彼女は、毎日息子さんを迎えに来た。ベンツで。

 

 

 

なんでも、

 

 

最近、引っ越してきたそうだ。

 

 

 

この辺は、

 

神奈川でも、下町の方でさ、

 

 

お母さんがたは、みんな、歩いてお迎えに来たり、

 

まぁ、自転車が多かったんだよな。

 

 

だから、

 

 

「車」ってのが、まず、ビックリ・・・ってか、珍しかった。

 

 

で、

 

 

「ベンツ」だよ。

 

 

ベンツっても、小さいやつ。

 

よく、女のひとが軽快に走らしてる、ちっちゃいやつだった。

 

 

それでも、ベンツだからさ、

 

 

・・・・いったい、いくらするんだろうねぇ・・・・

 

って、職員の中でも話題になってた。

 

 

・・・・にも、まして、

 

 

ビックリしたのは、

 

 

とにかく、

 

 

 

「美しい人」だったからだ。

 

 

 

いや、

 

ウチの田舎と違ってさ、

 

 

お迎えにくる、お母さんがた、

 

みーーーんな、「美しい」んだよ。

 

綺麗なんだよ。

 

 

ほんと、

 

 

都会のお母さん・・・・

 

 

都会の女の人って、

 

 

ホントに、綺麗だよなぁ・・・・っていつも思ってたもん。

 

 

 

ボクは、

 

 

女の人と付き合った経験もなかったからさ、

 

 

そんな、ママさんたちでも、

 

 

毎日、ドキドキしてたんだよね。

 

 

・・・・でも、

 

まぁ、

 

毎日のことだから、

 

そのうち慣れてくる。

 

 

そのうち、

 

 

気楽に、お話できるママさんたちもできてくるし・・・

 

 

でも、

 

彼女の美しさにはビビった。

 

 

 

「都会のママ」

 

 

そのものだった。

 

 

お子さんは4歳でさ、

 

 

本人も、どうみても30前・・・・ボクより、ちょっと上かって感じだった。

 

 

 

そこから、毎日、お迎えに来るようになって・・・・

 

 

でも、

 

 

彼女は、他の、ママさんたちとも話すこともなかったし・・・・まぁ、ベンツ、前に止めてるしな。

 

長くは止めておけない。

 

 

サッと登場して、

 

サッと帰るって感じだった。

 

 

 

なんか、

 

ちょっと、

 

 

「お高い」感じでさ、

 

 

澄ましてるってか、

 

 

常に、サングラスなんかしてるし、

 

 

ちょっと、近寄りがたい雰囲気だったよなぁ・・・・

 

 

・・・・まぁ、

 

 

「美しさ」に近寄りがたいってのもあったけどな、

 

 

 

職員、ママさん、

 

最初は、

 

みんな、

 

「物珍しさ」がある感じだったけど、

 

 

2か月、3カ月・・・・

 

 

そのうち、誰も、気にしなくなる。

 

 

 

・・・・ボクは、

 

 

チラチラと、

 

 

美しい姿を盗み見てたけどな。

 

 

いつも、

 

彼女が、

 

名前は麗華さんっていった。

 

麗華さんが、お迎えに来るのを楽しみに待ってるようになってた。

 

 

「綺麗だなぁ・・・・」

 

 

いつも、ボーーーーっと見惚れてた。

 

 

息子さんの「ガクくん」は4歳で、

 

これが、「額」  一字で「ガク」って珍しい名前で、

 

 

なんか、

 

この子も、

 

いかにも、

 

「良いとこの子」って感じなんだよな。

 

 

 

でも、

 

 

「お兄いちゃーん」

 

 

すぐ仲良くなって・・・・ってか、

 

なんか、懐いてくれて、

 

うれしかったんだよな。

 

 

・・・・でも、

 

 

ママの、麗華さんとは、ぜんっぜん話せなかった。

 

 

なんか、

 

 

とっつきにくいってか、

 

 

ボクなんかと話したくはないんだろうな・・・・そんな感じがみてとれた。

 

 

まぁ、

 

ボクは、

 

毎日、

 

 

ちょっと、ツンと澄ましたような、

 

ちょー美人の麗華さんを盗み見してるだけで、じゅうぶんだった。

 

 

んと、

 

目の保養だったよ。

 

 

 

夏。

 

電気代の節約で、図書館で涼んでた。

 

 

机に座って本を読んでた。・・・・・まぁ、「フリ」だけど、

 

 

調べものしてるフリで、パラパラと本を読んでいた。

 

机の上には、

 

 

「フリ」で、筆記用具、ノートなんかも並べている。

 

 

 

「お兄いちゃーーん!!」

 

 

 

聞き覚えのある声。

 

 

ガクくんが走ってきた。

 

 

 

・・・・・目が点になった。

 

 

 

部屋の入口。

 

 

麗華さんが立っていたんだ。