②からのつづき
(鎌倉時代)
・ 後鳥羽上皇;
『新古今和歌集』の仮名序
天皇が和歌を詠むことは祈りそのものであり、和歌を詠むことで自ずと民を束ね国を治めることは、天皇統治の理想と言える。
天皇陛下が御製(ぎょせい)を詠まれることの意味。
御製=天皇陛下の和歌
(余談)
言霊信仰を信じてみるなら「祈り」の御製はより深い意味を持つ存在になる。
宗教(神道)に根差した存在である天皇陛下が詠まれることで御製に不思議な力が認められるならば、単に詩歌趣味ではない特殊な霊性を孕んだ言霊として認識されるだろう。
・ 順徳天皇;
『禁秘抄』 天皇とはこうあるべきという、心構えを収める。
天皇自ら有職故実を解説。天皇の心構えや、宮中祭祀、宮中の日常、天皇が習うべき学問や学術
類書はなく、後代の歴代天皇が模範としたと思われる。p.334
歴代天皇が自らを律する指南書の存在。
・ 花園天皇;
『花園天皇宸記』
長雨が続いて民の苦しみに思いを寄せる記事や、火事に心を痛めて「朕の不徳」と示す他、「学道之記」の冒頭には「学問の目的はただ文字を識り、博学になるためのものではなく、本性に達し、道義をおさめ、礼儀を知り、状況の変化を弁(わきま)え、過去を未来に活用するためにある」 p.335
宸筆(しんぴつ)(天子の直筆の意)の日記
祭祀を司る者として天皇として国をよくしたいという想いや責任。
・ 後鳥羽上皇;
承久の変(1221)
後鳥羽上皇が鎌倉を討伐せよと院宣を発する。この時、当時の人々に漠然と共有されていた「天皇」観の一端を知ることができる。(『増鏡』より)
迎え討つ鎌倉方の北条泰時・義時親子のやりとり。子、泰時が父、義時に、問うところ。
(後鳥羽)上皇自ら兵を率いて現れた場合の対処を父に尋ねると、義時は「よくそれを尋ねた。上皇の御輿に弓は引けぬ。その時は直ちに兜を脱ぎ、弓の弦を切って、降伏して上皇に身を任せよ。しかし、もし上皇は都においでになり、軍兵だけを差し遣わすのなら、その時は、命を捨てて千人が一人になるまでも戦うべし」と言い、それを聞いた泰時は急いで出立したという。p.322
それに対し筆者は、
「敵将が自ら兵を率いて現れたら、無条件に降伏せよという」
「世界史の常識では理解されないだろう」
と書いています。
(余談)
常に上には帝がおられる、という意識が、(この国の)実権を握った権力者たちの間にもなおもってあった…
(余談)
天皇≒民説
民、土地、豊富な自然(収穫物)は、大御宝(おおみたから)であり、それらは「天皇」とその先祖神に帰するものである。
故に、この国の歴史に幾人も台頭した権力者にも、天皇に帰する民、土地、自然(収穫物=稲)を無下に扱えないところがあった。少なくとも一定の配慮や遠慮があったのではないか。日本には、他の国の戦争のように、勝った側が、負けた側の領民を自国(中世までは都市国家)へ連行し、奴隷にするという慣習が元よりなかった。戦国時代、来日したポルトガル人はキリシタン大名を通し日本人を奴隷として海外へ売っていた。アフリカに行けば、黒人をごく自然に奴隷にし欧米大陸に強制連行し人身売買した。日本では、一般人の住む都市を破壊したり、虐殺、窃盗、放火などをすることが少なかった。なるべく百姓・領民の土地を荒らさなかった。(もちろん例外はある)
海外と比べると、比較的、権力者は百姓などを大事に扱った。一般市民への虐殺・強盗をしなかった。
基本、戦とは、軍隊と軍隊の戦いであり、民間人に被害の出ない場所へ移動して行うのが一般的だった。
西欧では、17世紀に、ウエストファリア条約が締結されようやく戦争下でのルールが意識されるようになった。
西欧では、戦争に勝つため市民を襲うことが度々あった。
先の大戦では、アメリカはこの条約を一切無視し、一般市民へ空襲、広島・長崎へ原子爆弾を投下した。
(日本も、一部、外国人捕虜を殺したり、強制労働させたことがあった。タイでの鉄道建設など)
(室町時代)
・ 足利義満;
① 室町幕府将軍。金閣(鹿苑)寺。東北での金山の発見。商業の発展。
② 「天皇」の行政・祭祀的な権限を一つずつ剥がしていった。南北朝分断終結の際、三種の神器を入手すると(その条件であった)南朝と北朝との交代制での「天皇」践祚(せんそ)の約束も簡単に反故にした。
践祚(せんそ)=天皇位を継ぐこと。
(余談)
天皇に対する軽い扱いが、上の者に対して敬意を払わない風潮を生み、のちに下剋上を招く。
(戦国時代)
・ 正親町(おおぎまち)天皇; 織田信長との距離…微妙な関係についての解釈。文献を見る限り、はっきりと不仲とは言い切れない。当時、御所の壊れた壁を直す予算も用意できなかった朝廷に信長は資金提供し、長らく途絶えていた天皇の祭祀行事を復活させた。正親町天皇はご自身の御意見をはっきり信長にお伝えになった。
ここらへんは、前回のNHK大河ドラマ『麒麟が来る』と意見が相違する。
(つづく)