カチャ。

オートロック解除の音が、
地下駐車場に響き渡った。

フミヤとリリカは、
何も言わずに車に乗りこんだ。

フミヤは静かにエンジンキーを差し込み、
エンジンを始動した。

目の前を黒のベンツがゆっくりと横切った。

運転席には中高年の男性が、
助手席には親子ほどの差があろうかという、
女性が座っていた。

ふたりは、
その姿を見て一層黙り込んだ。

一瞬、間を空けてフミヤは車を発進させた。

車は地下駐車場を出て、
陽の光を浴びた。

リリカは、
何も言わずにバックからサングラスを取り出し、
髪を書き上げながらかけた。

そのサングラスは、
目を守るというより、
大きく顔を隠す為のものと言えるほどのものだった。

車は建物の外へと出て、
目の前を走る通りへと走り出した。

海沿いの道は、
朝早くから海水浴客や、
地元の人で賑わっていた。

フミヤは通りを歩く人をみた。

その視線が、
自分たちに向けられているのではないかと、
少し気になっていた。

そんなフミヤを気に止めず、
リリカはバックから日焼け度目を取り出し、
腕に塗り始めた。

軽い化粧品の香りが、
車の中をに漂う。

フミヤは手を伸ばし、
カーステレオのスイッチを入れた。

スピーカーから、
夏らしい音楽がさわやかに流れ始めた。

フミヤはゆっくりと口を開いた。
「どうする?」

リリカは何も答えなかった。

車はそのまま海岸沿いをゆっくりと流れていった。

軽やかに回るエンジン音が、
二人のあいだを埋めている。

フミヤはタバコに火をつけた。

一瞬に、
リリカの顔を見たが、
そのままタバコを吸い込み、
大きく吐き出した。

リリコは小さく咳をしたが、
気にせず窓の外を眺めていた。

道は海沿いを離れ、
いくつかのトンネルに差し掛かった。

やがて、下りに変わり、
3つ目のトンネルを抜けると、
大きく左手に青い海が広がった。

リリコは小さく呟いた。
「きれい。」

フミヤは聞こえなかったように、
強い日差しを避けるべく、
自分もサングラスをかけた。

リリコは窓を開けた。

潮の香りが車の中に流れ込んだ。

その風は少し湿り気をおび、
まだお昼前でというのに、
なま暖かいものだった。

それはまるで二人が出会った、
街角のなんとも言えない空気のような。

「止めて。」
リリコは小さく呟いた。

「え?。」
「お願い、止めて。」
リリコは今度はフミヤにわかるようにしっかりと伝えた。

フミヤは、
海岸沿いになんとか車を付けるところを見つけ、
横付けた。

「ありがとうね。」
リリコはフミヤに軽く告げた。

「ああ。」
フミヤは気もなく答えた。

リリコはそんなフミヤの答えを気にせず、
ドアを開けて、
車から降りたった。

オートウインドウが大きく下がった。

「じゃ。」
そう言うと、フミヤは車を走らせた。

リリカは振り返った。

さっきまで載っていた、
自分の車が遠くに走り去っていく。

やがて、そのテールランプがやがて小さな点になり、
静かに消えていった。

リリカは海水浴客から離れ、
人の少ない方へ、
海岸にそって歩きだした。

強い日差しが降り注いでいる。

海が運ぶ風が心地よい。

「彼女、何しているの?」
黒く日焼けした男性が、
車の中からリリカに声をかけてきた。

リリカはその男性に向かい、
ニッコリと微笑んだ。

(おしまい)


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