スケジュール帳に、赤い丸を記した26日。
ついにこの日がやってきた。
せっかくのデートだというのに、朝から外は雨模様。
徐々に春の陽気が訪れ始めたのも台無しや。
昼過ぎ、山田さんからバイトが終わった連絡を受けてすぐに家を出た。
わ、結構降ってるやん。
予想以上に雨足が強くてげんなりしながら、傘を開いた。
ビチャビチャと水たまりをかき分けて歩く。
そんな通りすがりのバス停に。
傘もささずに、停留所のベンチで座る人がいた。
なにしてんねんこの人…。
ちょっと不気味に思いながら、チラリと横目に通り過ぎようとした…。
んやけど。
え、待って?
あたしはその怪しい人を二度見して、目を見開いた。
「みるきー?あんた、何してんねん!」
「…さ、やか…ちゃ…っ?」
だって、そこにいたんは、ずぶ濡れのみるきーやったから。
長い髪の毛がびっしょびしょになりながら、前に垂れ下がる。
小刻みに震え、その小さな身体を自身で抱きしめていた。
ひとまずみるきーを自分の傘の中に入れて、腕時計を確認する。
山田さんとの約束の時間までそんなに余裕がなかった。
「みるきー、とりあえず傘貸すから。これで家帰り?」
「…っ」
「ちょ、泣いてんの?」
「…ぐすん…っ」
あぁ、もう、あたしはどーすればいいんじゃ!
こんな所に、みるきーを一人置いて行くのは確かに気が引けるよ?
けど、約束があんねん。
告白するか否かがかかった、割と大事な約束があんねんっ!
「みるきー、うちからタオルと着替え持ってこようか?」
「……っ、いらん…」
消え入りそうな声で呟くみるきーは、弱々しくあたしの腕を掴んだ。
「…あかちゃん…できた…」
「………は?」
こいつの言葉はいつだって爆弾発言やけど。
いやいや、今の発言は爆弾どころやないで。
どこの核弾頭持ち込んで来てん。
「みるきー、いまなんて…?」
「お腹に…赤ちゃんできた…」
みるきーは俯いたまま、自分のお腹をさする。
おいおいおい、まじかよ。
頭から血の気が引いて行くのが分かった。
「父親は?誰なん?」
「…振られた。」
「は?」
「やから、その人に話したら、振られた。」
「………!」
驚きなのか、怒りなのか、呆れなのか。
色んな感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、呼吸をするのもやっとの状況。
誰が悪いとか、誰のせいとか、そんな犯人探しも面倒くさくて。
だからと言って、完全に赤の他人なあたしがこの場で自分の感情をそのまま露わにするのも違う気がして。
「ちょっと来い」
「ど、どこ行くん…?」
もう何が何だかわからなかったから、とりあえずみるきーをウチに連れて帰ることにした。
マンションに辿り着き、エレベーターで上にあがる。
自室の鍵を開けて、中に入る。
それまでずっと、みるきーの腕を掴んでいた。
みるきーはおとなしくしていた。
そしてリビングに入った瞬間、あたしは電気をつけるより先に、みるきーをこの胸に抱き締めた。
「こっんのどあほ!!」
あたしの怒鳴り声は部屋中に響き渡り、そしてまたシンとした。
みるきーと密着する部分から、彼女の衣服の雨水が滲み渡ってきて、徐々に冷たくなる。
一瞬鳥肌が立ったけれど、みるきーはずっとこんな状態だったのかと思うと、胸が苦しかった。
「こんなちっさい身体で一人で抱え込んで、傷ついて、あほすぎるやろ。」
あたしは、抱き締めたみるきーの頭をそっと撫でた。
すると、腕の中で収まるみるきーが、少しあたしの胸に身体を預けてきたのが分かった。
「辛かったやんな。」
こんな自業自得女に優しくする必要なんかないのに。
義理立てしたっていいことなんかないのに。
絶望の淵にいるみるきーが放っておけなくて、その絶望から救ってあげたくて。
ズボンのポケットで震える携帯のバイブを頭の片隅で感じながら、あたしはさらに強くみるきーを抱き締めた。
例えば真面目の定義が、誠実であるとか、決まりを守るとか、そういうのであるなら。
あたしは全くちゃうくて。
結局は自分に都合のいいことしか考えてへん最悪な奴やで。
みるきーの顔を覗くと、涙でぐしゃぐしゃだった。
濡れた顔を手の平で乱暴に拭ってやると、
「もうちょっと優しくしてや」
って、みるきーの笑顔が見れた。
そんな些細なことだけで、ホッとして、満たされて、それでもまだ物足りなくて。
あたしは夢中で、みるきーの唇に自分の唇を押し当てた。
「…っ!」
みるきーが、一瞬驚いた顔をしたのを、薄目に見ていた。
いつもは振り回されてばかりのあたしが、今日ばかりはしてやったと優越感に浸る。
彼女の背中に回した腕を片方は腰辺りまで下ろし、もう片方はうなじ辺りまで摩り上げる。
顔の角度を変えながら尚も唇を求めれば、みるきーはあたしの首に腕を回して、すっかり女の顔になっていた。
あぁ、やばい。
ドキドキが止まらへん。
どんだけ色っぽい顔してんねんこいつ。
角度を変えるだけじゃ物足りなくて、啄ばむようなキスに変えれば、みるきーはニヤッとして、あたしの上唇をペロッと舐めてくる。
背筋になんともいえない感覚が走る。
気づけばみるきーは、デート用に着てきた、あたしの割と高めのシャツのボタンに手を掛けていて。
その慣れた手つきに見ないふりをして、あたしもみるきーの服の裾から中に手を忍び入れた。
キャミソールの上から脇腹を撫でると、ボタンを外す手のスピードが上がるみるきー。
あたしが真面目なのは外面だけで。
なんだかんだ、衝動に任されれば一線だって越えるし。
先の約束だって平気で破るし。
結局はいつも自分が中心。
真面目なんかじゃ、全くないんや。
尚も鳴り続けるバイブがうるさくて、携帯をそこらへんに投げ捨てて。
代わりにみるきーを、ベッドの上に押し倒した。
~つづく~
ついにこの日がやってきた。
せっかくのデートだというのに、朝から外は雨模様。
徐々に春の陽気が訪れ始めたのも台無しや。
昼過ぎ、山田さんからバイトが終わった連絡を受けてすぐに家を出た。
わ、結構降ってるやん。
予想以上に雨足が強くてげんなりしながら、傘を開いた。
ビチャビチャと水たまりをかき分けて歩く。
そんな通りすがりのバス停に。
傘もささずに、停留所のベンチで座る人がいた。
なにしてんねんこの人…。
ちょっと不気味に思いながら、チラリと横目に通り過ぎようとした…。
んやけど。
え、待って?
あたしはその怪しい人を二度見して、目を見開いた。
「みるきー?あんた、何してんねん!」
「…さ、やか…ちゃ…っ?」
だって、そこにいたんは、ずぶ濡れのみるきーやったから。
長い髪の毛がびっしょびしょになりながら、前に垂れ下がる。
小刻みに震え、その小さな身体を自身で抱きしめていた。
ひとまずみるきーを自分の傘の中に入れて、腕時計を確認する。
山田さんとの約束の時間までそんなに余裕がなかった。
「みるきー、とりあえず傘貸すから。これで家帰り?」
「…っ」
「ちょ、泣いてんの?」
「…ぐすん…っ」
あぁ、もう、あたしはどーすればいいんじゃ!
こんな所に、みるきーを一人置いて行くのは確かに気が引けるよ?
けど、約束があんねん。
告白するか否かがかかった、割と大事な約束があんねんっ!
「みるきー、うちからタオルと着替え持ってこようか?」
「……っ、いらん…」
消え入りそうな声で呟くみるきーは、弱々しくあたしの腕を掴んだ。
「…あかちゃん…できた…」
「………は?」
こいつの言葉はいつだって爆弾発言やけど。
いやいや、今の発言は爆弾どころやないで。
どこの核弾頭持ち込んで来てん。
「みるきー、いまなんて…?」
「お腹に…赤ちゃんできた…」
みるきーは俯いたまま、自分のお腹をさする。
おいおいおい、まじかよ。
頭から血の気が引いて行くのが分かった。
「父親は?誰なん?」
「…振られた。」
「は?」
「やから、その人に話したら、振られた。」
「………!」
驚きなのか、怒りなのか、呆れなのか。
色んな感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、呼吸をするのもやっとの状況。
誰が悪いとか、誰のせいとか、そんな犯人探しも面倒くさくて。
だからと言って、完全に赤の他人なあたしがこの場で自分の感情をそのまま露わにするのも違う気がして。
「ちょっと来い」
「ど、どこ行くん…?」
もう何が何だかわからなかったから、とりあえずみるきーをウチに連れて帰ることにした。
マンションに辿り着き、エレベーターで上にあがる。
自室の鍵を開けて、中に入る。
それまでずっと、みるきーの腕を掴んでいた。
みるきーはおとなしくしていた。
そしてリビングに入った瞬間、あたしは電気をつけるより先に、みるきーをこの胸に抱き締めた。
「こっんのどあほ!!」
あたしの怒鳴り声は部屋中に響き渡り、そしてまたシンとした。
みるきーと密着する部分から、彼女の衣服の雨水が滲み渡ってきて、徐々に冷たくなる。
一瞬鳥肌が立ったけれど、みるきーはずっとこんな状態だったのかと思うと、胸が苦しかった。
「こんなちっさい身体で一人で抱え込んで、傷ついて、あほすぎるやろ。」
あたしは、抱き締めたみるきーの頭をそっと撫でた。
すると、腕の中で収まるみるきーが、少しあたしの胸に身体を預けてきたのが分かった。
「辛かったやんな。」
こんな自業自得女に優しくする必要なんかないのに。
義理立てしたっていいことなんかないのに。
絶望の淵にいるみるきーが放っておけなくて、その絶望から救ってあげたくて。
ズボンのポケットで震える携帯のバイブを頭の片隅で感じながら、あたしはさらに強くみるきーを抱き締めた。
例えば真面目の定義が、誠実であるとか、決まりを守るとか、そういうのであるなら。
あたしは全くちゃうくて。
結局は自分に都合のいいことしか考えてへん最悪な奴やで。
みるきーの顔を覗くと、涙でぐしゃぐしゃだった。
濡れた顔を手の平で乱暴に拭ってやると、
「もうちょっと優しくしてや」
って、みるきーの笑顔が見れた。
そんな些細なことだけで、ホッとして、満たされて、それでもまだ物足りなくて。
あたしは夢中で、みるきーの唇に自分の唇を押し当てた。
「…っ!」
みるきーが、一瞬驚いた顔をしたのを、薄目に見ていた。
いつもは振り回されてばかりのあたしが、今日ばかりはしてやったと優越感に浸る。
彼女の背中に回した腕を片方は腰辺りまで下ろし、もう片方はうなじ辺りまで摩り上げる。
顔の角度を変えながら尚も唇を求めれば、みるきーはあたしの首に腕を回して、すっかり女の顔になっていた。
あぁ、やばい。
ドキドキが止まらへん。
どんだけ色っぽい顔してんねんこいつ。
角度を変えるだけじゃ物足りなくて、啄ばむようなキスに変えれば、みるきーはニヤッとして、あたしの上唇をペロッと舐めてくる。
背筋になんともいえない感覚が走る。
気づけばみるきーは、デート用に着てきた、あたしの割と高めのシャツのボタンに手を掛けていて。
その慣れた手つきに見ないふりをして、あたしもみるきーの服の裾から中に手を忍び入れた。
キャミソールの上から脇腹を撫でると、ボタンを外す手のスピードが上がるみるきー。
あたしが真面目なのは外面だけで。
なんだかんだ、衝動に任されれば一線だって越えるし。
先の約束だって平気で破るし。
結局はいつも自分が中心。
真面目なんかじゃ、全くないんや。
尚も鳴り続けるバイブがうるさくて、携帯をそこらへんに投げ捨てて。
代わりにみるきーを、ベッドの上に押し倒した。
~つづく~