―――ちりん、ちりん。



大窓から風が入ってくるとともに耳に響く小さく軽い音。





「ザック、これはなんだ?」



「ん?ああ、アルフか。リアお嬢様が異国から取り寄せたものだってさ。魏の国の風鈴と言うそうだ」



「風鈴かぁ」





―――――ちりん、





「うん、いい音色だ」





4800坪という広大な土地に120以上の部屋のある屋敷を持つ伯爵位フェリクス家。

現当主であるダレン・フェリクスは、曽祖父の代から続く事業を大きく発展させ手広く事業拡大へと進めており。

総資産は英国の中でも上を位置するほどの資産家でもある。

その妻も温厚な女性で、3人の子供に恵まれ幸せな家庭を築いている。



リアお嬢様というのはその中で2人目の子どもにあたり、母親に似て誰にでも優しく温厚な性格であるが色々なことに興味を持ち、異国の物を取り寄せては自分の部屋だけでなく使用人たちの宿舎にも飾る事が毎回の事となっている。





「そのお嬢様は今どこにいるかしってるか?」



「えーっと、確か庭の木陰で読書していたはずだけど・・・またお遣い?」





アルフの手にしている紙袋を見て苦笑いするザック。
それに笑顔で、ああ、とかえす。
リアには御付きのメイドがいるのだが、着替えや浴時など以外の用事をアルフに頼むことが多く今のように街の図書館に本を借りてきてほしいなどの遣いを出すのだ。
アルフ自身、御付きのメイドに少し悪いとは思うが街の図書館にはプライベートでも利用するため何がどこにあるのか詳しく把握していることもあり自分が役に立てるならと良しと思っている。





「じゃあ行ってくる」



「はーい」





とは言ったものの広大な庭には木なんてたくさんあるため毎回探すのも一苦労。
見つけ出すのに20分くらいかかることも少なくはない。





「あ、みつけました」



「アルフ!今日は早かったわね」



「毎回毎回読む場所変えなくても庭園にベンチがあるんですからそこで読めばよろしいのに・・・」



「いいの。こうやって芝生の上に座って読書するのが好きなんだもの。それにアルフが探してくれるのもか
くれんぼみたいで楽しいじゃない」





それはもう楽しそうに笑うものだから、走り回って探した疲れなんてどうでもよくなってしまう。
これも毎回の事なのだが、リアは見つけるとすごく嬉しそうな顔をする。
まるで子どものように。





「俺にも仕事があるんですから・・・」



「また敬語」



「しょうがないでしょう。俺は使用人でお嬢様は主人なんですから」



「子どもの頃みたいに普通に話して」



「子どもの頃って・・・もう8年も前のことです。リアお嬢様もそろそろ上流階級としての威厳をですね」



「そんなの関係ない。私は昔みたいに遊んだり、本を読んだりしたいだけなのに・・・」



「それなら妹のニーナお嬢様と遊んであげてはどうしょう。きっと喜ばれますよ」





それがいい!と名案とばかりに笑顔で言い放つアルフに、リアは小さなため息をもらす。




「リアお嬢様、ため息は幸せが逃げますよ?」




確かに妹のニーナは10歳で遊び盛りで、仲もいいし遊んだりもする。
だがこの場合どうとっても〝アルフと〟という言葉になるはずなのに、それに気づかずにいつもとかわらぬ笑顔を向けるものだから。





「もう、この鈍感執事さんっ」



「いひゃいれふ~っ」





思いっきり頬を引っ張ってやったそうな。



 【続】