券発売を解禁することを発表した。
これまでは国内のレースに限定されてきた発売対象が海外にまで広がることが決まった。
■名馬の不在によるJRAの売上減
海外レースの発売に踏み切った理由の一つは経営的な面にある。
近年、強い日本馬が海外の難関レースに挑戦することが増えている。たとえば凱旋門賞で2年連続で2着したオルフェーヴルなど、強くて人気のある馬がこぞって海外に挑戦している。
それはそれでいいことだが、反面、日本のレースがつまらなくなるというデメリットがある。しかも人気馬不在のせいで日本の馬券も売れなくなる。
つまり名馬の海外挑戦は話題としてはいいが、JRAの売上には悪影響を及ぼす。そのマイナスを補填する意味合いが海外レースの発売解禁には込められている。
■ファンのフラストレーション解消
もう一つの理由がファン心理の考慮である。
日本の名馬が海外に挑戦する場合、本来であればファンは馬券を買って応援したいものである。ところが現状は見ているしかない。
現地まで赴くファンもいるが、それは時間とお金が許された人に限られる。また、海外のブックメーカーを利用する方法もあるにはあるが、これには後述する問題点もある。
こうしてファンの間ではフラストレーションが溜まっていた。
農水省は、今回の海外レースの発売に関して、ファンなどから広く意見を募集している。これは官庁としては異例のことであり、今回の改革がお金を使うファンのことを意識していることの現れといえる。
■違法行為の未然防止
いま、海外レースの馬券を買う際、ブックメーカーを利用する方法もあるにはあると書いた。しかしこの方法はグレーであるのが現状だ。なぜなら日本の刑法との兼ね合いが難しいからだ。
ブックメーカーとはイギリスを中心として存在する賭け専門の会社で、賭ける人がいる限り、何でも賭けの対象にする。キャサリン妃の赤ちゃんが男か女かも賭けの対象にされたし、作家の村上春樹氏が毎年のようにノーベル文学賞のオッズ1位となっているので、ご存じの方もいるだろう。
当然のことながら競馬もその対象となっており、日本からもネット上で利用できてしまうが、警察庁は現時点では「賭けを行う人が日本国内にいる場合は違法」という見解を取っているため、日本から利用すると処罰されかねない。
JRAによる発売は、こうした問題の防止策も兼ねているのだ。
■カジノ解禁の議論と無関係ではない
しかし、日本馬の海外遠征は以前から行われていたにもかかわらず、なぜいま急にこの措置がとられたのか。
それは日本でのカジノ解禁の議論と無関係ではない。
カジノはカジノゲームを中心とするギャンブルの場所だが、アメリカを例にカジノ内で馬券の発売を行っている例もある。また「レーシノ(レース+カジノの造語)」といって、競馬場内にカジノを設置しているところもあるなど、カジノと競馬が融合する形態が増えているのも事実である。
しかもカジノにはスポーツベッティングの機能を持たせることも可能であり、もしカジノが日本に出来れば、海外レースの発売をカジノが行うことも不可能ではない。
もしそうなればJRA及びそれを管轄する農水省にとっては死活問題であり、カジノ解禁が遅々として進まない間隙を縫って決定されたと見るべきだろう。
■世界の潮流にようやく追いつく
あまり知られていないが、すでに逆のケースは行われている。それは日本のレースの海外発売だ。
香港にも競馬があり、レベルは世界トップクラスだが、ここでも現地の競馬同様、日本の馬券も発売されている。日本のレース映像が配信され、それを見ながら香港の競馬ファンが馬券を買えるようになっている。
つまり国内のレースしか買えない日本のほうが世界の潮流から置き去りにされてきたともいえる。
今後、日本にいながらにして海外のG1レースが買えるようになるのは新しいG1が増えたことと同義であり、ファンにとっては楽しみが増え、JRAにとっては人気馬が抜けた売上の穴埋めが期待できるというわけだ。
文・松井 政就(All About 社会ニュース)