「五井先生と太郎」 | 心育てのおてつだいさん やっちゃんの徒然なるままに

初めて読んだ時、号泣してしまいました。


何度読んでも心がギュっとするお話です。



長いのでお暇なときに読んでみてください。


丸山浩路さんの「本気で生きよう!なにかが変わる」より




--------------------------------


ある高等学校の入学式が終わった後の出来事でした。 

一年五組の教室。神妙な面持ちで待つ新入生の前に、山嵐のような髪で体格のガッチリした先生が、名簿を片手に現れました。 

先生は教壇立って静かに一礼すると、こう話し始めました。 

「厳しい難関を突破し、入学された諸君、おめでとう。私はこの一年五組を担当する五井です。これから一年間、よろしく!」 

穏やかな表情ながらも、力強い口調。五井先生はさらに話を続けました。 

「早速ですが、名簿順に名前を呼び上げます。呼ばれた人は返事をして手を挙げてください。明日からでも顔を見たら名前で呼びたいからね。 

出会いは名前を覚えることから始まります。名前で呼んだり呼ばれたりすると、親しみがわいてくるだろう。それでは、トップバッターの青木君」 


「ハイ」 

「ああ、穏やかな返事だね。えっ、弱々しいからもっと元気よく返事をしろと叱られることがある? いやいや、君のやさしそうな眼差しを見たら、今の穏やかな返事が君らしいよ。 

みんなもその声を聞いたら、きっとホッとするはずだ。先生は君の返事が好きだな。青木君、一年間、その返事でよろしく頼むよ。さて、次は伊藤君・・・」 

五井先生はそれぞれの生徒に簡単なメッセージを伝えながら、一人一人の名前を呼び上げていきました。そして、名簿も後半にさしかかり、「山田太郎」という生徒の順番がきたときでした。 

「太郎 ! 」 

今まで名字で呼んでいたのだが、なぜか突然、名前での呼びかけに変わりました。しかも「君」づけなしです。教室は一瞬ざわめきました。しかし、誰より驚いたのは当の山田太郎です。 

(なんだ!? みんなは名字で呼ばれていたのに、なんでオレだけ呼び捨てなんだ?)


五井先生はさらに声を張り上げました。 

「名前を呼ばれたら返事をして! いないのかっ、太郎っ ! 」 

みんなが注目する中、太郎は手を挙げて返事をしました。

「ハイ・・・」 

「そうか、君が太郎か…。太郎っ、ガンバレよ! 」 

太郎はあっけにとられました。 

(なんだよ、びっくりさせるなよ。ムカツクなあ。内申書に「非行の傾向あり」とでも書いてあったのかなぁ・・・) 

名前を呼び捨てにされ、なんとなく軽蔑されたような面白くない気持ちのまま、太郎は入学式の日を終えました。友達は不思議そうにこう尋ねてきました。 

「五井先生はなんでお前だけ太郎と呼ぶんだろう」 

「こっちが聞きたいよ! 太郎という名前に何か恨みでもあるんじゃないか」 

正直、太郎にも五井先生の真意はまったくわかりませんでした。 

一学期が過ぎ、二学期が過ぎても、五井先生の「太郎呼ばわり」は変わりません。太郎はときどき、反抗して返事をしなかったり、ふざけて答えたり・・・。 

が、五井先生はまったく意に介するふうはありませんでした。 

そして迎えた三学期。木枯らしが吹く朝、登校してきた太郎にクラスメートが駆け寄ってきました。 

「お前、知ってたか。五井先生、入院しているらしいぞ」

「えっ、五井先生が入院? 嘘だろう、信じられないよ。そういえば去年の終わり、風邪で休んでいたけど、あの先生が病気になんかなるわけないじゃないか。 

だって五井先生はバレー部の顧問もやって、体力には抜群の自信を持ってる人だよ。きっと無理してギックリ腰にでもなったんじゃないか。 

人のこと、タロー、タローなんて呼び捨てにするから、バチが当たったのかもな」 

そんなふうにふざけた調子で話しているところへ、古文担当の正田先生が急ぎ足でやって来ました。 

「山田君。五井先生からの電話でね、『太郎にすぐ来てほしい』ということですよ」 

太郎は大げさにのけぞって、 

「えっ、電話でも太郎って言ってたんですか。許せませんね。病院でまで太郎呼ばわりはないですよ。それに、行ってもきっと説教ですから、ついでのときに誰かと行くことにします」 

「でも、君にせっかく電話してこられたんだ。行ってあげたらどうですか」 

正田先生の穏やかな語りかけに、仕方なく太郎はうなづいたのでした。 

その日の放課後、太郎は病院に向かいました。消毒液の匂いがプーンと鼻をつく病棟。 


太郎は病室の番号を確認しながら長い廊下を歩き、二階の突き当たり奥に、五井先生の病室を見つけました。 

トン、トン。緊張しながら軽くノックをして声をかけました。 

「五井先生、お待ちかねの太郎が参上しましたよ。待望の太郎ですよ!」 

病室からの返事はありません。 

「五井先生、五井君! 名前を呼ばれたら返事ですよ。入学式のとき、そう言ったでしょ。五井先生・・・」 

耳を澄ませてみましたが、病室は静まり返ってなんの応答もありません。 

(おかしいな・・・) 

ドンドン、ドンドン。今度は静かな廊下に響くほど強くノックしました。 

「先生、開けますよ。ノックもしたし、名前も呼んだんですからね。入りまーす。五井せんせっ、太郎が来ました、五井せんせっ」 

わざとおどけた調子で先生の名前に節をつけ、太郎はソロリソロリと病室に入っていきました。そして、白い衝立の向こうをのぞいたとき、思わず言葉を失って立ち尽くしてしまいました。 

「先生・・・」 

病室のベッドには、腕に何本もの管をつけた五井先生が横たわっていました。髪の毛はほとんど抜け落ち、やつれた顔で苦しそうに息をしているその姿は、まるで別人のようでした。 

太郎の存在に気づいた五井先生はわずかに目を開けると、うれしそうに微笑み、 

「太郎か・・・よく来たな・・・お前にどうしても話しておきたいことがあって」 

そこまで言うと、五井先生はひどく咳き込みました。太郎は慌てて、手を振り、 

「無理して声出さないほうがいいよ! 話なんかいつでもいいだろう。オレ、学校の帰りに毎日寄るから、もっと楽なときに話せばいいよ」 

そんな太郎の言葉も聞こえていないかのように、五井先生は話し続けました。 

「・・・お前、高校に入ったときから・・・ずっと太郎呼ばわりされて・・・面白くなかったろう」 

「なんだ、話ってそのことですか。そんなこと気にしていたら、治る病気も治りませんよ。そりゃあ、最初はカチンときたし、面白くなかったですよ。 

でも毎日そう呼ばれているうちに気にならなくなっちゃった。だから先生、そんなこと、もう気にしなくていいって!」 

五井先生は太郎の言葉に小さくうなづきながら、再び苦しそうに咳き込みました。激しく咳き込むたびに先生の肩が大きくよじれ、小刻みに震えます。 

しかし、五井先生は太郎が止めるのも聞かず、話を続けるのでした。 

「どうして太郎と呼んだのか・・・その理由をどうしても話しておきたくて・・・。お前、小学校六年のとき、文集に書いた作文・・・覚えているか」 

太郎の顔から、それまでのおどけた表情が消えました。六年生のときの文集・・・そこには太郎が父親のことを書いた作文が載っていたのでした。 


太郎の両親は共に言語と聴覚に障害があり、聞こえませんでした。話せませんでした。しかし、そのことで太郎が両親に反抗したことはありませんでした。ただ一度を除いて・・・・・。 


ある日の放課後、学芸会の練習をしていたとき、太郎はクラスメートと大喧嘩になりました。自分より背丈の大きな相手と組んずほぐれつ床を転がり回り、太郎はようやく相手を組み伏せました。 

そして、馬乗りになって拳を振り上げた瞬間、下敷きになって必死にもがいていた相手がこう叫んだのです。 

「やぁい、おめぇんちの父ちゃん、母ちゃん、耳聞こえねぇだろ。しゃべれねぇだろう。この前の運動会のとき、おめぇんちの父ちゃん、母ちゃん、変な声だしてサルみてぇに手で踊って話してんの。 

おめぇ、一度も名前呼ばれたことねぇんだろう。犬や猫だって名前呼ばれんのによぉ。これからもずっと呼ばれねぇんだぞ。ザマアミロ ! 」 

太郎はハッと息をのみ、拳を振り上げたまま体が動かなくなってしまいました。両親に名前を呼んでもらう・・・太郎にとってこれまで考えてもみなかったことでした。 

太郎は立ち上がり、校門目がけて駆け出しました。今までに感じたことのない寂しさ、言いようのない切なさに襲われながら、夕暮れどきの賑やかな商店街をひたすら走りました。 

ボロボロと涙をこぼし、無我夢中で家に向かいました。 

ガラガラガラッ。乱暴に玄関の戸を開けて踏み入れた家の中は、物音ひとつせず、シンと静まり返っています。 

母親の靴は見当たらず、太郎は父親のいる部屋に駆け込み、ドン、ドン、ドンと足を踏み鳴らしました。机に向かっていた父は、床を伝わってくる振動でやっと後ろを振り向き。太郎の姿に気づきました。 

目を真っ赤に泣きはらし、悔しそうに睨みつけている太郎。いつもとは違う息子の様子に驚いて立ち上がった父親に、太郎はむしゃぶりつきました。 

そして泣き叫びながら父親に向かって手話を始めたのです。 

「ぼくの 名前 呼んで !  親なら 子供の 名前を 呼ぶのは 当たり前 なんだぞ。 この前 運動会が あったよね。  

走ってるとき みんな 転んだろ。 転んだとき みんなは 父さんや 母さんに 名前を呼ばれて 応援されたんだぞ !  ぼくだって 転んだんだ…。 でも ぼくの 名前は 聞こえて こなかったぞ…。 

父さん 名前 呼んでよ。 一度で いいから ぼくの 名前 呼んで…。 名前を 呼べないんなら ぼくなんか ぼくなんか 生まれなければ よかったんだよぉー ! 」 

父親にしがみつき、その体を揺さぶりながら、太郎は声をあげて泣き出しました。 

じっと目を閉じていた父親は力いっぱい息子を抱き締め、やがて静かに体を引き離しました。そして、無言の中にも力強い息づかいを感じさせる手話で、太郎に語り始めました。 

「私ハ 耳ガ 聞コエナイ コトヲ 恥ズカシイト 思ッテ イナイ。 神ガ 与エタ 運命ダ。 名前ガ 呼バレナイカラ 寂シイ? 母サンモ 以前 ソウダッタ。 

キミガ 生マレタ トキ 私タチハ 本当ニ シアワセダト 思ッタ。五体満足デ 声ヲ 出シテ 泣クコトヲ 知ッタトキ 本当ニ ウレシカッタ。 

君ハ 体ヲ フルワセテ 泣イテイタ。ナンドモ ナンドモ ヨク泣イタ。 

シカシ ソノ泣キ声ハ 私タチニハ 聞コエナカッタ。母サンハ 一度デ イイカラ キミノ 泣キ声ガ 聞キタイト キミノ 唇ニ 聞コエナイ 耳ヲ 押シ当テタ 。 

(ワガ子ノ 声ガ 聞キタイ ! コノ子ノ 声ヲ 聞カセテ !) 

ト ナンド 願ッタ コトカ。 シカシ 母サンハ 悲シソウナ 顔ヲシテ 首ヲ 左右ニ 振ル ダケダッタ。 

私ニハ 聞コエナイガ オソラク 母サンハ 声ヲ アゲテ 泣イテイタト 思ウ」  

太郎は初めて父親の涙を見ました。父の心の底からほとばしり出るような手話をまばたきもせずに見つめました。 

「デモ 今ハ 違ウ。私モ 母サンモ 耳ノ聞コエナイ 人間トシテ 最高ノ 生キ方ヲ シテイコウト 約束シテイル。 

キミモ ソウシテ 欲シイ !  耳ノ 聞コエナイ 両親カラ 生マレタ 子ドモ トシテ・・・ソウシテクレ。コレハ 私ト 母サン 二人ノ 願イデス」 



このときの父親の言葉を太郎は作文に書きました。実は五井先生の子どもは太郎の小学校時代の同期生でした。五井先生は子どもが持ち帰った文集を読んでいて、たまたま太郎の作文を目にし、 

(耳の聞こえない親子には、こういう葛藤もあるのか・・・) 

と深い感慨を覚えたといいます。 

それから三年の月日が流れ、五井先生は新しく自分が担当するクラスに山田太郎の名前を見つけました。 

(山田太郎・・・どこかで聞いたような・・・) 

記憶をたぐり寄せるような内申書をめくると、「両親ともに言語聴覚障害一種二級」と書かれてありました。 

(ああ・・・あのときの作文の子だ・・・) 

「お前の担任になると知ったときから・・・私は・・・お前の名前を呼ぶときは・・・」 


つらそうに咳き込みながら、五井先生は振り絞るような声で話しました。 

「こんなとき、お前のお父さんだったら・・・どう呼ぶかな・・・そう考えながら『太郎、たろう、タロー』と呼び続けてきたんだ・・・理由も話さず・・・悪かったな・・・太郎」 

頭を激しく振りながら、太郎の口から嗚咽が漏れました。奥歯を力いっぱい食いしばっても、とめどもなく涙が頬を伝ってきます。 

「先生・・・この前、バスに乗って社会見学に言っただろう。あのとき、出発前に腕時計を指で指しながら『太郎、時間だぞっ、太郎っ』って呼んだよな。オレ、あのとき・・・うれしかったんだ・・・。親父に呼ばれてるみたいで・・・本当にうれしかった・・・」 

うつむきながら肩を震わせている太郎のそばで、すっかりやせ細った五井先生は、じっと太郎を見つめながら何度もうなづきました。 

「先生、病気なんか早く治しちまえよ。絶対治すんだぞ。そして、オレのことずっと太郎と呼んでくれよ。オレのこと、太郎って呼べるのは先生だけなんだ! 」  

太郎は毛布の端を握りしめ、懇願するように言いました。

「何も知らなかったから・・・ふざけて返事したりして・・・。先生、元気になってください! 必ず元気になって、僕のことずっと太郎と呼んでください・・・。お願いしま 
す。お願いします! 」 

深々と頭を下げる太郎に、五井先生は弱々しく微笑んで右手をゆっくり差し出し、太郎の手を握りました。五井先生の手は、太郎には小さく冷たく感じられました。 

「先生っ、病気なんかに負けたら承知しないぞ。絶対に承知しないからな!  」 

五井先生は太郎に体を預けたまま、一語一語いとおしそうにつぶやきました。 

「太郎、ありがとう・・・た・ろ・う」 



それから四日間、意識不明の状態が続き、五井先生は亡くなられました。しかし、五井先生の限りないやさしさは、今も太郎の心の中に生きています。 



*・゜゚・*:.。..。.:*・*'・*:.。. .。.:*・゜゚・*


愛情って目に見えないから


“ない” ように見えてしまうことのが多いかもしれない


本当は


いつだって


誰にだって


“ある” んだよね


ひとつの言葉や


ひとつの態度から


ちゃんと感じ合えるといいな


見逃しちゃダメだよ





{FB25CA4C-43CC-4B23-875C-487923DF62C7}






今日もあたたかい日でありますように。





ありがとうございます。













{28BC2EF9-24D2-4F17-807E-B67E6B0D948C}





《講座のご案内》


アンガーマネジメント講座

~怒りはコントロールできる!~


【開催場所】

i-ビル (尾張一宮駅前ビル)

6階 小会議室

愛知県一宮市栄3丁目1番2号

0586-28-9153



【11月26日(日)】

ママのためのアンガーマネジメント

     ~子どもとの向き合い方~

17:30~18:30

受講料2000円

※+500円で自分の怒りの傾向がわかるアンガーマネジメント診断が受けられます。ご希望の方はお知らせください。

https://www.facebook.com/events/292300837937942/?ti=icl


アンガマネジメント入門講座

19:00~20:30

受講料3240円

※+500円で自分の怒りの傾向がわかるアンガーマネジメント診断が受けられます。ご希望の方はお知らせください。

https://www.facebook.com/events/362285427548926/?ti=icl




【12月14日(木)】

ママのためのアンガーマネジメント

     ~子どもとの向き合い方~

17:30~18:30

受講料2000円

※+500円で自分の怒りの傾向がわかるアンガーマネジメント診断が受けられます。ご希望の方はお知らせください。

http://www.facebook.com/events/144292226181310/?ti=icli=icl


アンガマネジメント入門講座

19:00~20:30

受講料3240円

※+500円で自分の怒りの傾向がわかるアンガーマネジメント診断が受けられます。ご希望の方はお知らせください。

https://www.facebook.com/events/118809202146498/?ti=icl



《申込みはこちらから》

https://ws.formzu.net/fgen/S93456169/


《問い合わせ》

子ども応援室   ここ・らぼ    古川

kokoroaat@yahoo.co.jp