夏休みも終が近づく中、
黄色い声が飛び交っている。

結子は時計を見た。

待ち合わせの時間には、
まだ10分ほどある。

空を見上げた。

陽が落ちてきて、
空を赤く染め始めていた。

蝉の声がかすかに聞こえる。

ハンカチを取り出し、
首筋の汗を拭き取った。

キキッ。

結子の前に、
一台のスポーツセダンが止まった。

「待った?」
パワーウィンドウが下がり切らないうちに、
勇は結子に訪ねた。

「ううん。」
結子は助手席のドアを開け、
そう言いながら乗りこんだ。

「寒くない?」
車を走り出させながら、
勇は結子に訪ねた。

車の中はエアコンが充分に効いていた。

「大丈夫。」
結子は静かに答えた。

勇はエアコンの温度を少し下げた。

勇はいつもより、
スピードを上げていた。

「夕日が綺麗。」
海岸線に出たとき、
海を見て結子は囁いた。

「ああ。」
勇はそう言いながら、
結子の横顔を見ていた。

今、自分だけが見れるこの横顔。
この瞬間がたまらなかった。

勇はスピードを上げた。

車は海岸線に沿って走るハイウェイを、
滑るように進んでいく。

結子は、勇をみた。

先程から、
何回かこちらを見ている勇に気づいていた。

勇も、結子の視線に気づき、
心を決めた。

「あの島に行こう。」
勇はしっかりとした声で結子に告げた。

一瞬、結子は戸惑ったが、
小さく頷いた。

それを確認した勇は、
ほっと、息を吐いた。

この一言を言うためだけに、
今日までの二日間、
ずっと考えていた。

なんとなく、
二人で会うようになり、
朝を迎えるようになっていた。

お互いの気持ちはわかっていた

ただ、それでもどこかに不安があった。

先ほどの結子の答えにより、
そんなふうに思っていた自分の不安が、
バカバカしくなった。

「あの別荘?」
勇がニンマリしているところに、
結子が問いかけてきた。

勇は顔を作りなおし、
「ああ。」と、
何事もなかったかのように答えた。

「流れ星見れるかな。」
「見れると思う。」
「ホント?」
「本当さ。」
「じゃあ、見れなかったら?」
「...」
勇は答えなかった。

「でも、もう夏も終わりね。」
結子は少し寂しそうに言った。

「そうだな。」
運転に集中していることもあり、
軽く勇は答えた。

「あそこ、好き。」
「でも、季節が変わるし、あの辺は誰もいなくなる。」
「寂しいわね。」
さみしそうに結子は呟いた。
そして、続けた。
「もっと、長い時間過ごしたかったかも。」
「そう。」
「ゆっくりお茶したり。」
「そうか。」
「夕日を眺めていたかった。」
「俺も。着いたらゆっくりしよう。」
勇はそう言うと、
結子の手の上に自分の手を重ねた。

結子の肌の柔らかさ、
暖かさが伝わってくる。

勇はアクセルをもう一弾踏み込んだ。

(おしまい)

(BGM by 伊勢正三

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