ヤマモトが夜にひとりで町を歩いていると見たことのある女性が不良じみた男、数人に無理矢理手を引かれていた。ヤマモトは助けなきゃと思いその男の手を放した。
「なんだテメェ!!俺たちはその女に用があんだよ」
数人の内の一人が喋る。
「彼女嫌がってるじゃないですか」
それを言った瞬間には既に相手の右手が頬に飛んできていた。それから次々に体に嫌な衝撃が響いていた。ヤマモトは実際には2分程のことなのだが、気が遠くなる程殴られている気がしていた。
「君達そこで何をしてるんだー」
「やべぇ、逃げろ!」
警察がきたのだ。
「私たちも逃げるよ」
めちゃめちゃに殴られたヤマモトを知らん振りして彼女はヤマモトの手を取り走った。
これが彼女とヤマモトの初めての出会いだった。走って着いた先は彼女のマンションだった。全力で走ったのと殴られたおかげで目は虚ろだったが、なんとか表札は見えた。
『黒木』
頭の中で横にいる彼女の顔と黒木という名字を照らし合わせる。
「黒木メイサ!!」
「ちょっと静かにしてよ!近所の人が来ちゃうでしょ」
そう言うと強引にヤマモトを部屋の中へと押し入れた。
「好きなところ座って。今救急箱持って来るから」
というと彼女はどこかへ消え、小さな箱を持ってまた戻って来た。
「染みるけど、じっとしてて」
彼女はマキロンをティッシュに染み込ませてヤマモトの傷口に当てた。
「案外、普通の部屋に住んでるんですね」
ヤマモトは傷の痛みに耐えながら言った。
「まぁね、ここ安いし」
「芸能人て、もっと広いとこに住んでると思ってましたよ」
「芸能人ぽくない部屋って意味?」
彼女が意地悪な顔をしてヤマモトに聞く。
「いやぁ、僕はそんな意味で言ったんじゃ(汗)」
「あはは、分かってる。ちょっと意地悪しただけ。そうだ!ご飯食べていかない?今日買い過ぎちゃったのよ」
「いいんですか!?」
「さっきのお礼もしたいし」
そう言いながら、彼女はすでにエプロンをまとっていた
。
ヤマモトは待ってる間何をしていいのか分からずにいた。初めて来た家、ましてや女性の家である。ヤマモトは何をしたらいいのか分からずに彼女に話し掛けた。
「すぐにケンカとかしないんですね?」
「えっあたし!?」
不意を突かれたのか、彼女は驚いた。
「そうね、ドラマとかだと多いけど、ほら、あれは演技だし」
「意外でした」
「損だよね、私目が鋭いからなんていうか強そうな役ばっかでプライベートもそうなんじゃないか、ってなるんだよね」
「でも、似合ってますよ」
「ありがと、こういう仕事してると生の声ってなかなか聞けないから」
「僕、黒木さんの作品ほとんど見てますよ。クローズも嵐の二宮君と一緒だったやつも風のガーデンも、仁侠ヘルパーも」
「ありがとう、じゃあこれ運んで」
気付いたら食欲をそそる匂いが立ち込めていた。
「料理上手なんですね」
「沖縄料理だけだけどね」
「そっか沖縄出身なんですよね」
「そうよ、おばあちゃんに習ったの」
「あー、だから」
と言ってテーブルに置いた大量のゴーヤチャンプルに目をやる。
「ゴーヤ苦手だった?」
「いえ、大丈夫です」
「そう、よかった。じゃあ座って。飲み物ビール…はまだ早いか、麦茶でいい?」
「はい、いただきます」
「私はビール、っと」
嬉しそうにそう言って、両手に缶ビールと麦茶の入ったグラスを持ってイスにかけた。「あれ、ご飯は?」
「ごめん、お米切らしちゃってて、パンならあるけど…」
「ゴーヤだけで大丈夫です」
彼女はどうやら、炭水化物はあまり取らないらしい。それからいろいろなことを話した。お芝居のこと、好きな芸能人、休日の過ごし方や家族のことまで。気付いたら、日付が変わっていた。
「いけない、もうこんな時間。家族の人大丈夫?」
「大丈夫です。今日家には誰もいないと思うし」
ヤマモトは嘘をついた。本当はさっきから携帯が何回も光っていた。この時すでにヤマモトは彼女のことを好きになっていた。
「そう。じゃあ、泊まってく?」
「え!?」
「私はソファで寝るから、寝室使って」
「いいんですか?」
「いいんですか、も何も電車ないでしょ?歩いて帰る気?」
「でも、今日知り合ったばかりの、それも男を泊めるなんて…」
「じゃあ、寒い中一人で歩いて帰るの?それにあなたは私を襲いそうにもないし」
「じゃあ、お言葉に甘えます」
「よろしい」
「じゃあ、泊めていただくお礼に皿洗いしますよ」
「ありがと、じゃあ頼んじゃおっかな。その間に私はお風呂入って来るわ」
「了解です」
ヤマモトがお皿を洗っていると気になることがあった。全ての食器がペアである。それはお皿ならまだしも、箸やマグカップまで。
「あー、いい風呂だった」
彼女が出て来た。ヤマモトは思い切って聞いてみた。
「なんでマグカップが2個あるんですか?」
「え!?あーそれは昔の人のやつ。捨てられなくて」
「あー」
ヤマモトは何もなかっようにうなずいていたが内心焦っていた。
「獅童さんのやつなの」
獅童さん?
「ちょっと前に噂になってたでしょ?覚えてない?」
「え!?あっ中村獅童!?」
「うん。…ちょっとだけね、ここに一緒に住んでたの」
「へぇ、でもなんで」
ここまで言ってヤマモトは聞いちゃいけないものを聞いてると気付いたが遅かった。
「それは…」
彼女は一度黙って再びゆっくりと話し出した。
「彼といたりね、喋ってたりするとちらついちゃうの。前の奥さんが。それでね、比べちゃうのよ、自分と。それが疲れちゃって、私から別れよ、って話したの。彼何も悪くないのよ」
「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
「なんであなたが謝るのよ。私は大丈夫だから、あなたはもう寝なさい。お風呂入ると傷染みちゃうから」
「はい、おやすみなさい」
彼女のベッドに入ったもののヤマモトは寝付けなかった。さっきのことが頭から離れない。気付いたら朝だった。
てか、全部妄想だからね!
黒木メイサさんごめんなさい。