左目の白内障手術の一週間後、ようやく右目の手術の日が来た。

 

左目は日毎に落ち着いてきて、手元もコンタクトの時よりクリアに見えるようになった。

白内障だけなら20分ほどで終わったが、硝子体手術となると1時間近くかかるらしいので若干不安な気持ちになる。

指定された午後二時に病院へ。前回と違って手術待合室は誰もいない。静かすぎて落ち着かない。

時折年配の患者さんが来て採血をしている。眼科で採血?と思っていたら「血清点眼」という耳慣れない言葉。ドライアイの症状に患者自身の血液から精製した点眼薬を用いる治療法があるとのこと。

将来お世話になるかもしれないな…。

待つこと一時間半。やっと術前室へ。

 

術前室でもかなり待たされる。

念のためといって麻酔用のラインが入っているのでずっと椅子に座って待機、時計が無いので時間の見当もつかない。

どうやら手術室に一人、カーテンで仕切られた隣にもう一人患者さんがいるらしい。

手術室の方が手術を終えて出てきた気配の後に、待機していたもう一人の患者さんが手術室に入っていった。

結局、私が手術室に入ったのは午後五時近くになっていた。瞳孔を開く点眼をしたが、時間が経っているのでちゃんと開いているか心配になってしまう。

 

最初は白内障の手術から。前回は眩しく見えた三つの光が今回は薄暗い。

二回目のせいか時間も短く感じる。

次は硝子体手術。

意識ははっきりしているので先生とスタッフさん達の会話が耳に入ってくる。

「五時の方向に二つ」「十時に一つ」、目の中の患部は時計表示らしい。戦争映画みたいだ。

それとは別に、SF映画の宇宙船で司令室のコンピュータが「目標物まであと10‥9‥」とアナウンスするような無機質な女性の声がする。白内障・硝子体手術の器機が喋っているのだ。

ひたすら、先生とスタッフ、器機を信頼する「まな板の鯉」の私。

「少し痛いかもしれません」と事前に教えてくれる。

白内障に比べると、確かに少し痛みがある。見えない分余計にそう感じるのかもしれない。

でも、チクチクっといった痛みで全然我慢できる範囲である。

他の方の体験談にもあったが、視界に細いワイパーのような棒がはいってきた。

スーッと動いている。黄斑前膜を除去しているのだろうか。尋ねてみたいが、さすがにできない。

「シャンデリア入れて」

「ここも取った方がいいかな」

どれくらい時間が経っただろうか。

「縫う必要があるな」

との声。『目を縫う』と聞くと、術前だったら『絕対イヤ』と思うだろうが、この時は『もうじき終る』との安堵感の方が勝っていた。幸なことに、思ったような痛みはなかった。

前回と同じ様な眼帯をつけられて、無事手術終了。

 

前回と違うのは終わって術前室に戻ると身体が小刻みに震えていた。手術中の緊張が解けたのだろう。

時計を見ると六時近くになっていた。

すっかり暗くなってしまった道を、両方の手術が終わったという開放感と、右目がどういった風に見えるようになったのだろうかという不安感を感じながら家に向う。

翌朝は再び来院して、眼帯を取る予定である。

 

 

「今夜はこんなかんじ」