「わざわざ電話をくれたんだよ。だから、頼んだのさ」
畳の表替えの話です。
夕飯を済ませて一段落していたころに、電話が鳴って、出てみると、いわゆるテレアポ (テレフォン・アポイントメント) の電話でした。
「あらまあ、こんな時間に、わざわざ電話をいただいて、ご苦労様です。そういうお話でしたら、よろしくお願いします。」
と、畳の表替えを頼むことになったそうです。
ところが・・・。
「畳をはがして持って行ったきり、もう、一週間もなんも、言ってこないんだよね。相手の連絡先に電話してみたら、 "現在使われておりません" だって・・・。」
「代金はどうしたの?」
「あ、そりゃ、もう、払ってあるよ。」
「なに???」
「忙しくて連絡できないのかねぇ・・・。」
「あのさ、それ、サギにやられちゃったんじゃないの?」
「そんなぁ。だって、夜なのにわざわざ電話くれたんだよ。仕事熱心だってことじゃないか。」
「・・・。」
この彼女。夫婦で果樹園を経営していて、人も雇っていて、評判もいいれっきとした商売人です。そんな彼女でも、テレアポなんかに、コロッと、やられてしまうのです・・・。
テレアポの電話は、いやというほどかかってきます。とくに、光通信などの電話業界と、土地建物の不動産屋。あとは、会社にかかってくるのは、あやしげな金融、投機の勧誘。
そんな時、私の場合は、いつも、
「あのね、うちに対して営業しようって言うんなら、ちゃんと名刺を持って、直接訪ねて来なさい。顔も分からない相手が電話なんかで営業しようなんて、ムシがよすぎるんじゃないの?」とか、
「そういう話なら、後で、資料を送っておいて。メールでもいいし。」などと断っています。
中には、
「あ、それじゃあ、住所を教えてもらえますか?」
「なんだって?人の住所も名前も知らずに営業してんの? ふざけるなよ、自分で調べてから、名刺持って来い!」
ですが、彼女にしてみれば、「わざわざ電話をくれた」、という受け止め方になるのです。その結果、一週間もの間、自宅は畳をはがしたままの不自由な生活が続いています。
群馬の人々というのは、こういう、人のことを善意で受け止める人の善さもまた、大きな特徴のように思います。
40年近くもいろいろな土地の公務員官舎で生活してきた私の親たちも、定年後は、ここがいいと、群馬に家を建てたほどでした。わけを聞くと、
「人柄がいいんだよ。みんなが親切で、よそから来た私たちだって、気遣ってくれる。ここなら、気持よく過ごせるって思ったんだよね。」
いろいろな地方を巡って、その空気を味わってきた親たちにとっても、懐かしい九州に戻るよりも居心地がよさそうだと感じるほどでした。
まあ、その分、ワルも多いんです。
さっきの彼女のもう一つの話ですが、
隣に住んでるおばさんが金に苦労してるらしく、親戚でもなんでもないんだけど、30万円貸してくれないかと相談に来たので、「そんなに困ってるんなら、30万じゃ足りないだろう。50万貸してあげるよ」と、ポンと大金を差し出しました。
ところがいつまでたっても、返そうとしない。少しずつでも返してもらえたらいい、ということで、月々1万ずつの返済をすることになりました。それでも、何カ月も滞るので、
「どうなってんのさっ! 早く、返してよっ!!」
「だって、返しちゃったら、アンタ、すぐ、使っちゃうだろ? 旦那に内緒のバッグとかネックレスなんかも買ってるしさ。だから、そんなことにならないようにしてあげてんのよ」
「なっ、なんだってぇ!!!」
平気で開き直ることができるのも、まあ、そんな土地柄ではあるのです。
人の善さもここの土地柄なら、そこにつけ込む輩が多いのもここの土地柄です。そんな連中がいても、それでも、やっぱり、ここは、おおらか、だと思う。