(2013)
ビートルズのアメリカ上陸50周年を記念して編まれた、アメリカ編集盤の集大成箱。当時、ビートルズのリリースですら、イギリス本国とアメリカでは、ジャケも内容も、ミックスも異なってました。ので、これもまた「もう一つのオリジナル」であり、当時、出荷枚数的に考えると、最も聴かれたビートルズはこれ、ということも出来ます。また、今回、伝説の「ブッチャーカバー」も登場!ジャケの違いに目を細め、曲順の違いに驚き、ミックスの違いに耳をそば立てる…改めてビートルズの偉大さを、新鮮な気持ちで再認識出来るセットです。
ってな感じだろうな、レコ屋で書くなら。因みに、俺、買ってません。お金ないし、アメリカ編集盤、前に出てた箱持ってるし。それに無かった奴だけ買おうかな、と思案中。
ビートルズがアメリカに初めて訪れたのは1963年。デビューしてから1年後。イギリスの大スターだったクリフ・リチャードがアメリカで豪快に滑った、という過去を知っていたメンバーが、チャートで結果が出るまでは行かない、と決めていたゆえ。「I Want To Hold Your Hand」がチャートを制覇したことを受け、更にメディアへの仕込みも万全に施した上で、1963年2月7日、アメリカ上陸。
そして、2月9日に、ビートルズはアメリカのお茶の間にその姿を表す。エド・サリバン・ショー。イントロなし、カウントだけで歌と演奏スタート。
「目を閉じてごらん、キスしてあげるから」
史実的に「I Want~」や、アメリカデビューアルバム「ミート・ザ・ビートルズ」があったからこそ、の世界制覇だったわけだけど、アメリカに限定すると、本当のK.O.パンチは「All My Loving」だったんだろう、とボクは思う。そう、ポールの曲。
昨年の来日公演、そんな「All My Loving」が世に出た50年目に、38歳だったボクは、9歳の娘と、71歳のポール本人の歌声で聴いた。基本セットの3曲目。一緒に歌うつもりだったけど、「♩とぅもぉーろー、あぃるみすゅー」のとこで涙腺が決壊、嗚咽まで始まってしまったため、断念。
「ビートルズで最高の曲を1曲選べ、さもなくば殺す」と言われたら、ボクはこの曲を選ぶ。幸いそういうシチュエーションに出くわすことなく人生を過ごしてきたので、「何が一番好きですかー?」程度のゆるい質問には、「全部だ、コラ。選べるわけないだろ、ボケ。ふざけんな、死ね」と返すことが出来ているけれど。
リンゴの叩き出すシンプルで的確なビート、ジョンの刻み、短くも雄弁なジョージのソロ。そこに、蒼く瑞々しい歌声。人生で最も大切なことを歌ってる歌詞。甘く、切なく、愛と哀が一体化して迫るメロディ。
全てに無駄がない。全てが完璧。全てが愛おしい。たった2分程度で、人生において必要なものが全て詰まってる。こんな曲、どこを探しても、ない。
昔、松村雄策さんが「ポールはずっと「All My Loving」のまんま活動してきた」ってなことを書いてて、凄く腑に落ちた憶えがある。シンプルで、甘くて、切なくて、でも引き締まってる。たまに甘ったるくなったり、引き締められずにブヨブヨになったりすることも無くはなかったけど、21世紀以降のポールは、更に「All My Loving」度が、苦味も合わせながら増してるように思う。その最たるところが「ケイオス・クリエーション・イン・ザ・バックヤード」であり「NEW」であり、昨年のライブだったと思う。
今年72歳と言われたら「そうなんだよな」とは思うけど、それより「ビートルズとしてレコードデビューしてから52年目」と考える方がしっくり来るような気がする。というか、ポールはまだ52歳なのかもしれない。と、いうことは、まだまだポールの音楽が、All My Lovingが聴ける、ということだろう。
つくづく、こないだの東京ドームで安易に「今までありがとう」などと伝えなくて良かったな、と思う。
♪The Beatles All My Loving