大学生編

第1話「静かな世界」



朝。



静岡駅前。



新しくなった高架都市。



巨大モニター。

空中連絡通路。

地下直結エレベーター。



世界は、
まるで未来都市のように変わっていた。



だが。



誰も知らない。



数年前。

この街が:

「一度崩壊した」

ことを。



春。



沼津看護福祉学園

大学部。



新学期。



教室最後列。



赤髪ボブ。

赤いパーカー。

ホットパンツ。



アカネ



机へ突っ伏しながら呟く。



アカネ:

「大学とかダル……」



その隣。



青髪ロング。

タンクトップ。

黒レザーパンツ。



アオイ



アオイ:

「初日からそれ?」



アカネ:

「だって平和すぎんじゃん」



アオイは、
少しだけ窓の外を見る。



静かな街。



普通の学生。



普通の日常。



しかし。



アオイ:

「……逆に怖い」



アカネ:

「あ?」



アオイ:

「あの崩壊の後で、
こんな普通ある?」



その瞬間。



教室時計。



カチ。



……止まる。



一秒。



世界静止。



誰も動かない。



しかし。



アカネとアオイだけが、
動けた。



アカネ:

「またかよ……!」



窓の外。



現代都市の景色へ:

江戸時代の駿府城が、
一瞬だけ重なる。



武士。

炎。



そして。



黒い巨大門。



アオイ:

「見えた……?」



アカネ:

「見えた」



次の瞬間。



時計再始動。



学生達も、
何事もなく動き始める。



誰も異変に気付いていない。



アカネ:

「まだ終わってねぇじゃん……」



その頃。



地下七階。



旧封鎖区画。



暗闇。



中央で脈動する:

「黒い石」



ドクン。



ドクン。



その前へ立つ男。



角川



角川:

「始まったか」



背後のモニターには:

* 時空歪曲率上昇
* 江戸侵食反応
* 駿河位相接近

の文字。



角川:

「駿河国は、
まだ終わっていない」



一方。



大学病棟。



白い病室。



ベッドで眠る:

キョウ



以前より、
さらに小さく見える。



痩せた身体。



咳。



モニター音。



その横。



壁にもたれている男。



アキラ



タバコは吸っていない。



ただ。



静かに窓の外を見ていた。



キョウ:

「学生共は?」



アキラ:

「相変わらずアホ」



キョウ:

「それでええ」



小さく笑う。



しかし。



その瞬間。



病室照明が、
一瞬だけ赤く変わる。



アキラの目が細くなる。



空間歪曲。



病室壁面へ:

江戸時代の町並みが、
ノイズのように浮かぶ。



アキラ:

「……チッ」



右腕。



黒い紋様が、
少し広がる。



キョウ:

「悪化しとるのう」



アキラ:

「うるせぇ」



だが。



アキラは理解していた。



世界のズレが、
再び始まっている事を。



そして。



その中心にいるのは。



金髪の小さな少年。



学園屋上。



風。



だぶだぶのカーディガン。



イオリ



フェンス越しに、
静岡を見下ろしていた。



その瞳。



一瞬だけ。



老人のように変わる。



イオリ:

「門が開く」



その背後。



空が、
わずかに割れた。



― 第1話 終 ―