「夜にゴメンね・・・助けてほしいの・・・」
時間は、21時を回っていた。
とにかく麗華さんのマンションに自転車をすっ飛ばした。
はぁはぁはぁはぁ・・・・
息せききって麗華さんの部屋に。
「額の面倒お願いしたいの・・・・」
なんでも、
急に、会社の・・・・モデルの仕事のマネージャーさんから呼び出しを受けたんだそうだ。
事態は飲み込めない。
それでも、麗華さんが慌ててるのはわかる。
何か、
急いで行かなきゃならない理由があるのはわかった。
すでに、着替えは終わっていた。
「ママモデル」
には、似つかわしくないかっこうだ。
いつもは、ワンピースが多かったのに、
この時は、
タイトなミニスカート。
白いヒラヒラがついたブラウス。
とにかく、メチャメチャ美しかった。
いつも見る麗華さんも、
ママさんたちの中では、群を抜いて美しい・・・・しかし、その比じゃなかった。
外資系の、有能女子。・・・・そんな雰囲気だ。
なんか、
「隠されてた」
その素性ってか・・・
なんか、
麗華さんが麗華さんらしい・・・・そんな感じに思った。
慌ただしく、麗華さんが出て行った。
ガクくんは、
別に泣きもしなかった。
それより、オイラがいることが嬉しそうだった。
一緒に、「機関車トーマス」のDVDを見ていればご機嫌だった。
時間が時間だ。
すぐに、ガク君は眠ってしまった。
麗華さんのマンションは、
オートロックの2LDKだった。
賃貸マンションじゃない。
ここは、分譲マンションだ。
麗華さんのものなのか、それとも、賃貸として借りてるのか、それはわからない。
・・・・ただ・・・
ボクが住んでる木造アパートとはえらい違いだと思った。
高層階・・・・12階だった。
街の夜景がよく見えた。
都会って・・・・
住んでるところの夜景が、すでに綺麗なんだよな・・・・
ウチの田舎とはえらい違いだ。
ウチの田舎だと真っ暗だ。
真っ暗な海しか見えない。
夜は、
ぐるぐる回ってる、灯台代わりの赤橙しか見えなかった。
10時過ぎ。
眠ったガクくんを隣の部屋の布団で寝かせた。
ボクはインスタントコーヒーを入れて映画を観ることにする。
何度かマンションには来ていた。
だから、ポットの場所、インスタントコーヒーの場所もわかっている。
麗華さんからは、勝手に使っててと言われた。
映画を観る。
衛星放送が契約されていた。
何Chだろう・・・・たぶん、全てが、フルで契約されてるんじゃないかと思う。全部で100Ch近くある感じだ。
映画が好きだった。
休みには、レンタル屋さんで映画を借りるのを楽しみにしていた。
それすらも、何枚借りるのか、財布と相談だった。
200円・・・・500円は高い・・・
そんな生活をしていた。
それなのに、
・・・・すごいよな・・・
観たい映画が、いっぱいあった・・・・
部屋の中。
なんだか、家具も高そうだった。
「住む世界が違う」
こういうことを言うんだな・・・・
落ち着いてくれば、
なんとも・・・・
なんとも不思議な感じがした。
部屋には、
なんとなく、
なんとなく、
麗華さんの匂いがした。
その香りに包まれているのが嬉しかった。
・・・・ボクは、
すでに、
当たり前に、
当然に、麗華さんを好きになっていた。
一番観たかった映画が終わった。
時間は1時を回っていた。
麗華さんが帰ってくる気配はない。
2番目の映画が終盤にさしかったった。・・・・ら、玄関の開く音がした。
麗華さんがリビングに入ってくる。
赤く上気した顔だ。・・・・酔ってる。・・・・それもけっこーにだ。
どこか、ドタドタって感じで入ってきた。
いきなりだった。
足がもつれたか、
寄りかかるように押し倒された。
キスされた。
ヌルっと舌が入ってきた。
アルコールのねばつく舌。煙草の味もした。
「私のこと、好きなんでしょ?」
ニヤっと笑いながら言われた。
頬をアルコールで染めた顔。
気高い麗華さんの冷笑。
ウンウンウン・・・・
ボクは首を縦に振った。
何回も、
大きく振った。
跨られて、
見下ろされて、
お姉さんが弟に・・・・いや、下僕を見るような眼差し。
猫がネズミを弄ぶ顔だった。
・・・・どんな風にオモチャにしてやろう・・・
酔った女王様に見据えられた。