東大受験者の間で、過去問への取り組み方が一番バラエティに富む科目が数学でしょう。

 まず、目標点が人によって大幅に異なります。理系でも数学が不得意で2完で御の字という数弱受験生から、最低でも4完、できれば5完というような数強受験生もいます。普段の使用教材や勉強法からして大幅に異なるでしょうし、実力が違えば過去問の適切な使い方にも違いがあるのは当然です。

 数学は、過去問教材の豊富さでも異彩を放っています。年度ごとの赤本・青本、科目ごとの赤本(1997~2021年・25年分)・青本(1995~2019年・25年分)に加えて、言わずと知れた鉄緑会の問題集(40年分のものは1981年~2020年)、大学への数学「東大・入試数学50年の軌跡(1971~2020年)、河合塾「東京大学数学入試問題72年」(1949~2020年)などがあって、他科目よりも、遡った過去問を容易に入手することができます。さらに、「東大数学で1点でも多く取る方法」(安田亨・東京出版)や「世界一わかりやすい東大の〇系数学合格講座」(築舘一英・KADOKAWA:絶版になっているようです)を始めとする、お手軽な東大数学攻略を狙った本が多数出版されています。

 後で触れますが、数学の場合は年度ごとに解くことが重要なので、25年分の赤本のみの利用は避け、他の本と併用するか過去問講座を受けることをお勧めします。お勧めの本は、レイアウトが見やすく、別解も豊富な鉄緑会東大数学問題集です。鉄緑会40年分のものは定価\19,800でお高いですが、メルカリで半額程度で出品されることもあります。

 

 数学の入試問題は大学ごとの難易度の差が一番大きいため

【目的1】「出題形式・傾向及び難易度を把握する」

という目的のために過去問に当たって、自分の実力との差を計り、勉強の方向性を決めることは重要です。しかし、東大の場合、網羅系参考書や問題集を完璧に理解していたとしても、初見では解答の方針さえ見つけられないと感じることがほとんどだと思います。ですから、ほとんどの人は最初に過去問を解こうとするときには絶望感を味わうことになりますし、実力不足のままですと、東大入試問題と自分との距離を測ることさえできないおそれがあります。

 そこで、【目的1】のために過去問に当たるにしても、その時期が重要になりますが、東大理系の場合、数学Ⅲの知識がなくても解ける問題が6問中3問はあるのが通常なので、まずは、数学ⅠA・ⅡBの網羅系参考書を、ほとんどの問題で解法がすぐに浮かぶようになるまで仕上げたら、数学Ⅲの知識がなくても解ける問題を集めて解いてみるのがよいでしょう。後で触れますが、抽出するのは旧課程の行列が出題された2007年、2009年、2012年、2013年の理系問題(もちろん行列以外の問題)がよいでしょう。あと、少し問題自体が簡単になってしまいますが、文系数学の過去問を利用するのもアリだと思います。

 東大を受験しようがしまいが、網羅系参考書を完璧にする段階までは、勉強内容は同じなので、その段階より前に過去問を解いても勉強方針が変わるわけではありません。無理して早い時期に東大過去問を解いてみる必要まではないと思います。

 

 次に

【目的2】2次試験レベルの問題集として、要するに実力向上のインプット教材として使ったり、東大の問題に慣れるために使う

についてです。

 【目的1】で解いてみて、半分以上完答できるような受験生は、難しい問題集をこなすとともに、バリバリ過去問を解き進めればよいと思いますが、そうではない通常の受験生の中にも、【目的2】のために過去問を使おうとする受験生もいます。典型的なのが、「東大数学で1点でも多く取る方法」などのお手軽本を最初から又は分野ごとに解いていこうとする人です。

 しかし、私は、以下のような理由から、このようなお手軽本による対策はデメリットが大きいと考えます。

 東大の場合は過去問と同じような問題が出題されることはめったにないため、本番の入試問題は結局は初見の問題ばかりであることがほとんどであり、東大の過去問のうち特定の問題が解けたり、特定の解法を使えるになったとしても、それだけでは本番の点数にはつながりません(京大だと過去の出題と似たような問題が出題されることもあるので状況が多少違うと思いますが。)。

 他方、先に述べたようなお手軽本を使って、最初から又は分野ごとに解いてしまうと

【目的3】解答順序及び時間配分の方針を立てられるようにする。 

ための過去問利用の障害となる可能性があります。

 この点の説明はやや長くなりますが、東大の数学入試問題は小問で誘導されるので、東大受験レベルまで勉強してきた受験生は、1問40分かけてよいという条件で理系の6問を解いた場合、3問完答できたり、部分点を積み上げて、合計60点を取ることは難しくないでしょう。そうであれば、最初の20分間で解けそうな問題3~4問を的確に判断できれば、130分間残っていますので、60点取ることは難しくないということになります。3完を目指す程度の受験生にとって、過去問で一番養うべき能力は、時間制限を見据えて、解けそうな問題を探す、要するに問題の取捨選択能力です。そのためには、年度ごとの6問をワンセットで解き、解けそうな問題に時間を振り分ける訓練を重ねる必要があります。

 先に述べたようなお手軽本を最初から又は分野ごとに解いてしまうと、年度ごとのワンセットの中に知っている問題が含まれる場合が生じて、問題の取捨選択を短時間で終える訓練の障害になります。このようなお手軽本の理想的な使い方は、鉄緑会問題集等で演習した後に数種類掲載されている解法のうちどれを使うべきか判断するために、参照するやり方だと思います。

 本格的な過去問演習に入る前に、どうしてもお手軽本で東大過去問演習を行って実力と自信を向上させたいというのであれば、掲載されている問題のうち、前述の旧課程の行列が出題された年の理系問題を選ぶか、文系用を使って理系には出題されなかった問題のみを使うのがよいと思います。

【目的4】獲得できる点数の予測を立てる

については、数学では各回の点数のブレが大きく、精緻に予測することが困難なので、それほど重視しなくてもよいと思います。