「も~!笑うとかひどない?助けてくれても良かったのにぃー!」

「いやいやすんません、つい、ね。」


教職の授業が終わって、お人好しさんこと山田さんと二人で教室を出た。


少し話して分かったことやけど、この山田さんはあたしの一個上で、大学3回生らしい。

本人曰く人見知りらしいんやけど、気が合うからなのか、すごく気さくで喋り安いと思った。

同じく自称人見知りのあたしでも、すぐに打ち解けられることができたんやから。


「山田さん、このあとまだ授業あります?」

「えー、ないない!」

「んじゃあ、ちょっとお茶でもして行きません?」

「なにそれナンパ?」

「え、ちゃ、ちゃいますよー!」

「うふふ、うそうそ。ええよ、ちょうどお腹空いてたとこやし!」


そんな風に自然な流れでお茶に誘えるのも、あたしにしては珍しい。

もしかしたらあたし、この人とちょっと相性いいのかもしれんな。


ぼんやりとそんなことを思いながら、大学近くのカフェに入った。



「彩ちゃん、おっとなやなぁ!」


ロイヤルミルクティーをたのんで、ストローで氷をカラカラさせる山田さんは、前に座るあたしがブラックのアイスコーヒーを飲んでるのをまじまじと見てくる。

いやいや、あなたは子どもじみ過ぎてますけど、ってツッコミは心の中にしまって、代わりにハハッて軽く笑う。


「山田さんはさぁ、」

「んー?」

ミルクティーを幸せそうに飲む山田さん。

ストローを咥えてるからか、少し上目遣いで見てくんのとか、ちょっとやめて欲しい。

「彼氏とかいないんですか?」

「あはは~、残念ながらいーひんよ。」

「じゃあ、好きな人は?」

「それもおらんー。」

「そっか。」


なんやろうな。

どこか安心してるというか、やっぱりそうやったって納得してるというか。


山田さんは、贔屓目に見ずとも可愛い人やと思う。

けど、彼氏がおるって言われたらどこかしっくりけーへんと思って。

そんで、実際にはやっぱり彼氏がおらんって言うから、あぁなんか自分の思う山田さんと本当の山田さんは結構一致してるんちゃうかって。


「ほんなら、好きやない人と付き合うってどう思います?」

「えー?そんなんありえへん。ちょっとチャラいし。」


ほら、やっぱりな。



山田さんはあたしが好きになるべきような人で、言ってしまえば理想的な人やった。


この人のことなら好きになれるんちゃうか、あたしは直感的にそう思ったんや。


「なぁ、山田さん。」

「んー?」

「また今度、どっか遊びに行きませんか?」

「ふふ、私も誘おうと思ってた」


顔を見合わせて、二人して笑った。



それから、あたしと山田さんは頻繁に連絡を取るようになった。

教職の授業が案外かぶっていたことにお互い驚きつつ、二人で講義を受けたり。

大学のカフェテリアで一緒に昼ご飯を食べたり。


一緒にいる時間が増えてわかったのが、山田さんは年上のくせしてアホっぽい。

どっちが年上なんか、たまに分からなくなる。

でも、そんなところが彼女の愛される一面やとも思うし、アホっぽいくせに授業はむちゃくちゃ真面目に聞いてるし。

そんなギャップも魅力的やとも思った。


『なぁなぁ、そろそろ遊びに行く日決めへん?』

「あー、せやなぁ。いつにしましょうか?」


休日のある日、たまたま山田さんがバイトの休憩中に暇やからって、電話する流れになって。

あたしは家の近所の本屋に立ち寄ってたとこやから、暇つぶしの相手になるのも別に平気やったし。

そこで、前に約束していたデートの日程を決めることになった。


「んー、今月中やったら26日とかどうです?」

『ちょっと待ってな、手帳確認するわ。』

電話越しに、ペラペラと紙を捲る音がする。

『あー、その日昼過ぎまでバイトやぁ!けど、夕方くらいからなら平気やで?』

「あー、それでも全然いいですよ?金曜日やし、どっかでちょっと遊んで、そのあと遅くまで飲みましょうよ。」

『あ、ほんまー?じゃあ決まりやぁ!』

「じゃあ、26日に。」

『うん!じゃ、そろそろ休憩終わるから。付き合ってくれてありがとうな?』

「いやいや全然。楽しかったですよ。」


そう言って通話を終了した。

暗くなった携帯のディスプレイに、自分のにやけたキモい顔が写って、思わず顔を元に戻す。


26日のデートで、いい感じやったら、告白しよう。


そう意気込んで本屋を出た。


「あれ?彩ちゃん?」


決心をした数十秒後に、自分の意志は面白いほど簡単に揺らいだ。


背後からかけられたその声に、心臓が全部持ってかれたんや。


「みるきー??」

「偶然やなぁ!」


みるきーは駆け寄ってきて、あたしの腕に手を絡めてくる。


「なぁなぁ彩ちゃん、この後ひま?もしよかったら、あの日のお詫びしたいんやけど。」


断る理由が見つけられなかった。



~つづく~
翌日、首と腰の痛みで目が覚める。

変な体勢で寝たからか、寝違えたみたい…、って、あれ?なんであたしソファで寝てるんやろ…。

まだ半分夢の中の頭を全力で働かせて、あっ、と思い出した。


ベッドに顔を向けると、予定していた人物がそこには居合わせておらず。

綺麗さっぱり、ベッドメイクまでされた状態のベッドがそこにはあった。


…なんやねん、ほんま。


ボサボサの髪の毛をわしゃわしゃと掻きながら、ベッドに歩み寄った。


と、枕上に一枚の紙切れ。


なんや?チップかなんかか?ここアメリカちゃうけど?

そんなくだらない考えをぼんやりと打ち消して、その紙切れを拾い上げる。



『彩ちゃん、昨日はほんまにありがとうな。今度お礼させて!美優紀』


お菓子で例えるならマシュマロみたいなキャラなくせして、字だけは無駄に達筆なみるきー。

それは昔から変わらんのやなぁって心の中で少し笑って、その紙切れを綺麗に折りたたんだ。


って、きょう講義やん!!


気を抜いた隙にベッドで寝直そうとしていた自分のお尻を叩いた。


時計を確認すると、ジャストいつも家を出発している時間。


あかんあかんあかん!今からダッシュで準備せんと間に合わん!!


あたしは洗面所に駆け込んだ。





「おっ、ギリギリセーフ!」

「はぁ、はぁ、よかったぁー…この講義の先生むっちゃ怖いもんなぁ。」

「なっ。あー彩アウトなやつやー御愁傷様って拝んどいたけどへいきやったな。」

「縁起でもないこと言うな。」

「あははっ。にしても珍しいやん?彩がギリギリなんて。いつも余裕やのに。」

「あぁ、まーな、」

「なんや?もしかして昨日の夜、なんかあったんやろ?」

「は、はぁ!?ん、んなわけあるかいな!!」

「いやいやどもり過ぎやし、関西弁変やし。」

「いやいや」

「彩はわかりやすいなぁ」

「………」


あたしが口ごもると、それ以上深くは突っ込んでこないまーちゅん。

こういう空気の読めるとこ、ほんま助かるわ。


「なぁ、まーちゅん」

「んー?なに?」

「もしもやけどさ、」

「うん」

「付き合ってるわけでもない奴が飲み会の酔った流れでウチに来たら…、どうする?」

「どうするって?」

「いや、その、…したりする?」

「せやなぁー、それがロマンやんなぁ。」

「そっか」


あたしはカバンの中から講義のプリントと筆記用具を探す。

まーちゅんの顔は見えんかったけど、その包み込んでくれる優しい口調は相変わらずで。

憎たらしいほど落ち着くんや。


「んじゃあさ、その相手ってのが、昔自分が好きだった奴やったらどーする?」

「なにそれ!それこそおいしいやん。すぐにでもベッドイン、からの心も体もまるごと頂くわ。」


複雑な顔をするあたしを見兼ねたのか、「いやでも、」と付け加える。


「それがまだ好きだったら別問題かもなぁ。」

「…え?」

「だって、相手は自分のこと好きか分からんのやろ?好きな相手が自分のこと好きやないのに、そういうことするんは虚しくてやってられへんわ。」

そう言って笑うまーちゅん。

「でもまぁそれって、だいぶ自分の事情やけどな。あっちにしてみればいい迷惑。結局茉由って、自分勝手やねん。」


やっと顔を上げてまーちゅんの方を見ると、困った顔をして笑っていた。


ちゃうよ、まーちゅん。

それはちゃう。


だって、あたしもそうやもん。

きっとそう。


自分やって、好きな相手が自分のことを見てくれへんのに、そういうことできひんもん。


好き同士じゃなきゃ身体を重ねない彩ちゃんはほんま真面目や。


みるきーは、そう言って笑うかもしれない。

けど、真面目なんやないと思う。

結局は自分のため。

自分が傷つくのが怖いだけ。

真面目なんかじゃ全くないよ。


ぼんやりと手に持ったペンを眺めていた。



「じゃーまたな~!」

「おう!バイト頑張ってな!」

「いえっす!彩も教職がんばってー!」

「ありがとう」


昼過ぎまでまーちゅんと一緒に講義を受けて、校舎の前で手を振り合う。


まーちゅんはこれからバイトやけど、あたしは教職の授業やねん。


「大体、教師になりたいわけでもないのに資格欲しいから教職を取るとか考えが凄いわ。彩はほんま真面目やんな。」


まーちゅんと仲良くなった大学1年の春に、そんなことも言われたっけ。

みんな、あたしのことを真面目真面目言うけどさ。

真面目の定義ってなんなんやろ。



「あのぉー…」

「あ、はいっ!?」


教職の講義を右から左に受け流して聞いていたことに、誰かに声をかけられて気付く。

やばい、あたしあてられた!?


焦って、隣の声をかけてきた人の方を向いた。


「いまあたし、あてられました?」

「え、あ、あてられたんですか?」

「へ?」

「へ?」


お互い頭にはてなマークを浮かべて、首を傾げ合った。


「いや、あの、教科書持ってきてへんのやったら、一緒に見ますか?」

「あ、え、え?」


尚も状況が掴めないあたし。


チラリと心配そうに顔を落とす、その人の視線を辿ってみてようやく気付いた。


自分、授業の用意が机に全く出てへんやん。

どんだけ上の空やってん。

そう思うと同時に、どんだけお節介やねん隣の人。

とも思った。


「あ、ありがとうございます。教科書持って来てるんで、大丈夫です。ごめんなさい。」


でも、嫌いやない。

むしろ、こういう馬鹿みたいにお人好しな人は好きや。


「では山田さん、次の所から読んで」


「えっ、はっ、いぃ!?」

「え…」


先生が名指ししたのは隣の人お人好しさんで。

もちろんそのお人好しさんは今の今まであたしに構ってたわけやから、読むべき該当箇所が分からずに慌てふためいていた。


自分のせいやのに、なんだか可笑しくなって。

ニヤッと口角が上がってしまったのを、必死に手で覆った。




~つづく~


はぁ。





さて問題です。



わたしは今日これで、何回目のため息をついたでしょうか。





自分の部屋のソファにもたれながら、トイレにこもる誰かさんのお騒がせに狼狽する。



なんでこんな展開になっとんねん。



昔好きだった人と同窓会でたまたま隣の席になって?



その好きだった人が酔っぱらって?



いま自分の部屋に連れ込んでますやって?



そんなおいし…やなくて、ドラマみたいな展開あります?





ほどなくして、申し訳なさそうにトイレから出てくるみるきー。



顔色はだいぶ良くなったみたいやった。





「彩ちゃん、ごめんな?いっぱい迷惑かけて。」



「あぁ、別に気にせんでええよ。」





わたしは、適当にタンスから引っ張ってきた着替えをみるきーにポンと渡して、「とりあえずシャワー浴びてきいや。」と言えば、「ありがと。彩ちゃんは優しいなぁ。」とやわらかい口調で言うみるきー。



いつもみたいにくしゃくしゃの笑顔で笑ってるんやろうけど、そちらに目を向けることはなかった。





遠くでシャワーの音が聞こえる。



気を紛らわすためにテレビをつけてみても、結局気になってしまうシャワー音。



「だぁー!もう!」



自分で自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにして、ソファの1人分余っていたスペースへ倒れこむ。



なんでこんなにドキドキしてるんやろ、自分。



あかんやん、あいつ絶対いまも彼氏おるやん。



それに、あたしがあいつのこと好きやったん過去の話やん。



なのになんで、こんなに気が気じゃないんやろ。あほか。





「彩ちゃーん、上がったで?」



「!!」



ソファーで悶々としている間に、みるきーがシャワーから出て来たらしい。



背後で聞こえるみるきーの声に、つい肩の力が入った。





「んじゃまぁ、あたしも入ってくるわ。」



「ゆっくりしておいで~。」



「あほか、誰んちやと思ってん。」



「うふふー、彩ちゃんち。」





なんやねん、さっきまで本気で死にそうやったのに、今は絶好調やん。


まあ、酔いも醒めたらしいし良かったっちゃ良かったんやけど。


焦る自分に気づかれたくなくて、みるきーに目も合わさずに彼女の横をすり抜けてシャワー室へ向かった。





パパッとシャワーを浴びてリビングに戻ると、フローリングに座りながらストレッチをしていたみるきー。



「あ、彩ちゃんおかえりー。」



「わっ!なんやねんその顔!」



「パック中やでー?」



「パックって、持ってきてたん?」



「えー、そこにあったから使わせてもらった。」



「…。」





ほんまにびっくりするほど自由やんな。



苦笑いしながらあたしもフローリングに腰掛ける。


首にかけていたタオルで大雑把に髪を拭き、ふぁーとあくびをひとつ。

あかん、もうドライヤーする前に眠ってしまいたい勢いやわ。


「でも彩ちゃんてほんま肌綺麗よなぁ」

「え?」


眠い目をこすって、パッと顔を上げる。

するとそこには、ある程度距離をとって座ったはずのみるきーがすぐそばにいて。

そんでもって、パックを取り去って露わになったすべっすべの顔がもう自分の顔の目の前にあった。


「羨ましいなぁ。このパック、そんなに効果あるん?」

「ちょ…」


顔の距離をキープしながら、あたしの頬をさすってくるみるきー。

よく見れば四つん這いになって身を乗り出してる感じやし。


あかんて、ほんま。


せっかくシャワー浴びてリセットさせた心臓が、また…、


「ドキドキしてるん?」


至近距離の顔をぐいともう一段階寄せられ、ニヤリとした目で顔を覗かれる。

その吐息が、鼻にあたる。


あぁ、あかん。あか…

………。


みるきーの視線から逃げようと泳がしまくっていた自分の目は、ハタとある一点で止まった。


首筋に見える、赤い痕。


プツリと切れそうになっていた理性は、そこでハッと目を覚ました。


「ははっ、そんな誘惑には乗らへんで?釣り師のわるきーさん?」


みるきーの肩をぐいと押し、常識の範囲内へ距離を取り直した。


「むー。彩ちゃんってやっぱ真面目。つまらんわぁ。」


ぶーっと頬を膨らませたみるきーは立ち上がり、そのままベッドにダイブして行った。

しかも大の字に陣取り、そのまま微動だにしない。


「ちょいちょい、そこあたしのベッドやで?」

「……」

「おーいみるきーさん?」

「一緒に寝たかったら来てもええで?」

枕に顔を埋めながら尚もそんなしょーもないことを言うわるきーさんにため息をついて、回れ右。


ソファに倒れこみ、壁にかかる時計の時間をチェックした。


あー…明日も朝から講義やのにこんな時間。


タイマーをかけようと思うのだけれど、じわじわと襲ってくる睡魔がすぐそこにあって。

まどろんで行く視界の中で、

「ほんま、どんだけ真面目やねん。」

って言う誰かの呟きが聞こえたけど、それが夢か現かも分からなかった。



~つづく~
「…ほんま最悪。」





同窓会の帰り道、なぜだかあたしは肩にみるきーを背負って店から出た。





「えへへ~。ふわふわするぅ~。」



「あーはいはい、行くで。」





飲み会の間、あたしに対抗してなのかなんなのか、みるきーはあたしと同じペースで杯を進めていた。



こいつも案外強いんかな?



そう思っていたのに。



みるみる内に顔が赤くなり、ふにゃふにゃし始めるみるきーを見て、こいつはやばいかもしれないと危険信号を出した。



それ以降、みるきーに酒を飲ますのをやめたけれど、時すでに遅し。



どんどんアルコールが血中を巡り、気づけば一人では立てへんようになっていた始末。





「彩が酔わしたんやろ?責任とれ!」だとか、「彩、みるきーと仲良かったやん」だとか、必死に厄介払いし始める元クラスメイト達に裏切られ、見事に介抱役に抜擢されて今に至る。





「ほら、はよ歩いてくれんと終電逃すでー?」





足元がおぼつかないみるきーと、駅に向かって歩く。



「さやかちゃーんすきやでーあいしてるー」



とか言う戯言を右から左に受け流しながら、スマホで最終の電車の時間を検索した。





「おわっ!終電あと5分後にくんで!?みるきー急げる?」





こいつのペースに合わせすぎてのんびりしすぎてしまった。



みるきーの肩を抱きながら、歩くペースを上げた。





あと少しで改札や。



大丈夫や、なんとか間に合いそう。





肩の荷が下りかけた、その時やった。





「ちょっ…待って…やば…う“っ…」



「え“?みる…」



尋常じゃないみるきーの唸りに、ギクリと青ざめる。





「ご、め…」



「ややややばい!!みるきーこっち!トイレこっち!!!」





口元を抑え、今にも嘔吐してしまいそうなみるきーを、大急ぎでトイレに搬送した。





ジャーー。



・・・。





トイレの流水音の奥で、電車の発車ベルが鳴り終わったのが聞こえた。



もう、ほんま最悪すぎて洒落にならん。



片方の手でみるきーの背中をさすりながら、もう片方の手の平で額に手を置いた。





飲み会で痛手を受けて泣いているお財布さんになんとか交渉を終えて、二人でタクシーに乗り込んだ。





静かに発車したタクシーの車内で、みるきーは俯いたまま一言も発さない。



「まだ酔い回ってるん?」



「…うーん、ちょっとまだ気持ち悪い。」



みるきーの顔色は悪かった。





適当に投げ出していた自分の右手に、みるきーの左手がそっと乗っかったのが分かった。



ドキリと心臓が飛び跳ねたのは、突然だったから仕方ないやんと自分に言い訳して。



必死に平静を装った。



チラリと横目にみるきーを見やれば、尚も俯いて、口元に手を置いて気分が悪そう。



ほんまやったらさり気なくその手を振り払うところなんやけど、今日はそんなこともできそうにない状況で。



乗せられた手を、振り払うことも、だからといって繋ぐこともせーへんまま、静かに車に揺られていた。





窓の外を見やれば、みるきーの家の住所を告げて走り出したタクシーが、ちょうどわたしの家の近所を通り過ぎていた。



あぁ、みるきーを送って、またここに戻って来なきゃならんのかぁ。



運賃、どんだけかかるんやろ…。



運転手の脇腹あたりにある料金のメーターがまたひとつ上がったのを見て、心の中でため息をついた。





「あ、あかん…っ」



「え?」



突如苦しそうな声を出すみるきー。





「また…はきそ…」



「ちょおお!待って、運転手さん、止めて!!」



「うっ…」



「あかんみるきー!もうちょい待って!!!」



タクシーをその場で止めてもらって、急いで外に出る。



あーもうなんでやねん!

でもしゃーないやろ?

なぁ!しゃーないやんな!



あたしは持てる限りの言い訳を並べて、みるきーを自分の家まで連れて行くことにした。




~つづく~
CP:さやなな


「彩ー!大変や大変や!」


楽屋に入ってすぐまーちゅんに飛びつかれる。

まーちゅんの後ろでメンバー何人かも騒々しい。

なんやなんやなんかハプニングか?


「まーちゅん落ちついて、どーした?」

「いやいやそれがな!菜々ちゃんがな!」

「山田?あいつなんかあったん?」

「指輪してんねん!薬指に!!」

「………はぁ?」


メンバーの欠席で急遽予定変更だとか、何かそういう事態かと思っていたから。

予想外すぎるその言葉に、あたしは思わず眉をしかめた。


「だって菜々ちゃんやで?あーもう最悪!絶対茉由に気があると思ってたのにぃー!!」

「いやいやおかしいやろ」


うっさいまーちゅんをスルーして、適当なテーブルに荷物を置いて席につく。


「なぁなぁ彩ちゃん事件やで!!」

「あー?」


席につくなり携帯を取り出したあたしの視界の端に飛び込んできたのはみるきー。

また面倒くさそうのが来た。


「菜々ちゃんが指輪してんねん、右手の薬指に!」

「あーもうそれまーちゅんに聞いたわ。」

「犯人彩ちゃんやろ?抜け駆け許さんからな!」


もー、ほんま面倒くさい…。


「あほ、あたしちゃうわ。」

「えぇ!?彩ちゃんじゃないん?じゃあ誰?目ぼしい人はみんな問い詰めてん!残るは彩ちゃんだけやってんけどぉ!!」


なんて腕を掴まれてブンブンされる。


「ファッションちゃうの?自分で買ったとかお母さんに買ってもらったとか。」

「えー?いくらなんでもないやろ、菜々ちゃんやで??」

「いやいやそれどーゆー意味や」


プンプンうるさいみるきーもスルーして、きょうの収録の台本に目を通す。

………。



「山田ー。」

「んー?あ、さや姉や、おはよぉ」

「ちょっと外、ええか?台本のことで話があって」

「あぁ、ええよ?」


楽屋のメンバーがひとまず落ち着いたところで、あたしは山田を楽屋の外に連れ出した。


「今日天気ええなぁ。気持ちいいー。」


呑気に大きく空気を吸う山田。

ゆったりしたペースで並んで歩いていたけれど、あたしは周りを見回して誰もいないことを確認し、その右手を掴んだ。


「ちょっ!いきなり何!?」

「あんたなぁ!なに指輪して来てんねん!」

「えー?やって、嬉しいかったんやもん。」

「あほ!プライベートだけにしろや!そんくらい分かるやろ!」

「えへへ、右手だから大丈夫やろ。ファッションってことにしとくから~。」

「だぁー!もうっ!」


あたしは頭をガシガシ掻いて、山田の手を離す。


ほんまにどこの天国野郎や。

自分の周りでメンバーの噂の標的になってることも知らずに!!


そうやそうや、さっきは否定したけどな、指輪を送ったのは正真正銘あたし。


久しぶりにオフが重なった昨日、デートついでにプレゼントしたんや。


付き合って1年…記念…やから、さ。


ほんま高かったんやからな。

いくら今はありがたいことにたくさん仕事もらっているからとはいえ、たった20歳そこらの人間が、こんなたっかい買い物したんは初めてやわ。


これをプレゼントしたとき、こいつはむちゃくちゃ喜んでくれて。

なにって、まずあたしが1年記念を覚えてたことにビックリしてて。


「さや姉も案外女の子らしいとこあるんやなぁ」って、ふにゃっとした顔で笑うもんだから、あぁやっぱ高い買い物した甲斐あったわって、本気で思ったんやからな。



だからまぁ、そりゃあ、嬉しいやん。

こうやって指輪つけてくれてんのは、さ。

山田は自分だけのもんやーって証にもなるし。


でもやっぱりさ、照れくさいやん。

皆の前で堂々とされても、恥ずかしいやん…。


「なぁなぁさやねえー。」


1人悶々と頭を抱えている傍らで、くいくいと袖を引っ張ってくる山田さん。


「あ?」

「さや姉きょうは持ってへんの?」

「え?」

「だからこれー!」


ぶーっとむくれっ面で掲げてきた右手の薬指に光る指輪。


「あー…、持ってきてへん…ことも、ないけど…。」


あたしはポケットに突っ込んだままの財布を引っ張り出し、そこに大事にしまっていた指輪を取り出した。


「貸して貸してー」

「おい、無くすなよ?」

「わたしがつけてあげるー」

「……。」


すっと左手を手に取られ、素早くその薬指に指輪をはめられる。

いつの間にか山田も指輪を左手に付け替えていて。


「えへへ、お揃いやな。」

って笑う。


あーもう反則。

反則やで山田さん。



春の穏やかな日差しが、二つ並んだペアリングをキラリと反射した。




~おまけ~


「みるきー、やっぱ犯人彩やで」

「やな…まぁ、わかってたけどな」

「みるきー目。目笑ってない。」

「そりゃあ、なぁ。」

「あーあ、彩帰ったら命の保障ないで」


二人の後をつけていたまーちゅんとみるきー。

大人気菜々ちゃんでした。





~あとがき~


さやなな短編思いついたのでパパッと書いてみました!

さやみる中編始めて早々停滞気味ですみません!

あしたには更新できると思うので待っていてください~。

あたしがもう少し器用なら。


恋愛を軽いものとして捉えられたら。


こんな苦労はせずに済んだのにな。



それでもこの性格だけは、どうしても変えられへんみたいや…。



大真面目に好きやから <CP:さやみる>
            



行こうか行くまいか、散々悩んで結局参加した高校の同窓会。

居酒屋に集まった顔ぶれの中に、あいつの顔がなくてホッとした。

あたしはとりあえず一番奥の座敷席に座り、生ビールを注文した。


枝豆を口に放り込んで、やっぱり来てよかったと思ったその時やった。


「ごめーん、遅くなった!」


ドキリと心臓が脈打ち、途端に鼓動が激しく鳴り出す。


今の今まであたしの脳を占拠していた例の人物は、あたしの目の前に現れた。


「席どこが空いてるー?」

「あー、もう一番奥しか空いてへんかな。」

「わかったー。」


たまたま空いていた隣の座布団。

急いで自分の座布団と隣の座布団の中間に腰掛け直し、必死に空いていないアピールをしたも虚しく、結局はこちらに向かってきた。


「あ、彩ちゃん隣やん!やったぁ!」


ニコニコと愛想のよろしい彼女をちらりと横目に入れる。


見た目はあんまり変わってへんのやな。

スカートもまぁまぁいい趣味やし、ええんちゃう。


わざわざ服装をチェックしてプチ品評会を開く自分は、どこの変態おじさんやねんと軽くツッコミを入れる。


同窓会でみるきーに会った。

そんなん漫画の中の話かと笑うかもしれへんけど、みるきーは高校時代あたしが片想いしていた相手で。

そんな相手とこういう形で再会したってわけ。


昔好きだった人と会うのは、嬉しさ半分切なさ半分、そんな気持ちになるんやと思ってたけど。

あたしはなんだかそうではなくて。


すごく居心地が悪くて、今すぐにでもこの場を抜け出してしまいたかった。


「彩ちゃんなにたのんだん?」

「生やで」

「じゃあわたしもそれにする!」

「好きにせい」


その天真爛漫な笑顔に、いつだって翻弄されてきた。

けど、その右手の薬指に光る指輪のお陰で、今はこうやって自制する口実を作ることができている。


あぁ、自分も大人になったんやなぁ。


運ばれてきたビールをグイと喉に流し込む。

その独特な苦さに眉をしかめながら、遠いあの頃のことを反芻した。




「あたし、今日告白する。」

「おー!よう言った彩!応援してんで!」


同じクラスの岸野が肩を叩いて激励してくる。

そんな頼もしい親友に背を向け、あたしは隣の教室に向かった。


教室を覗き込み、ごった返す人混みの中からあいつを探す。


「あ!彩ちゃん彩ちゃん!」

「!!!」


目的の人物は、意外な場所から登場した。


「よかった!探したんやで?」

「あ、そ、そうなん?」


みるきーは教室の外から、入り口にいるあたしに声をかけてきた。


「今日の放課後な、ちょっと用があってん。よかったら、彩ちゃんの教室で待てってくれへん?」

わずかに頬を染めたみるきーを見て、一握りの期待が芽生えた。

もしかして、それって…。


あたしは放課後、そわそわしながらみるきーがやってくるのを待っていた。

話したいことってなんやろ。

あの時の表情を見る限り、悪い事ではなさそうやった。

いいこと…?なに?もしかして、告白?

ないない、そんなん都合よすぎや。

じゃあなに?わざわざ放課後に呼び出してまで。

やっぱり…もしかしたらもしかするんちゃう?


顔がにやけた。

意味もなく携帯を開き、画像フォルダを見返して心を落ちるかせていた。


教室の時計がちょうど17時をさしたところで、教室の入り口から足音が聞こえた。

やっと来たかな。


後ろ側の扉からやってきた人物の方を振り返って見た。

けれど、そこにいたのはみるきーではなかった。


「遅くなってごめんな。」

「え、なんであんたが…。」

「みるきーに呼び出してもらった。山本さんに話があって。」


みるきーと同じクラスの、サッカー部の男子。

あたしは話したこともなければ、名字しか知らないような関係の人で、たまにみるきーが仲良く喋ってる人、という認識でしかなかった。


「山本さんのことが好きです。もしよかったら、お付き合いしてくれませんか?」




豪快にビールを飲み干し、テーブルにカタンと空のジョッキを置く。


「いい飲みっぷりやなぁ。」

「まぁな。」


相変わらず笑顔を絶やさず、ニコーッとこちらを見ているみるきーを視界の端に確認する。

そういう意味深な態度があかんっちゅーに。

そんな風に見られてたら、誰でも自分に気があるかもって思うやん。


「彩ちゃんいま彼氏とかいーひんの?」

「あー、おらんなぁ。」

「好きな人は?」

「…おらん。」

「彩ちゃんは相変わらず真面目やなぁ。」


“相変わらず”

その言葉が皮肉なんなのか。

多分、みるきー自身もそこまで深い意味で言ったわけちゃうのに。


その言葉が妙に心に残って。

やっぱり自分はあの頃から少しも大人になれてへんガキなのかなぁと思うと、なんだか笑えた。




サッカー部の男子からの告白を丁重にお断りして、家に帰る途中。


「さーやかちゃんっ!」

「…みるきー?」

後ろから駆け寄ってきて、隣に並んで歩き始めた小悪魔。


「あんたはほんま、面倒くさいことしてくれたなぁ」

「えー?だめやった?」

「もうこういうことすんなよ」

「で、どうやったん?」

「…断ったし」

「そっか。」


興味なさそうな呟き。

そのたった一言が、こんなにもあたしを傷つけてるなんて、つゆほども思ってへんのやろうなぁ、こいつは。


「あの人まぁまぁイケメンやったし、付き合ってみたらよかったのに。」

「別に好きでもなかったし。ていうか、全然知らん人やし。」

「彩ちゃんて真面目よな。別に好きじゃなくても付き合ってみればええのに。わたしみたいに。」


え??


あたしはハタとその場に立ち止った。

「わたしみたいにって、なんやねん?」

「あれ?知らんの?わたし最近、彼氏できたんやで?」


単純にショックやった。

好きだった人に彼氏がいる、ということももちろんやったけど。

好きでもない男とホイホイ付き合うようなみるきーが。

ほんま、誰目線なんやろうな。

でもやっぱり、好きな人がそういう考えをするということが、自分には受け止めきれへんかった。



~つづく~






みるきーの報道があった直後なのにこんな内容ですみません…。
別に狙ってるわけじゃなくて前から温めていた作品なんです(涙目


さやみるの中編です。
休止前にはこのほかに、じゅりれなとさやななの中編も更新する予定です。
この3本と逆転王子様を完結させるまでは休止になんかさせません!
(こんなこと言い張っておいて大汗かいております笑)
こんばんは。

さきおかでーす!(^^)


大学生活もあと少しだというのに、バイトに明け暮れております。

シフトもうちょっと減らせばよかったー。

そしたらもう少し小説いいペースで書けるのに。


ということで、

卒業シーズン記念小説

旅立ちの日シリーズ


じゅりれな、さやみる、じゅりまな、さやなな全4CP終わりましたー(^^)


みなさん全シリーズ読んでいただけました??


じゅりれなは相変わらずツンデレな玲奈ちゃんと、生意気後輩の珠理奈で。

夕方の教室に2人、をイメージして書きました。

4作品の中で一番ストーリー性に欠けてしまいました(-_-)

トップバッターだったからご了承願います。



さやみるは、ほっこりあったかい感じに。

卒業間近、君に言えなかったことがある、というテーマのもと書いてみました。

なぜだかさやみるはキスシーンとか少なめになっちゃいますな。

物足りなかった方々すみません(-_-)



じゅりまなは、茉夏になかなか手を出せない珠理奈。

高校卒業を機に、一歩前に進みたいけど進めない珠理奈のヘタレようを書いてみました笑

結局まなっちゃんにキスされちゃうんですけどね。

まなっちゃんの方が一枚も二枚もうわてです(^^)



さやななは、なかなか素直になれないさや姉が、卒業式の日に少しだけ素直になるという感じのお話。

四作品の中で一番刺激が強いとのお声も頂きましたが、このCPが一番自分的に生々しいんですよね。

さやみるだとこういう雰囲気を出せないんですよ(-_-)


みなさんはどの作品が好きでしたかね?



いいねを見る限りだと、やはりじゅりれな需要が一番あるなと思う反面、

コメントや検索ワードなどを見ると、さやみる需要も徐々に増えてきたなという印象。


じゅりまなはSKE好きなら誰もが好きですよね(^^)

今回、わたしの大好きな由○ちゃんがじゅりまなにハマっていると言っていたので、特別に書いてみました(^^)笑

※伏字に特に意味はありませんw



あと、気づいている方もいるかもしれませんが、フォレストHPの方が、改装中のまま、只今実質サイト閉鎖状態でございます。


アメブロで書き溜めたものを移行しているんですが、なかなかまとまった時間が取れずに再開できておりません。

フォレストでは読みやすいようにまとめているので、まとめ読みはそちらのサイトをお勧めしていたのですが、ご迷惑おかけしております。


(実はパスワードにわたしさきおかの誕生日を入力すれば、編集途中のフォレストサイトに入れます。ということを小声で言っときます。)


フォレストの編集が手間かかるんですよねー(-_-)

もっと素敵なHP作りをしたいものです。


では今日はこのへんで。


あっ!

コメント返す返すと言ったきりで、結局返せてませんね。


ということで、今回特別にこの記事にコメントくれた方に返信しようと思います!

全部の記事ってなると膨大な量になるので(-_-)

でもやっぱり、たまには皆さんともちやんとお話したいので(^^)(^^)笑


ということで、皆さんお話しましょう!

近況報告などばっちこいです。

コメント待ってまーす。笑



さきおかでした~!


~旅立ちの日 *さやななの場合~



「わっ!ほんまに残ってた!」

「なんやねーん、自分から言っといてー!」



卒業式の式典中、携帯のバイブが鳴って、ディスプレイをこっそり見た。

メールを送ってきた相手は、今頃わたしら卒業生の後ろで、在校生としてこの式に参加しているはずのさや姉。

なんでこんなタイミングでメールしてくんねんって思うけど、そのメールの内容を確認するわたしもわたしや。


「卒業式のあと、暇だったら教室残ってて」


絵文字も何もない、簡素なメール。

さや姉からのメールはいつやってそう。

全く可愛げがなくて、生意気な後輩。


「用事あったらそっち優先してよかったのに。どんだけ暇やねん。」

「あーそうですかー!じゃあ帰りますぅー!」

「待ってよ」


いい子に教室の席で座って待ってれば、相変わらず憎たらしいセリフ。

そんな態度に拗ねて、席を立とうとすれば腕を掴まれて引きとめられるし。

ほんまなんやねん、このワガママ坊ちゃんは。


「これ」

「なに?」

「卒業の餞別」


ワガママ坊ちゃんが差し出してきたのは、コンビニのレジ袋。

受け取って中を確認した。


「あんまん?」

「せや。餞別のあんまん。」

「なんであんまんやねん。」

「いや、山田って言うたらあんまんやろ。」

「なぁそのいじり、そろそろやめてくれてもええんちゃう?」

「ははっ、絶対やめへん」



あれは、いつだったかなぁ。



「うわぁ!どこの雪だるまかと思った!!」

「…さ、さやねえ?」

「なにしてんねん、こんなとこで。顔真っ青やん。」

「かぎ、わすれた…」


真冬のある日、わたしは家の鍵を忘れて、お母さんの帰りを玄関で待っていた。


「もっとあったかい所おったら良かったやん。連絡くれればあたしももっと早く帰ってこれたし。」

そう言いながら、自分が巻いていたマフラーをわたしに巻いてくれたさや姉。

「財布もないし、携帯も充電切れた…」

「はぁ、ほんまアホ過ぎて…」


同じマンションの、同じ階に住んでいたさや姉は、親同士の仲が良くて、気づけばわたし達も仲良くなってた。

わたしの方が学年がひとつ上やのに、山田山田って、まるで先輩に対する尊敬の念を表さないさや姉にももう慣れて随分経つ。

言うて、ひとつ年下をさや姉呼ばわりするわたしもわたしやけど。


「とりあえず、うちいとく?」

「ええの?」


そろそろ寒さの限界で、歯がガタガタしてきたとこだったから、さや姉のその一言は神様からの言葉に値した。




「あ、ちょっと待って…」


ガチャッと自分の家のドアを開けたさや姉は、あることに気付いて、中に入らずにそっとドアを閉めた。


「中、入らんの?」

「すまん、お兄ちゃんが彼女連れ込んでるみたい。」

「え?」

「コンビニ行こ。あったかいもんでも奢ったるわ。」


さや姉はどうやら、玄関に並ぶ見覚えのない女性物の靴を見つけたらしかった。



「どれにする?山田はミルクティー?」

「うーん、あんまん!」

「はぁ?」

ホットドリンクコーナーに並ぶはずのない商品名を挙げたからか、さや姉は一瞬眉をしかめた。


「お前、こんな時まで食い意地の張った奴やなぁ!」

「だってー!お腹空いたんやもん!」

「あーはいはい。」


さや姉はあったかいレモンティーとミルクティーを手に取ってレジに並び、そこであんまんも頼んでくれた。


「さや姉そんなに飲むの?」

「アホ!あんまん食い終わった後にどうせ喉乾いたってうるさい誰かさんの分やわ!」

「あ、そうなん?」

「気ぃきくやろ?」

「えへへ~。さや姉ありがと」

「…おう」


コンビニを出て、二人で近くの公園のベンチに座った。


「う~、さっぶぅ…」

さや姉はあったかいペットボトルで必死に両手を温めていた。


「んー!おいひい~!」

「ははっ、幸せな奴やな」


さや姉の隣で、ホカホカのあんまんを頬張る。

口の中に程よい甘さと温かさが広がり、ほんま生き返った気分。


「なぁ。さや姉のお兄ちゃんって大学生よな?」

「あー、二人おるけど、さっき家にいたのは大学生の方やな。」

「てことは、彼女とエッチしてたんかなぁ?」

「ぶっ!!…けほけほ!」

飲んでいたレモンティーをむせ返らせるさや姉。


「あんたなぁ!そういうことハッキリ言わんでええねん!」

さや姉の顔は真っ赤やった。


「だってー!憧れるやん?そういうの。」

「山田って…変態だったんやな」

「ちゃうよー!そういう意味やなくてさ!」

「どういう意味や」

「なんかさ、好きな人と手繋いで、制服デートとかして、ちゅーとかしちゃって。それ以上のことは、大学生になって、親がいない時にこっそり、とか、なんか少女漫画みたいやん?」

「そうか?」

「もー!さや姉は乙女心が全く分かってへん!」

「余計なお世話じゃ」

「いいなー。わたしも高校生の間に好きな人とちゅーしたかったわぁ。」

「まだ間に合うんちゃう?」

「だってー、わたし年明けたらもうすぐ卒業やでー?間に合うかなぁ?」

「んー、じゃあ間に合わせてみる?」

「はい?意味わからん」


意味不明なさや姉の言葉を軽くあしらったあと、食べ終わったあんまんの紙くずをくしゃくしゃにして、レジ袋に突っ込んだ。


「だから、ちゅー、してみる?」

「誰と…誰がよ…」


さや姉の目を見たら、割と真剣な目をしていたから、ドキリとしてしまった。

わたしの質問には答えないまま、さや姉はわたしの肩を掴んだ。


その時、さや姉の手を振り払えなかった自分の本心がどこにあるのか。

その時感じた胸のドキドキは、期待なのか、不安なのか、はたまた好奇心なのか。

それさえ分からへんまま。


気づけばわたしは、さや姉からのキスを受け入れていた。


さや姉の唇は想像以上に柔らかくて、寒いはずなのにそこだけはびっくりするほどあったかくて。

キスがこんなに心地よいものとは知らんかった。





餞別と言って無造作に渡されたあんまんに、パクリと一口かじりつく。

既に冷め切ってしまっていたそれは、あの時とはまるで幸福感が違った。

けれど、口に広がるこの甘さだけは、いつになってもこのまんま。

あんまんは、あんまんやんな。


ファーストキスの味はレモンの味とか誰かが言うてたけど、そんなん大嘘や。

だって、わたしのファーストキスの味は、あんまんの味やったもん。




さや姉はあの日以来、よくわたしのことを山田あんまん菜々とか言っていじってくるけど。

わたしはそんなことよりも、あのキスが忘れられなくて。

あんまんを見るたびに、胸がキュって苦しくなるんや。


カシャッ!


「!?」

人があんまん食べながら物思いに耽ってた隙に、さや姉に写メを撮られた。


「な、なに撮ってんねん!」

「いやぁ、山田の制服姿がコスプレになる前の貴重画像でも納めとこうかなぁと思って。」

「悪趣味」

「なんとでも言え」


さや姉は撮った写メをまじまじと見ている。

なんだか少し照れくさい。


「でもやっぱ…、寂しいなぁ。」


窓の外から、いつの間にかオレンジ色の陽が射していた。


「山田がこの学校におらんくなるんやろ。」

「……」

「なぁ、ツーショット撮らん?」

「…別に、ええけど。」


珍しく素直なさや姉にドギマギする。


さや姉がこちらに寄ってきて、スマホをインカメラに設定した。

「もうちょっと寄らんと撮れへんやろ。」

「あ、ちょ…」


肩をグイと抱き寄せられ、身体が密着した。


カシャッ!


顔を作る間も無く、シャッターは切られ、そのアホ面が写真として残ってしまったことに焦る。


「も、もう一回撮り直さへん?」

「いーや、これでじゅーぶん。」


さや姉はさや姉で、写真の仕上がりを見ながらニヤニヤと満足げやし。


「あ、あの、肩…」

わたしの肩にまだ手置いたままですよーさや姉さん。

なんて、はっきり言うこともできず。


「なに?嫌なん?」

「や、あのー、そのー、」

だっておかしいやん、この状況。

なんでこんな広い教室で、付き合ってもない二人が寄り添って肩抱かれてんねん。


「山田が嫌ならしゃーな」

「っいや!」


自分でもびっくりした。

肩から手を離そうとしたさや姉の手を、反射的に掴んでしまったから。


その時、自分の中で何か制御していたものがプツリと切れる音がした。


もう、締め付けられるようなこの胸の苦しさに苛まれるのはいやなんや。

自分の本当の気持ちに気づかない振りをしながら過ごすのはいやなんや。


溢れ出る感情のままに、わたしはさや姉の唇にキスをした。


さや姉は一瞬目を丸くしたけど、気づけばわたしの頬に手を添え、瞼を閉じていた。

彼女のスラッとしたまつ毛が色っぽくて、恥ずかしくなって、わたしも瞼を閉じた。


唇に感じる温もりに、幸福感が広がる。

これが、本当の自分の気持ちなんや。


夢中でさや姉の首に腕を回した。


好きな人とキスするなんて、遠い未来のように感じていたのに。

結局、自分の理想は、こんなに早く叶ってしまったんやなぁ。


唇を離すと、顔を真っ赤っかにしたさや姉が目の前におった。


「アホ」

とだけ言われて、おでこをデコピンされる。


「今日、うち、誰もいーひんのやけど…来る?」

さや姉は自分の鼻を触りながら、ボソリとそう言った。

照れるといつもその仕草をする。


あかんなぁ、今までストップしていたものが、フルスピードで動き出してしまう予感。


でも、その前に、ちゃんとハッキリしとかなあかんことあるやろ、さや姉。


スゥと息をいっぱい吸った。


あんたに好きやと言う3秒前。

吸い込んだ空気は、春の味がした。



~おわり~
~旅立ちの日 *じゅりまなの場合~



「じゅっちゃん!」


弾むような声色に、つい胸をどきりとさせる。


「茉夏、来てくれたんだ。」


卒業式が終わって、人のいなくなった教室に茉夏を呼んだ。

「わざわざありがとね。」

「なにいってんの。じゅっちゃんが呼ぶ所なら、何処だって行くよ?」


窓の外を眺めるあたしの元に、茉夏は嬉しそうに寄り添ってきた。


「こういうの、卒業式っぽいよね。」


そう言って茉夏が掲げたのは、卒業証書の入った丸筒。


「じゅっちゃんのも見せて。」

あたしの手から筒を抜き取って、蓋を開ける。

ポンッという独特の音が教室に響いた。


「えへへ、おんなじだね。」


なんて、そりゃあそうだろと突っこみたくなるようなコメントも、茉夏が言うとなぜだか可愛く聞こえて。

自然と頬が緩んでしまう。


「茉夏、クラスの集まりは良かったの?A組、このあとカラオケでしょ?」

「うん、そういうのちょっと苦手だし、じゅっちゃんと一緒にいたかったから。」


あたしの肩に頭を乗っけてくる茉夏が愛おしくて、キュンとする。


「それよりどうしたの?何か話があったんじゃない?」

「ああ…。」



茉夏とあたしは、まるで正反対な性格で。

昼休みになったら校庭に飛び出して、男子に混じってドッジボールに興じるあたしとは対照的に、茉夏は教室で女の子たちとお絵描きをして遊ぶような子だった。


そんなあたしたちがなぜそんなに仲が良いのかってたまに聞かれるけど、何を隠そう、あたし達は小さい頃からの幼馴染。


家も近所だから、小学生の時から一緒に登下校をしていて、途中にある家の大型犬に怖がる茉夏の手を握って、一緒に遠回りをして家に帰っていたのは今でもいい思い出。


茉夏は大人しかったけど、ご存知の通り凄く可愛いから、中学に上がってからは幾度となく男子に告白されていた。


「まなっちゃん、今日も告られてたよ?今度は年上のサッカー部だって!」


そんな噂を聞くたびに、心中穏やかではいられなかった。


他の人に取られてしまうくらいなら…、そう思って、玉砕覚悟で挑んだ一世一代の告白。


「茉夏のこと、好きって言ったらどうする?」


あれは、中学3年生の秋だった。

一緒に歩いていた下校道。

夕陽に染まる茉夏の背中に向かって、あたしはそう言った。


茉夏が立ち止まって、しばらく沈黙の間が続いた。

ああ、これはダメなやつだ。

そう直感したあたしは、気まずくなるのが嫌だったので、明るく振る舞おうと一歩前に足を出した。

その時だった。


「嬉しい、よ。」


今まで見たこともないくらい真っ赤な顔の茉夏が、振り返って笑いかけてきた。

天使が舞い降りたとは、あの時の茉夏を言うんじゃないか。

今でもそう思っている。


それから付き合うことになったあたし達。


お互いの予定が合う時はデートにも行ったし、一緒に受験勉強もした。


喧嘩することもほとんどなく、周りから見たら、微笑ましいカップルなのかもしれない。


けど、けど…。


あたしは今日、告白したあの時と同じくらい堅い決心の元、茉夏をここに呼び出した。



カーテンがヒラヒラと揺れる。

少しだけ暖かくなってきた風が心地良い。


「茉夏」


あたしは隣にいた茉夏の目を、じっと見据えた。


「ん?なあに?」


茉夏はニコニコしながら、あたしの視線に応えた。


高校時代、手を繋いだことはあっても、キスの1度だってしたことがない。

そういうことに関して興味津々なはずの年頃なはずなのに、とんだ純情カップルだと周りに散々茶化されてきた。

だって、だって…。


こんな天使のような茉夏のファーストキスを奪うなんて、そんな軽々しいことはできないし。

もしかしたら茉夏はそういうことが苦手なのかもしれないし。

そもそも、小さい頃からずっと一緒にいるから、そういう雰囲気にすらならないんだ。


今までたくさん言い訳をしてきたけど、結局は自分がヘタレなだけで。


「そろそろ唇奪っとかないと、大学の飲み会で酔った拍子にファーストキス奪われちゃうかもよ?」

親友のにししにそう忠告されて、決心がついたってわけ。


前振りが長くなったけど。


今日あたしは、茉夏のファーストキスを頂くために、わざわざ卒業式の日に放課後の教室に呼び出して、窓際に二人並んで立って、そして今、こうやって見つめ合ってるという状況にまでこぎつけた。



あたしは茉夏の両肩に軽く手を置き、それらしい雰囲気を作るよう努めた。


「じゅっちゃん?」


首を傾げて、その雰囲気にまるで気づいていない茉夏。

そんなところも可愛くて、今すぐここで押し倒したくなっちゃうけど、あらぬ感情を全力で拭い捨てて、徐々に顔を近づけた。


と、その時。


「あ!」


茉夏はあることを思い出して、あたしから身体を離した。


カバンをゴソゴソして、ある物をあたしに差し出してくる。


「これ、前に2人で撮ったプリクラ!じゅっちゃんの分切り分けたから、今日持ってきたの!」


「………あ、ありがと」


ガクッと肩の力が抜ける。


手に持ったプリクラの中には、楽しそうに笑い合う茉夏とあたし。

なんていう幸せボケな顔をしてるんだ、あたしは。


我ながら気持ち悪いと思うくらいのだらしない顔。


こんな風に笑い合えたら、別に、キスとか、いいんじゃないか。

きっと、そのうち、そういう雰囲気になって、、、。


いやいやいや!!!


ヘタレな自分を一蹴して、気合いを入れ直す。


「茉夏!あのさ!」

「ん?」


こうなったらダイレクトにお願いしよう。

うん、そうだ、それが一番潔い。


「あのさ、」

キスして下さいって、その一言。

そう、たった一言を言えばいいんだ。


「あの、キ、キ、き…」

「き?」

「きー…」

「?」

「き、昨日の夜ご飯なに食べた!?」


ズルッ!!


ヘタレ過ぎる自分に心の中で大こけ。

なんだよその質問。

漫画かよこの展開。


「昨日の夜ご飯はきのこのリゾットだよ。美味しかったなぁ~。」


あぁ、純粋過ぎる茉夏ちゃんに乾杯。

可愛いよ、本当にもう。


頭を抱えながら窓に縁に手をついた。


「あ、」

ふと窓の外に目を向けた。

目についたのは、仲良さそうに手を繋いで帰るカップル。


「あの男、前に茉夏に告白してなかった?」

「…あ、本当だ」


後ろ姿しか見えないけど、はっきり覚えてる。

ていうか、茉夏に告白した命知らずな男どもの顔は一人残らず覚えてる。


「あいつ、切り替え早すぎっしょ。よかった、茉夏があんな変なのに引っかかんなくて。」

「…結局、誰でもよかったんだよ。」


隣で聞こえる茉夏の寂しそうな声。

ハッとして茉夏の顔を覗くと、ぼんやりとその男の後ろ姿を眺めていた。


「友だちが言ってた。男は結局、ちょっと顔が好みで、手を繋げて、キスできる相手がいればそれでいいって。」

「茉夏…」

「じゅっちゃんは、そうじゃないよね…?」


眉をハの字に下げて、あたしの顔を伺うように見る茉夏。

その茉夏の子犬のような顔を見て思ったんだ。


あぁ、自分はなんてバカなことを考えていたんだろう。

キスになんて、こだわらなくていいじゃないか。

ただ茉夏が隣にいて、一緒に笑ってくれればそれでいい。

って。


「当たり前じゃん。あたしはそんな奴らとは違うよ。」


あたしはそっと、茉夏を自分の胸に抱き寄せた。


「じゅっちゃん…」


あたしのワイシャツの裾をキュッと掴む茉夏に、さらに愛おしさが増した。

茉夏の頭を撫でながら、さっきまでしていた自分の堅い決心を、心の中で撤回する。


急がなくていい。

いつか、茉夏の気持ちの整理がついたら、その時で、いい。


「だから茉夏、安心してね?」


身体を離して、茉夏の顔を覗き込む。

いい子いい子って頭をポンポンしてあげれば、無邪気な笑顔を見せてくれた。


「ありがとう。じゅっちゃん大好き!」


その出来事はまるで、スローモーションのように感じた。


「…え?」


唇に覚えた温かな感触がなんなのか、目を何度も瞬かせても、信じられなかった。


カーテンがブワッと舞い上がる。


それと同時に、桜の花びらが教室に舞い込んだ。



「ま、茉夏、いまなにした?」

「もう、恥ずかしいよ!」


そそくさとあたしから距離を取り、照れ隠しなのかカーテンを身体に巻きつける茉夏は、やっぱりどこからどう見ても天使だった。


こんな天使にならこれから一生振り回されてもいいって、夢見心地に浸りながら思っていた。



~おわり~
こんにちは~!

さきおかです!


今日はバイトが朝番だったので、このあとは家でゆっくりします('∀`)


さて、昨日は1日オフだったので久しぶりに小説書きました!


珠理奈のお誕生日小説!

1日遅れてしまいましたが(;_;)


きみなつシリーズは自分も書いてて楽しいし、好評なので嬉しいです( *´艸`)

休止の前にもう一編くらい書けたらなーと思います!


そして、卒業シーズンということで、旅立ちの日シリーズも連載しております!

今のところ、じゅりれな編とさやみる編を更新しているのですが、あと二編ほど更新予定。

CPはお楽しみに(^^)


わたしも今年大学を卒業するのと、大学受験や高校受験が終わったと報告してくれた読者の方も結構いたので、なんだか書きたくなって書いております!!



更新予定を大幅に路線変更しまくりで気まぐれな作者ですが、これからもよろしくお願いしますね(´・∀・)ノ


さきおかでした!